冒険に出れるの?
コタが来た乾季が過ぎ、雨季が来てボクは18になった。
コタはボク達と一緒に依頼を受けたり、ちょっとした料理を広めたり、村長を始めとする人々にもふられ、村に馴染んでいった。
ショーユが手に入ったことで、オシタシの完成版を食べたけど、ショーユってこんな使い方をするんだと、皆感心していた。
テンプラもボクは塩よりショーユ派だ。
後は小麦と塩を使って【オウドン】と言うものも作ってくれた。
【コロウドン】も美味しかったけど、商人が海辺の村から持ってきた、乾燥させた小魚を使って【オダシをトル】とかで、暖かいウドンや、【テンツユ】は、それまで食べたものが、それ以上の味になって感動した。
それに、小麦と卵を使った【ナンチャッテオコノミヤキ ショーユバージョン】は、姉さん大絶賛だ。
コタは凄いな。
*****
雨季も開け、年明けの鐘が鳴り響き、新しい年が始まった。
恒例の行事として、村長の家で年明け宴会が行われた時、お酒好きな姉さんにしては、一滴も飲まないので不思議に思っていたんだけれど、その理由は帰宅後に知れた。
「マコ!暖季になったら冒険に出るわよ!」
いつかは言い出すと思っていたので、冒険に出ると言ったことには驚きはなかった。
子供の頃からの姉さんの夢なのだから。
驚いたのは、村長が許可をしたことだ。
両親は元から好きにすればいいと言うスタンスだったので、止めないだろう。
でも村長は、まるで自分の子供……孫のように心配しているから、昔話でしか聞いたことのない冒険者と言う仕事も、本当の意味では賛成していない様に感じる。
村の中だけで、村の人達の依頼を受けるだけならまだしも、本当に村を出て行こうとしているとは、思っていなかったのかも知れない。
ただ憧れの仕事をやっていると言う事実で満足すると、村長的には思っていたんじゃないかな。
だけど姉さんの夢にかける気持ちが、狭い村だけで満たされていないのは、一緒にいるボクにはわかっていた。
だから、いずれ村を出ると言い出すと思っていたけど、その時は、冒険者をやると言った時のように村長が、色々理由を付けて止めると思っていた。
「去年から説得してたのがやっと実ったわ!」
嬉しそうに姉さんは言うけれど、
「え?去年から?」
「そうよ、去年の年明けに、マコが成人したら旅に出るって言ってたんだけど、ずっと許可されなかったのよね」
そんな話ボクは聞いてないけど?
ボクって当事者だよね?
「やっと許可してくれたの。
勿論条件はあるけどね」
あ、やっぱりすんなりとは許可は出なかった様だ。
「条件って?」
「まずは定期的に連絡が取れるように、伝書鳥を躾けること。
それからマコ以外にもパーティを見つけて、最低5人以上で行動することだって。
たった二つの条件なんだよ」
村長の条件って、たった二つだけど、なかなか困難だと思う。
伝書鳥は、鷹や隼、烏などが主流だけど、素人が躾けるのはかなりハードルが高い。
それだけで出発するのがどれだけ先になることやら。
それに5人以上のパーティって言うけれど、この村に若者は少ない。
村人自体が少ないんだけど、数少ない若者は、ボク達以外は既婚者だ。
既婚者が家族を置いて冒険に出るなんてありえないだろう。
確かに【たった二つ】かも知れないけど、クリアするのは難しいと思う。
村長としては、その条件を満たす前に姉さんに見合いでもさせて、うやむやにでもするつもりなんじゃないかな、とか思うのは、ボクの考え過ぎかな。
「マコ、いつでも出発できる準備をしておくのよ」
「……いや、姉さん、条件満たさないうちから準備するのは、気が早すぎない?」
ちょっと引いて言うボクに、何か考えがあるのか、企み顔で姉さんは笑う。
「ふふふふふふ、準備さえ終われば明日にでも出発できるわよ」
「いや、条件満たしていないじゃないか」
「マ〜コ〜ちゃ〜ん、条件なんて既に満たしているわよ」
ニャリと笑った姉さんの顔が怖い……。