試食会
次の日、村の手の空いている男連中と山に入り、コタの指導のもと山菜を集めた。
集めた山菜は、テンプラ(小麦の液を付けて油で揚げたもの)とオシタシ(茹でて塩を振ったもの)とか言う調理方法で、皆で食べたけど、今まで食べたことのない味わいだった。
「このほろ苦さが俺は好きだな」
「私は苦いのはちょっと苦手だけど、このネバネバしたのは面白い食感だわね」
「このシャキシャキしたの好きだな」
「このほこほこしたの美味しい」
「ゴマを振り掛けるとまた味が変わるぞ」
「なに?こっちにもゴマ回してくれ」
「肉食べて胃が重くなったらこのサンサイ?食べると胃が落ち着くわね」
「キノコが美味しい……」
「しかもキノコの入ったスープも美味しいわ」
「今まで食べてなかった事が悔やまれるな」
村中の住民が村長の家に集まり試食会だ。
好き嫌いはあるけれど、色んな味や食感があり、大好評のようだ。
「おひたしは本当は醤油で食べるものなんだけど。
あと鰹節振り掛けても美味しいんだけど、両方とも無いよね」
相変わらずタヌキ姿で村長の膝の上だ。
「ショーユとか言うのはあのまずい汁か?
確か他の村で作った調味料とか言って商人が持ってたけど、あれで作ったスープは食べれたもんじゃなかったぞ」
「肉に付けて焼いたら、焦げるし辛いしで散々だったわよ」
ボクも食べたけど、あれは不味かった。
「えー、お出汁もなしに醤油をお湯で薄めてなんて無いよー。
お肉も付けて焼くんじゃなくて、焼いたお肉に付けたり、砂糖入れて甘くしてとか?
醤油って食べる時に付けるもの…だよ多分」
「ほう、それなら次に商人が来た時、もう一度入手してみようかの」
「コタが言うなら、食べ方さえ変えたら美味しくなるのかもな」
村長達の言葉にボクも同意だ。
コタの言う料理は美味しい。
ならショーユも美味しく食べれるのだろう。
しかしまた新しい言葉だ。
【オダシ】って何だろう?
「あとね、キノコは本当に気をつけないと、危ないからね。
オイラも見た目だけじゃなくて、匂いでも判断してるんだから」
「匂いか!なら任せな!
オレはワーウルフハーフだから、鼻は効くぞ」
「じゃあ明日キノコ狩りに一緒に行こうか」
「狩か!植物なのに狩とは面白い事言うな」
「別にオイラが言い出した事じゃないから。
でも確かに何で狩なんだろう?」
村長とコタの周りに集まった村人達と、話している間も、村長のコタを撫でる手は止まらない。
「本当に気持ちの良い手触りじゃのう」
横から手を出した村長の奥さんや、息子さん達も代わる代わるに撫でている。
「ふかふかだな」
「外はしっかりしてるけど、内は柔らかくて気持ちいいわね」
確かにコタの手触りは魅惑的だ。
「こう言うのはね、ふかふかじゃなくてもふもふって言うんだよ」
「もふもふ……」
「もふもふか」
「もふもふだわね」
もふもふ言っている村長一家の呟きに感化されたのか、
「もう辛抱たまらん!村長!俺にも触らせろ!」
「狡いぞ!オレも触る!」
「ちょっと待ってよ!女性に先を譲りなさいよ!」
「あなた!私より先に触るなんて事しないわよね!」
………もうそこからは、皆がコタを取り囲みもふもふもふもふもふもふもふもふ……。
ひとしきりもふもふした村人は、恍惚とした表情で、もふもふ談義をしている。
村の大人達の新たな一面を見た気がした。
*****
「あのまま村長の家に泊まると思ったよ」
試食会?の後はそのまま大人は飲み会へと突入したので、あまりお酒に強くないボクは家に戻った。
姉さんは飲み会に残っている。
場を去ろうとしたボクに気づいたコタは、
「オイラも行く」
と、村長の膝の上から飛び降り、人型に戻ってボクについて来た。
「オイラ爺ちゃんっ子だから、村長さん好きだけど、流石にずっと膝の上はねぇ…。
それにオイラの魅惑のもふもふの素晴らしさは、異世界でも虜を増やすのはわかるけどさ……あまりにももふもふされ過ぎてハゲそうだから逃げてきた」
「あー…確かに皆に揉みくちゃにされてたよねー」
「限度を考えて欲しいよ」
頭の後ろで腕を組み、夜空を見上げながら隣を歩くコタは、ちょっとご機嫌斜めだ。
「しかしコタは凄いな。
食べられる物もよく知ってるし、料理も詳しいんだね」
「食べられる物は、元々山の中で暮らしてるから、山菜摘みは子供の仕事だし、料理は婆ちゃんの料理を見てて覚えたんだけど、料理って言うほどのものじゃないよ。
おひたしは茹でて搾るだけだし、天ぷらだって母さんや婆ちゃんが揚げたのって、もっとパリパリしてて美味しかったし。
オイラのいた日本って、食べ物にかける情熱は凄かったからね。
オイラは簡単な田舎料理の作り方を薄っすら知ってるくらいだよ」
「でも色々美味しかったよ。
これから村でも美味しいものが食べられるのは嬉しいし。
作ってくれて、教えてくれてありがとう」
ボクが言うとコタは照れたように笑った。
そうして話しているうちに家に着いたので、ボクの部屋へと案内する。
「他の皆はしばらく帰ってこないから、先に寝ようか。
予備の毛布があったと思うから持ってくるね」
ボクが部屋を出ようとすると、コタに呼び止められた。
「マコちゃん、寝る前に昨日もお風呂に入ってないから、お風呂借りたいんだけど。
あといい加減歯も磨きたい」
コタに言われた言葉がわからない。
「オフロとハモミガキタイって何?」
ボクが聞くと、コタは大きなため息をついた。
「はーー、異世界あるあるあか。
お風呂が無いとか、貴族の家にしか無いってよくあるパターンだよね。
そしてオイラがこの世界にお風呂を広めるって流れでしょ?
はいはい、やりますよ。
しかし歯磨きの習慣も無いの?
口の中モヤモヤするじゃん。
え?でも皆歯磨いてない割には口臭無いよね?
何か代用品があるの?」
またコタが意味不明な言葉を連ねているかと思ったら、質問された。
「口の中が不快な時はこの葉を噛むと良いよ」
割とどこにでも生えている低木の木の葉を渡すとコタは、スンスンと匂いを嗅いでから口に入れた。
「んー、味も匂いもハッカ系?
ちょっと粘りがあってガムっぽい?
歯みがきガムって感じかな?」
しばらく噛んでから、ぺっと吐き出した。
「んー、さっぱりはするけど、なんだか物足りないって言うか、やっぱり磨きたい。
なーんとなくな記憶だけど、映画で見たシーンでなんかあったよな。
マコちゃん塩とコップ一杯の水ちょうだい」
言われたものを渡すと、指先に塩をつけて、その指を口に突っ込み動かしている。
ハヲミガイテイルのか?
気がすむまで指を動かしたあと、口をすすぎ、窓から外へぺっと吐き出す。
「はー、スッキリした。
やっぱり磨かないともやっとするよね。
風呂は明日だね。
でも五右衛門風呂作るには鉄がいるし、風呂釜ってどうすれば良いの?
うーん、岩風呂ってのも無理っぽいし、木で作っても火を炊くと燃えるし……どうすんの?
まぁ明日考えればいいか。
さあマコちゃん、寝よ寝よ」
相変わらず一人で喋るだけ喋ったら気が済んだのか、コタはタヌキ姿に戻って寝台によじ登った。
自由な子だなぁと思いながら、ボクも寝台で横になった。




