笛吹を別読みしてみると
ようやくこの展開に至ったかとやっと一息つけました。
何でこんなに長くなったのか、一重に私の文才が無いからですね(笑)
椿城から帰った風兎と二三は伯田呉汰のいる荷馬車へと向かう。
数回扉を叩くと中から入れと声をかけられたので中に入り、伯田の前に座った。
「ただいま帰りました」
「うむ、ご苦労。
して結果はどうじゃった?」
「少し問題は起きましたが何とかなりましたので大成功とまではいかなくとも成功したとは言えるでしょうねぇ。
『扇風機』に関しては三台金75両と、詳しい事は風兎ちゃんから聞いて下さいなぁ」
「あいわかった………それにしても金75両とな?
予想以上だのう」
「それもこれも風兎ちゃんの交渉の賜物ですよぅ。
本当、惚れ惚れする様な話術でしたわぁ」
首を傾げ頬に手を当てた二三の表情はうっとりしている。
そんな二三を見て風兎は苦笑いを浮かべた。
「いやいや、二三さんの方が凄いと思いますよ?
色気皆無な私には出来ない手管とか色々と勉強になりました」
生かせるかは別だがな、と心中で呟く。
そんな風兎に二三は笑った後にふと真面目な表情をする。
「それと、やはり色々と狙われましたわねぇ。
一度目は私がいましたが、二度目は本人が撃退しておりましたよ?
燎次に関しては少し正体見せてしまいましたしそろそろ教えて上げても宜しいのでは?」
「は?正体?」
頭の上に疑問符を浮かべる風兎を他所に二三の言葉を聞いた伯田呉汰はしばらく考えこんだ。
が、直ぐに頷いた。
「そうじゃな、風兎さんがきてまだ2週間やそこらじゃが充分信用に足る人物と分かったしそろそろ良いやもしれん。
………ワシらと同類かは謎じゃがのぅ」
「確かに、謎ですねぇ」
「?」
まじまじと見てくる二人に風兎は更なる疑問符を浮かべる。
「さて、風兎さんや」
「はい」
若干出で立ちを直し、風兎は伯田と向かい合った。
「これからお見せすること、話す事は他言無用じゃ。
くれぐれもよろしく頼む」
「……分かりました。
信頼を裏切ることの無いようにします」
「ありがとう。
まず、これを見てくれるかのぅ」
そう言った途端、伯田のいる場所からバキバキと何かの折れる様な音、ミシミシと肉の蠢く音が聞こえ始めた。
風兎は音に動揺したが持ち前の無表情でそれをカバーする。
「ふー、やはりこの姿じゃと肩がこるのぅ」
そう言った伯田の様子は普段と変わり無いように見えた。
風兎があの音は一体何だったんだろうと首を傾げた時、伯田の斜め後ろに写る陰に違和感を感じた。
目を凝らし、陰を見つめた風兎はその違和感の正体に気が付いき、驚きの声を洩らした。
伯田の後頭部は通常ではあり得ない程後ろへと長く伸びていた。
その姿はまるで、昔風兎が見た百鬼夜行の絵に出てくる妖怪の一人に酷似していた。
「ぬらりひょん………?」
「ほぅ、ぬらりひょんを知っておるのか」
「まぁ、有名ですし」
某少年漫画冊子では孫を主人公にした物が掲載されていた位だ。
「ならば話は早いのぅ。
ワシは、いや、わしら『隻翁』は妖怪が中心の旅芸人一座じゃ」
「へー、そうなんですか」
事も無げにそう返答し、風兎は茶を啜った。
「………へーって風兎さんや、もっと他に言うことがあったりしないんか」
拍子抜けした情けない表情で伯田は風兎に言うが、風兎は特にはと答えを返す。
正直言って前ふりが長い上に先が読めてしまったので、流石にぬらりひょんだとは分からなかったが人間じゃないと言うオチは読めていた。
この分だと二三も妖怪なのだろうと風兎は辺りを付ける。
「あ、そうだ。
妖怪が中心と言う事は人間もいるんですよね?」
「あぁ。居るぞ。
大体子供の半分位が普通の子供、大人だと3分の1が普通の人間だのう」
「普通の人間?普通じゃない人間もいるんですか?」
「うむ、半妖や変異体などじゃな」
「変異体?」
頭が2つあるとか腕が8本あるとかだろうか。
「別に妖怪の血が混ざっておる訳では無いのにある日、血が変異して本来人にはないはずの力や羽の部位が出来たりする事があるんじゃよ。
変異体と言うと………笛吹とかかのぅ?」
「笛吹さんが!?」
あの常に顔を隠した人形使い。
もしかして、顔を隠している理由は変異して人間にあるはずの無い物が出来てしまったからだろうか?
例えば角とか。
風兎は笛吹の面の下を色々と妄想してみる。
「笛吹が顔を隠しておるのは別に角が生えておるわけでは無いぞ?
あれはただの恥ずかしがり屋だからじゃ」
「まさかの理由」
ただの恥ずかしがり屋とか予想外だ。
『隻翁』が妖怪一座というカミングアウトより余程驚いた風兎の様子を見て伯田は何かズレていると思った。
「笛吹は本来人にないはずの力を持ったタイプじゃ」
「力………あの人形となにか関係が?」
頭の中に日和ちゃん人形を思い浮かべて聞いてみる。
「あれは全く関係ない。
やっぱり恥ずかしがり屋じゃから自分で話したく無いと言う理由じゃ」
「そこまでの恥ずかしがり屋なのに舞台に出るとか矛盾していませんか?」
「それは皆が思っておることじゃ」
「マジでか」
やっぱり謎の人物だと風兎の中での笛吹に対する興味がますます強まった。
「笛吹はその名の通り笛を吹くと老若男女、どんな種族も問わず操る事ができるそうじゃ」
「ほうほう、それはまた」
音で人を操ると言うことは耳から脳に何らかの影響を与えているのだろうか、是非とも詳しい話を聞きたい。
その原理は何かの発明に活用できるのだろうか、と風兎の発明家としての血が騒ぐ。
「笛吹と仲良くするのは良いがあいつを怒らせんようにの?
その昔、害獣で困っていた村を助けたが恩を仇で返されて怒った笛吹はその村の子供を全員連れ去ったらしいからのぅ」
「笛吹さんて怒ると怖い人なんですね」
気をつけよう、と思った風兎はふと今の話を聞いた事があるような気がした。
しばらく考えたのちにハッと気が付き、思わず叫んだ。
「ハーメルンの笛吹!?」
「良く知っとるのぅ。
そう、葉亜芽流と言う村の出来事じゃよ。
あれは悲惨じゃったらしいのぅ」
あれ、あの話って外国の話じゃないのか?
と言うか葉亜芽流って……?
害獣ってネズミか。
色々考えたが最終的に風兎は何だか何もかもがどうでも良くなってきたのでまぁ良いやと考えるのを放棄することにした。




