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【連載版】ミドサー転生幼女は働きたくない~面倒事はお断りです~  作者: Na20
第一章 三歳の幼女

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9/25

第9話 唯一の方法

 

 グレイとの話し合いから一週間後。

 私は再び城へ来ていた。



(うわぁ⋯⋯)



 様々な植物に鉱石、あれは魔法陣だろうか。

 見渡す限り不思議なもので溢れている。



「エステル嬢。本日はよろしくお願いします」



 ここは城の一角にあるグレイの研究室。

 筆頭魔導士ともなると個別に研究室が与えられるそうだ。



「こちらこそよろしくおねがいします」



 ではなぜ私がここにいるのか。

 それはもちろんグレイからお招きを受けたからである。


『ぜひ私の研究室に来てほしい』


 私は震え上がった。

 同志認定された途端、研究対象にされてしまうのかと。

 けれどその言葉には続きがあった。


『研究室にこれまでの資料があるから、詳しく説明したい』



【グレイ×研究室=危険】



 脳がそう瞬時に判断してしまったのである。

 今度美味しいおやつを持っていくので、許してほしい。


 そうしてすぐに招待状が届き、今に至る。



「これ、おみやげです」



 グレイに小さな箱を手渡す。

 これはお土産(謝罪の品)のマカロンだ。

 本当は私のおやつになるはずだったのだが、泣く泣く謝罪の品として持ってきたのである。



「ありがとうございます。お茶でも飲みながら一緒にいただきましょうか」


(ふぇっ!?)


「さぁ、どうぞ」



 目の前には色とりどりのマカロン。宝石よりもキラキラ輝いている。

 そしてカップにはミルクが。

 食べてもいいのかと迷ったが、私はそーっと赤いマカロンをつまみ、パクリと口に入れた。



(はわわ⋯⋯至福)



 口の中でホロホロとほぐれていくマカロン。

 そこにコクリとミルクを。最高だ。



「ほう⋯⋯。公爵家の料理人は素晴らしいですね」


(なんと!)



 どうやらグレイは甘いものが好きらしい。



「りょうりちょうにつたえます」



 料理長が褒められるのは自分のことのように嬉しい。

 私の中でほんのちょっとだけ、グレイの評価が上がったのは秘密だ。



 ◇◇◇



「実は王女殿下の病について少し気になることがあります。ぜひエステル嬢の意見を聞かせてください」



 そう言ってグレイは、先ほど棚から持ってきた不思議な道具に手を当てる。

 すると次の瞬間、私とグレイを囲むように魔力の膜が張られた。



(これは⋯⋯)


「これは防音の魔道具です」



 こんなことができるなんて、さすがファンタジーな世界だ。すごいなとは思う。

 思うんだけど、でもさ、これって⋯⋯



(絶対面倒事でしょ)



 たしかに王女の病について大声で話すことはできない。

 けれどこの部屋には私たちしかいない。

 それにもかかわらずわざわざ防音にしてまで話すなんて、面倒事に決まっている。



「王女殿下の病に不可解な点があります」


(やっぱり⋯⋯)



 病気に不可解な点って何?

 陰謀?謀略?悪計?

 不穏でしかないのだが。



(⋯⋯あ)



 どうして今なのだろう。

 まるでタイミングを見計らったかのように、今になって私は一つの違和感に気がついてしまった。



「魔力結晶化病は、本来少しずつ進行していく病です」



 グレイの話によるとこれまでの症例から、魔力の流れを阻害するような大きさの結晶になるには、最低でも数年はかかるらしい。



「けれど、王女殿下は生まれてすぐに病を発症しました」


「!」



 たしかにそれはおかしい。

 数年以上かかるものが、生まれてすぐにできてしまうなんて。

 もちろん偶然の可能性もあるだろう。

 けれどグレイは偶然だとは思っていない。



「こくおうへいかには⋯⋯」



 もちろん報告しているんだよね?と、希望を込めたのだが、



「⋯⋯まだ報告していません。これはあくまで私の憶測で、証拠は何もありませんから」


(まじか)



 まずいとは思う。

 もしその憶測が当たっていたら王女が危険だ。

 でもグレイの言っていることも分かるから、もどかしい。

 国王(トップ)に何の根拠も証拠もなく、憶測を伝えるわけにはいかない。

 前世の私も、社長(トップ)への報告はかなり気を遣ったものだ。


 憶測ではダメ。それならば一刻も早く証拠が必要だ。



「⋯⋯わかりました」


「エステル嬢?」


「わたしがしょうこをみつけます」



 面倒事はお断りだ。

 陰謀なんて、面倒事ランキング上位にランクインしているに決まっている。

 はっきり言ってこの件は私には関係のない他人事。

 三歳児の私が関わる必要なんてこれっぽっちもない。



(でもほっとけない)



 寂しそうに笑う王女の姿を見てしまったから。

 それに私の能力なら、何か分かるかもしれない。



「ですが、そうは言っても証拠を見つけるなんて⋯⋯」


「おうじょさまのまりょく、おかしかった」


「え?」



 あの日視た王女の魔力。あの時は魔力の流れと結晶に意識が向いてて気づかなかった。

 でもグレイの話を聞いて思い出したのだ。

 私は魔力が色になって視える。

 王女の魔力は緑だった。だから王女の魔力によってできた結晶であれば結晶も緑のはず。

 けれど違った。

 王女の中にあった結晶は、赤だったのだ。



「まりょくのいろはひとりひとつです」



 私がこれまで視てきた人は、みんな一つの色しか持っていなかった。



「でもおうじょさまのからだには、ふたつのいろがありました」



 王女の身体の中に視えた緑と赤の二つの魔力。

 緑の魔力が、赤い魔力の塊を攻撃していた。

 あれは異物(赤い魔力)を排除しようとしていたのではないだろうか。

 それならば説明がつく。



「!」



 グレイは目を見開いた。

 拙い説明にもかかわらず、私の言わんとすることを理解したらしい。



「だれかがおうじょさまをびょうきにしたかのうせいがあります」



 魔力を結晶化させるほどの魔力を、王女の身体に流し込んだ犯人がいる。



「誰かが意図的に王女殿下に魔力を⋯⋯? それは⋯⋯」



 複雑な表情になるグレイ。



(まぁ、そうなるよね)



 王女に魔力を流せる人間なんて限られている。

 家族か王女付きの使用人、それと医官か宮廷魔導士くらいだ。

 城の中に犯人がいるかもしれない。その事実にグレイは動揺している。

 その気持ちは分からなくもない。



(でも)



「はんにんをさがすのはあとです」


(やるべきことを間違えちゃダメ)


「なっ」



 私たちがやるべきことは、王女の病を治すこと。犯人を探すことではない。



「おうじょさまをなおすのがさきです」



 もちろん本当に犯人が存在するのなら、探し出し捕まえるべきだろう。

 でもそれは私の仕事ではない。宮廷魔導士や騎士の仕事だ。

 宮廷魔導士であるグレイが、自ら犯人を見つけたいと思うのは別にいい。

 けれどグレイは王女の主治医でもある。

 ならばグレイが一番に優先させるべきは、治療だ。



「⋯⋯そのとおりですね」


(ホッ)



 冷静に判断してくれてよかった。



「ちりょうほうはあるのですか?」



 私は治療法について尋ねる。これは重要だ。

 知っているのならば、情報を共有してもらわないと。



「⋯⋯今現在、確立した治療法はありません」


「ちりょうほうがない⋯⋯」



 まさか治療法がないなんて。

 単純に結晶を取り除けばいいような気がするのだが、それではダメなのだろうか。



「ですが、エステル嬢の力があれば治療は可能だと思っています」


「わたしのちから?」


「はい。私はこれまで魔力結晶化病の治療法について研究を続けてきました。そして一つの結論にたどり着いたのです。『結晶を取り除けば、魔力の流れが正常になる』と」



(同じだった!)



 でもそんな単純なことなのに、治療ができないのはどうしてなのか。

 そんな私の考えを見抜いたように、グレイが私の目を見つめ言った。



「ですが、見えないものを取り除くことはできません」


「あ⋯⋯」



 そうだ。

 普通、魔力は見(・)え(・)な(・)い(・)。

 でも私は視(・)え(・)る(・)。



「わたしなら――」


(私なら、王女を助けることができる?)


「エステル嬢」


「!」



 名前を呼ばれハッとする。

 グレイはいつの間にか立ち上がって私を見ていた。

 どうしたのだろう。

 そう思っていると、少しの間をおいてグレイはその場に跪いた。



「あなたに負担をかけることは重々承知しています。きっとヴィンゼルート公爵はお怒りになるでしょう。三歳の子どもに何を背負わせるのかと」


「⋯⋯」



 そのとおりだ。

 前世の記憶はあるが、私はこの世界ではまだ三歳の子ども。

 三歳の子どもを働かせようとするなんて、労基違反も甚だしい。



「それでもあなたの力が必要です」



 真摯な瞳が私を貫く。

 私の力が唯一の方法。

 そう言われて断るほど、私は落ちぶれてはいない。



「⋯⋯おとうさまはせっとくします」



 王女を治したいと言い出したのは私だ。

 途中で放り投げるつもりはさらさらない。



「でも、おひるねとおやつはわすれずにおねがいします」


「もちろんです」



 それならば何の問題もない。

 私は目の前の皿からもう一つマカロンをつまみ、パクリと口に運んだのだった。



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