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【連載版】ミドサー転生幼女は働きたくない~面倒事はお断りです~  作者: Na20
第一章 三歳の幼女

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第10話 見覚えのある色

 

 マカロンを食べたあと、私たちはこれからについて話し合った。

 とりあえず最優先でやることは二つ。


 まずは王女の状態を把握すること。

 王女の身体の中に二つの魔力が存在するのは間違いない。でもそれはほんの短い時間ただ視ただけ。

 これでは正確に把握できたとは言えない。

 じゃあどうするか。



「エステル嬢に王女殿下を診ていただきたい」



 本来ならば、それは主治医であるグレイの役目。

 けれどこれは私にしかできないこと。

 私はグレイの申し出を受け入れた。


 そしてもう一つ。

 これも私にしかできないこと。



「ヴィンゼルート公爵の説得をお願いします」



 やると決めたのだから途中でやめるつもりはない。

 けれど私はこの世界ではまだ三歳。

 さすがに保護者(お父様)の許可が必要だ。



(それに私、公爵令嬢だしね)



 貴族は階級社会だ。

 ヴィンゼルート家は公爵位。アドスターク家は伯爵位。

 王命でない限り、ヴィンゼルート家の意向が優先される。

 前世の年功序列も面倒だと思っていたが、こちらもなかなか面倒くさい。

 しかし私が貴族である以上、受け入れるしかない。


 そうしてこの二つを最優先事項とし、今回の話し合いは終わった。



 ◇◇◇



 数日後。

 私はグレイと共に城の廊下を歩いていた。



 ――テコテコテコ。



 私の歩く速度に合わせてゆっくり進む。

 その途中、グレイから疑問が投げかけられた。



「どのようにして公爵を説得したのですか?」



 最優先事項のひとつである父の説得。

 私が今こうして城にいるのは、父の説得に成功したからだ。

 だからグレイが気になるのは分かる。だけどそれは⋯⋯



「⋯⋯ひみつです」


(絶対言わない)



 たとえどんな方法を使ったとしても、望む結果が得られたのだからそれでいい。

 そう、どんな方法でも。



『ゆるしてくれないのなら、おとうさまといっしょうくちをききません!』



 こんな子ども丸出しの方法で説得したなんて、絶対に言えない。



(ミドサーなのに⋯⋯うぅっ⋯⋯)



 情けないが、思っていたより父が手強く、このような手を使うしかなかった。

 もちろん父の心配も理解できる。親として子を守ろうとするのは当然のこと。

 そもそもこの件は、三歳の子どもが背負うようなことではない。

 だけど、決めたのは私だ。

 だからなりふり構ってなんていられなかった。⋯⋯結果として、黒歴史となってしまったが。



「クスッ⋯⋯秘密ならば仕方ないですね」



 グレイは何かを悟ったのか、それ以上尋ねてくることはなかった。


 私たちが今向かっているのは王女の部屋だ。

 今日は王女の診察の日で、国王の許可をもらい、グレイに同行させてもらっている。



「はぁ、はぁ⋯⋯」



 息が切れる。

 グレイはゆっくり歩いてくれているが、なんせ城は広い。

 それに安全のため、王族の住居エリアは城の奥。三歳児にはちときつい。



「少し休みましょうか?」


「⋯⋯おねがいします」



 前回王女の部屋を訪れた際は、父が私を抱き上げてくれたので疲れることはなかった。

 けれど今回父はいない。

 グレイに抱き上げてもらえれば早いのだが、私は貴族令嬢。

 さすがに家族以外に抱き上げてもらうわけにもいかない。

 廊下の端に寄り、息を整える。



「ふぅ⋯⋯」


「王女殿下のお部屋まではあと少しです」


「はい」



 少し休んだことで、ずいぶんと呼吸が落ち着いた。

 もう大丈夫。

 そうグレイに告げようとした時、見知らぬ声が私たちの間に割って入った。



「おや? これはこれは。最近子守に勤しんでいるという筆頭魔導士様ではありませんか」



 声のする方に視線を向ける。

 視線の先にいたのは口髭を生やした赤い髪の男。

 その男は、グレイと同じ紺色のローブを纏っていた。



(宮廷魔導士だよね?)



 この先は王族の居住区しかない。

 けれどこの男はそちら側からやってきた。



「⋯⋯アルト。あなたがなぜここに?」



 グレイが赤い髪の男――アルトに問いかける。

 いつもの穏やかな声とは違い、その声は硬かった。



「なぜって、そりゃあ王女殿下にご挨拶をしにきたに決まっているだろう? 王女殿下は私の息子の婚約者なのだからな」



 驚いた。王女はまだ六歳で、しかも病弱だ。

 婚約している場合ではないと思うのだが、まさかすでに婚約者がいるとは。



(それにしてもこの男、感じ悪くない?)



 筆頭魔導士であるグレイに対して、なぜこうも高圧的な態度を取るのか。

 息子が王女の婚約者だからって何?

 この男が偉いわけでもなんでもないのに。

 でもここで私が口を出せば、面倒なことになるのは目に見えている。

 だから黙って二人のやりとりを聞くことにした。



「先日もそう言って、王女殿下の元を訪ねていませんでしたか?」


「我が侯爵家に嫁いでこられるのだ。そのために今から交流を深めるのは当然だろう?」


「ですがこうも頻回では、王女殿下の負担になります」



 グレイの言うとおりだ。

 王女は最後まで笑顔だったが、十分間の面会ですら辛そうだった。

 この男は宮廷魔導士なのだから、ある程度王女の体調は知っているはず。それなのに一体何を考えているのか。



「何を言っているのか。王女殿下はいつも快く迎えてくださっている。勘違いも甚だしいぞ」


「アルト!」



 グレイが語気を強めるが、目の前の男が気にする様子はない。

 男は一瞬私に視線を向けたあと、鼻で笑った。



「フッ。貴様には子守がお似合いだ。せいぜい頑張るんだな。ハハハッ!」



 笑いながら私たちの横を通り過ぎて行く男。感じ悪いを通り越して、嫌悪を感じる。

 きっと男は私がヴィンゼルート公爵家の娘だとは気づいていないだろう。

 けれど王女に、グレイ、そしてヴィンゼルート公爵家を侮辱した罪は重い。



(お父様に報告しないと)



 だからもう一度しっかりと男の顔を確認しよう。

 そう思い、チラリと横目で見ようとしたその時だった。



(え?)



 視界の端に捉えた、鮮烈な色。

 その色には見覚えがある。



(どうして⋯⋯)



「⋯⋯ル嬢! エステル嬢!」


「ハッ!」



 我に返り急いで後ろを振り向いたが、すでにあの男の姿はなかった。



「大丈夫ですか?」


「⋯⋯だいじょうぶです」


「ですが、顔色が⋯⋯」


「だいじょうぶです」



 ギュッと手を握りしめる。

 気分は最悪だが、ここで帰るわけにはいかない。



「⋯⋯分かりました。無理はしないでくださいね」



 私の反応からグレイは何かを感じ取ったのだろう。気にはなるが、聞かずにいてくれる。

 もちろん私もグレイに聞きたいことがある。

 けれど今は、一刻も早く王女のもとへ向かわなければ。



「いきましょう」



 言いしれぬ不安を抱え、私たちは再び歩き始めた。

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