第11話 診察
「エステル! 来てくれたのね」
「メロディさま、こんにちは」
前回と同じようにベッドの上で微笑む王女。その顔色はあまりよくない。
「王女殿下。本日は診察に参りました」
「ええ、グレイ。今日もよろしくね」
グレイの診察が始まった。
私は邪魔にならないように部屋の壁際で待つ。
けれど、ただ立って待っているのは暇だ。
そう思い部屋をぐるりと見回す。すると気になるものを見つけた。
少し離れたサイドテーブルの上。
そこに飾られているのは、淡く光を放つ花。
(マナリィの花だ)
以前、王子が妹はマナリィの花が好きだと言っていたのを思い出す。
きっとあれからも王子は花を贈り続けているのだろう。妹を喜ばせるために。
(本当、いい子たちだよね)
だから面倒事を受け入れてでも、力になりたいと思った。
(おやつと昼寝は死守するけど)
「本日の診察は終わりです」
「ありがとう」
そんなことを考えているうちに、診察が終わった。
私は小さく息を吐く。
(ここからが本番)
私はただグレイの診察を見学に来たのではない。
国王から許可をもらい、王女を視に来たのだ。
国王には王女の病に疑わしい点があることをまだ伝えていない。
だって推測で報告なんてできないから。
けれど私の能力で何か分かるかもしれないと、グレイが国王から許可をもぎ取ってきてくれたのだ。
国王ともなれば、普通は三歳の子どもの力なんて当てにしない。というかまともに取り合いもしないだろう。
けれどあの国王は違った。
我が子を救うためならば、わずかな希望にでも縋りたい。
その強い想いのおかげで、私は今日ここに来ることができた。
「王女殿下。本日はもう少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
このあと私が直接王女に触れて魔力を視ることになっている。
「ええ、もちろん。⋯⋯あ、でもそれだとエステルを待たせてしまうわね」
困った顔の王女。
辛いだろうに、それでも王女は私を気遣ってくれる。
その優しさに胸がギュッと締め付けられた。
(手がかりを見つけないと)
「わたしはだいじょうぶです。でもさみしいので、メロディさまのてをにぎっていてもいいですか?」
いたずらに不安にさせる必要はないので、魔力を視るとは言わない。
だからそれらしい理由をつけて王女に触れる。それが今回の作戦だ。
コテンと首を傾げ、子どもらしくお願いをする。
きっと王女は受け入れてくれるだろう。
「ふふっ。エステルおいで」
「はい」
手招きをされたので、テコテコと歩き王女の側に立つ。
そして王女が私の手を握って言った。
「私も寂しかったから、手を握ってもらえると嬉しいわ」
(うっ!)
花が綻ぶような笑顔。
その笑顔に、私はズキュンと胸を撃ち抜かれた。
(絶対手がかりを見つけるから!)
心の中で気合を入れ直した私は、グレイに合図を送る。
合図に気づいたグレイがひとつ頷いた。
「王女殿下。本日はお話がございます」
「お話ですか?」
「はい」
グレイが王女の気を引いているうちに、私は王女の身体の状態を視た。
(⋯⋯あった)
緑の魔力と赤の魔力。
赤の魔力を排除しようと、緑の魔力がぶつかり続けている。
この状態なら、王女は相当つらいはずだ。
私は意識を赤い魔力に集中させる。
(あれ?)
そしてすぐに違和感に気づいた。
(少し小さい?)
前回見たときは砂粒程度だった結晶。それが心なしか小さくなっているように見えたのだ。
緑の魔力のおかげなのだろうか。
けれどそれなら結晶はすでに排除されていてもおかしくはない。
だけど未だに王女の身体には結晶が残っている。
(どういうこと⋯⋯ん?)
繋いだ手に視線を落とす。
すると王女の手に、本当に少しだが赤い魔力が視えた。
なぜここに? そんな疑問が湧く。
私はほんのわずかに視えた赤の魔力に意識を向ける。
決して見逃さないように、細心の注意を払って。
(⋯⋯嘘でしょ)
そして視えた事実に、私は驚愕した。
「エステル、どうかしたの?」
「え? ⋯⋯あっ」
呼ばれてようやく気がついた。繋いだ王女の手を強く握りしめていることに。
「ご、ごめんなさい!」
パッと手を離す。
三歳児の握力なんて大したことはないだろう。
けれど、王女にとってはそれすら痛かったかもしれない。
「ほんとうにごめんな⋯⋯」
「何か怖いことでもあったの?」
「!」
王女が私に向かって手を伸ばす。
そしてその手は優しく私を包んだ。
「私がいるから大丈夫。怖いことなんて何もないわ」
王女が笑って言う。
六歳の子どもが三歳の子どもを気遣うことは、別にめずらしいことではない。
『いいこ、いいこ』
『ほら泣かないで?』
『これあげる!』
前世でもこういった心温まる光景を何度も見てきた。
そのたびに疲れ切って荒んでいた心が癒されたことか。
でも王女は私が見てきた子どもたちとは違う。
病のせいで体格は三歳児の私とはそう変わらず、身体を起こすのも辛い状態。普通なら自分のことで精一杯のはず。
それなのに、私を気遣って笑ってくれている。
(絶対助けなくちゃ)
もちろん初めからそのつもり。だから父もグレイも国王も巻き込んで、この場にいる。
けれどこれまでとは違う。
今はもっと強い想いで王女を助けたい、そう思った。
(しっかりしなきゃ)
動揺なんてしている場合じゃない。
私は一度ギュッと目を閉じたあと、王女を見た。
「メロディさま、だいすき」
「ふふっ。私もエステルが大好きよ」
私たちは笑い合う。
その様子を、グレイは静かに見守っていた。
◇◇◇
「⋯⋯」
「⋯⋯」
それからすぐに部屋を辞したグレイと私は、無言で廊下を歩き続けた。
一刻も早く情報を共有したいが、廊下で話すのは危険だ。
だからかグレイは何も尋ねてはこない。
(さすが筆頭魔導士)
本当に仕事のできる人は一味違う。
ただグレイは魔法オタクなので、いつか研究対象にされそうな不安はあるけれど。
それでも今は心強い味方だ。
グレイの研究室へと戻ってきた。
そして戻ってくるやいなや、グレイは防音の魔導具を起動し、私の名を呼んだ。
「エステル嬢」
(きた)
「何があったのか教えてもらえますか?」
報告は結論から。これ基本。説明はその後でいい。
今一番に伝えるべきこと。
私は確信を持って口にした。
「おうじょさまのびょうきは、いとてきにつくられたかのうせいがたかいです」




