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【連載版】ミドサー転生幼女は働きたくない~面倒事はお断りです~  作者: Na20
第一章 三歳の幼女

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第12話 希望と裏切り

 

「⋯⋯エステル嬢。あなたは一体何を視たのですか?」



 グレイが静かに問いかける。

 私が視たもの。

 それは希望と裏切りだった。



「けっしょうはこのまえみたときよりもちいさくなっていました」


「っ、それは本当ですか!」


「はい」



 グレイの言葉にコクンと頷く。

 小さくなっていたのは間違いない。



「ならば王女殿下の病は⋯⋯」



 魔力の流れを阻害していた結晶が小さくなっていた。

 その事実は何年もの間、病に向き合ってきたグレイにとってはまさに希望の光だろう。

 けれど、その光にはまだ手は届かない。



「でも、おうじょさまのてにあかいまりょくがありました」


「⋯⋯手に、赤い魔力?」


「はい。ほんのすこしだけど、まちがいありません」



 王女の魔力は緑色だ。

 それにもかかわらず結晶の他にも、身体の中に赤い魔力が存在していた。

 魔力の色は一人ひとつ。普通ならあり得ない。



「ふしぎだなっておもって、そのあかいまりょくをみていました」



 この魔力は何なのだろう。

 そう思い注意深く観察していると、信じられないことが起きたのだ。



「あかいまりょくがからだのなかをながれて、あかいけっしょうとがったいしました」


「なっ!」


「そしてけっしょうがすこしおおきくなったんです」


「結晶が大きく⋯⋯それは、本当ですか⋯⋯?」



 グレイの声が震えている。

 信じられないような話だが、実際にこの目で視たので間違いない。



「まちがいありません」



 この事実から分かること。

 誰かが意図的に王女に魔力を流し込み、結晶を作り出したということ。

 おそらく生まれてすぐの王女に大量の魔力を流し込み、結晶化させた。

 そしてそのあとは結晶が小さくならないように、定期的に魔力を流し込んでいたのだろう。


 手に視えたわずかな赤い魔力。

 あれはつい最近、手から魔力を流し込んだ痕跡。



「あかいまりょくのもちぬしが、おうじょさまをがいそうとしています」


「くっ⋯⋯」



 グレイの表情が苦悶に歪む。

 予想はしていたが、できることなら外れてほしいと願っていた。

 けれど王女の手に触れられる人物なんて限られている。

 そしてそれができる人物は、王女に近い人物であること。



「へいかにほうこくしましょう」


「それは⋯⋯」


「いちばんつらいのはおうじょさまです」


「!」



 信じたくない気持ちも分かる。けれど確実に、王女を害そうとする犯人がいるのだ。

 それが分かった時点で、国王に報告するべきだ。

 すでに二人で抱えるにはことが大きくなりすぎている。

 無理して抱えてもいいことなんてない。

 私たちが一番にするべきこと。それは王女の病気を治すこと。

 その目標を見失ってはいけない。



(しっかりして)


「グレイさま」



 そんな思いを込めてグレイの名を呼ぶ。

 名を呼ばれたグレイはハッとしたように顔を上げ、少しの間を置いて口を開いた。



「⋯⋯エステル嬢の言うとおりですね。申し訳ありません。どうやら冷静さを失っていたようです」



 ふぅ、と大きく息を吐く。



「急いで陛下への謁見を申請しましょう」



 グレイの目には先ほどまでの動揺の色はない。

 今は強く決意をした、そんな目をしていた。



「おうひさまもいっしょにきてもらったほうがいいとおもいます」



 グレイに助言をする。

 謁見の時に視えた国王と王妃の魔力の色は赤ではなかった。だから伝えても大丈夫だろう。

 グレイも私の言葉でそれを理解してくれたのか、大きく頷いた。



「分かりました」



 グレイは謁見を申請するために書状を認め始めた。

 最初のうちはその様子を眺めていた私だったが、滑らかなペンの動きに、次第に瞼が重くなってくる。


(ねむい⋯⋯)



 そういえばもうすぐ昼寝の時間だ。

 色んなことがあって忘れていたが、身体は正直だ。

 こんな大変な時にとは思わなくもない。だけど三歳児に昼寝なしはきつい。

 頭もぼーっとしてきた。

 すぐにでも瞼を閉じてしまいたい。でもまだ閉じるわけにはいかないと一人で葛藤する。


 何とか目を開き、グレイの様子を見る。

 どうやら文章は書き終わったようで、ちょうど最後に印を押したところだった。

 そして印が紙から離れると、紙の上に赤い色が見えた。


(赤⋯⋯あか⋯⋯)



 たしか聞かなければいけないことがあった。けれどこれ以上はもうもちそうにない。



(寝てからでいいや⋯⋯)



 そうして私はスヤァと、お昼寝タイムに突入したのであった。



 ◇◇◇



「エステル嬢。私は謁見の申請に⋯⋯おや」



 書状を書き終え机から顔を上げると、小さな同志がソファにコテンと倒れるように眠っていた。

 疲れたのか微動だにせず、スースーと寝息を立て眠っている。



「⋯⋯もうそんな時間でしたか」



 三歳の子どもに無理をさせてしまった自覚はある。それに諭されもした。


 本当に不思議な子だ。

 膨大な魔力を持ち、魔力を視ることのできる少女。

 三歳児らしからぬ言動をするかと思えば、子どもらしくおやつと昼寝には貪欲で。

 まだ数回しか顔を合わせていない。

 それなのに私はもうこの子から目が離せない。


 通信用魔導具を起動し、部下を呼ぶ。

 そして部下に書状を託した私は、小さく息を吐いた。



「邪魔をするわけにはいきませんからね」



 ことがことだけに、直接謁見の申し込みに行こうと思ったが、この子を一人残していくわけにはいかない。ローブの留め具を外す。

 このローブは宮廷魔導士の証だ。決して人に貸していいものではない。

 けれど今だけは、この子の安らかな眠りの一助になればいい。



「ゆっくり休んでください」



 私は彼女を起こさぬよう、そっとローブを掛けた。

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