↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】ミドサー転生幼女は働きたくない~面倒事はお断りです~  作者: Na20
第一章 三歳の幼女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/25

第5話 手紙、再び

 

 城から帰ってきて三日。

 私はいつも通りの平穏な生活を送っていた。



「お嬢様、どうぞ」


「ありがとう」



 専属侍女のミアからカップを受け取る。今はお昼寝あとのおやつの時間だ。

 温かいミルクに、甘い焼き菓子。

 椅子はふかふか。雲はぷかぷか。

 小鳥のさえずりが実に心地よい。



(これだよ、これ)



 面倒事とは無縁の穏やかな生活。


 城に行った日。あの日は大変だった。

 国王との謁見まではまぁいい。

 もともとそのために城に行ったのだから。

 ただ大変だったのはそのあと。

 温室で(うっかり)花を虹色に光らせてしまってからが本当に大変だった。


 グレイに捕まった私は、あーでもないこーでもないと、長時間魔法議論に巻き込まれてしまった。

 グレイが熱く語っていたが、虹色に光る花はこれまではただの伝承だと思われていたそう。

 しかしその伝承が突如として現れたのだから城は騒然。

 一体何をしたのかと、散々問い詰められた。

 最初から私が原因だと考えるグレイの思考はどうなっているのか。

 内心プンプンしていた私だったが、実際やらかしてしまっているので文句は言えず。

 ニコニコして流していたのだが、なかなか話が終わらず面倒になった私は、


『クリスさまが、にじいろにひかるっていったから⋯⋯』


 と、王子のせいにしてなんとか逃げ帰ってきたのである。

 王子、ごめんね。


 マナリィの花が伝承の花であるとは知らなかった。

 それに花に魔力を流してみようと思う人間は誰もいなかったそう。

 絵本に載ってるのに?と疑問に思ったが、余計なことを言うのはやめておいた。

 そのあたりは王子に聞いてくれと、投げた。


 今頃世紀の大発見に、宮廷魔導士たちは大忙しだろう。

 きっとグレイもしばらくは研究やらなんやらで忙しく、私に構う暇などないはずだ。

 その証拠に、この三日は静かに過ごせている。



(ちょっと大変だったけど、結果よければすべてよしだよね)



 できることならこのままずっと放っておいてほしい。

 三歳児に面倒事は不要なのである。


 しかし私の願いも虚しく、この平穏は長く続かなかった。



 ◇◇◇



 その日の夕食の時間。

 デザートのプリンを食べようとした時だった。



「エステルに陛下から手紙が来ている」


「へ?」



 ――ベチャッ



 口に入れ損ねたプリンがテーブルの上に落ちる。

 すぐさま給仕のメイドが片付けてくれたから問題はない。



「⋯⋯」



 問題はないが、なぜ今なのか。

 私のプリンを一口無駄にした父の罪は重い。



「エ、エステル?」


「⋯⋯なんですか」


「その、怒ってるのか?」


「⋯⋯おこってないです」



 嘘です。すごく怒ってます。

 プリンは苺ショートの次に大好物なのだ。

 その貴重なプリンが一口減ってしまっただなんて⋯⋯



「料理長! 急ぎ新しいプリンを持ってくるんだ!」


「か、かしこまりました!」


(!)



 そうして猛ダッシュで出ていった料理長が、すぐさま新しいプリンを持ってやってきた。



「こちらを。⋯⋯お嬢様の好きなクリームを多めにしておきました」



(なんと!)



「りょうりちょう、ありがとう!」


「どうぞごゆっくりお楽しみください」



 さすが料理長だ。私の好みを完璧に把握している。

 目の前にはプリンが二つ。最高だ。

 鼻歌でも歌いたい気分である。



「⋯⋯機嫌は直ったかい?」


「なおりました」



 減ったプリンが補填されたのだから文句はない。ただ、



「そうか。⋯⋯それで手紙の件なんだが」


「おとうさま」



 これはいただけない。

 父は効率を重視する傾向にある。もちろん効率を重視するのは悪いことではない。

 けれど今は食事中。楽しい時間を楽しまないでどうするのだ。

 前世のランチミーティングほど、苦痛な時間はなかった。

 なにが悲しくて、食事中まで仕事をしないといけないのか。

 たしかに効率はいいのかもしれない。

 それでも食事の時間は楽しむ時間だ。

 仕事や面倒事は論外。

 何ものにも邪魔させるものか。



「そのはなしはあとにしてください」


「だが、陛下からの手紙⋯⋯」


「しょくじちゅうはめっ!です」



 つい勢いで『めっ!』なんて言ってしまったが、今の私は三歳児だから大丈夫だよね?



「す、すまん」


「ふふっ。あなたがエステルに叱られる日が来るなんてね」



 焦る父に、微笑ましそうに笑う母。

 どうやら大丈夫そうだ。


 そのあと私はプリン二つをペロリと完食し、一時の幸せを噛み締めた。



 ◇◇◇



「実はな、折りいって頼みがあるそうだ」



 食後、父の執務室へと移動して話を聞くことになった。

 できれば『陛下からの手紙』などという不穏な言葉は聞かなかったことにしたい。

 けれどそれができないのは分かっている。



「たのみ、ですか?」


「ああ」


「おうめいではなくて?」



 頼みと聞けばこちらに選択肢があるように思うが、それは違う。

 相手は国王。

 国王からの頼みなど、王命と何ら変わりない。



「それは⋯⋯」



 返事を濁す父。

 国王からの頼みなど面倒事に決まっている。

 そもそも大の大人が三歳児に頼み事とは、これいかに?



(はぁ⋯⋯)



 散々脳内で文句を言ってはいるが、父が悪いわけではないことは分かっている。

 父は国に忠誠を誓う貴族。国王の言葉を無視することなどできやしない。

 そして私は、そんな父の娘だ。



(仕方ない)



 城から帰ってきて三日。

 ずいぶんと短い平穏だった。



「わかりました」


「エステル!」


「それで、どのようなたのみごとなのですか?」



 普通三歳児はまだ字が読めない。

 だからたとえ私宛の手紙だとしても、父に内容を尋ねるしかない。



(字、読めるんだけどね)



 けれどそれを言えば面倒事に巻き込まれる確信があるので、絶対に言わない。



(天才なんて持ち上げられても困るし)



 私は前世の記憶があるせいか、この世界の普通とはどこかズレている自覚はある。

 でもその自覚があるからこそ、私は平穏を望まずにはいられない。



「それがな、一度、王女様に会ってほしいそうだ」


「⋯⋯おうじょさま?」



 私は思わず首を傾げる。

 三日前の謁見で会ったのは、国王に王妃、それに王子の三人だけ。

 王女には会っていない。

 それなのになぜ国王は会ってほしいと言うのだろうか。



「ああ。どうやらエステルにお礼を言いたいらしい」


「おれい⋯⋯」



 王女にお礼を言われることなんてあった?

 どうしよう。思い当たることがない。

 それなのにお礼なんて言われても困る。

 そんな私の感情が表情に出ていたのだろう。

 父が少し気まずそうに言った。



「⋯⋯花の礼、だそうだ」


「はな⋯⋯あっ!」



 父に言われようやく理解した。

 王女は、クリス王子の妹だ。



(たしかメロディ、だっけ?)



 父から詳しく話を聞いた。

 なんでもメロディ王女が、虹色の花を大層喜んだそう。

 そこまでなら微笑ましいエピソードだろう。

 だけどそのあと王子が『エステルのおかげだ』と、余計なこと言ってくれたらしい。

 結果、王女が直接会ってお礼を言いたいので城に来てほしいと、陛下から手紙が来たわけである。



「できるだけ早く来てほしいそうだ」


「⋯⋯」


(行きたくない)



 きっと王女は、優しく可愛い子に違いない。だから会ってみたいなとは思う。

 でもできれば城には行きたくない。

 花の件は『王子の願いが叶ったから』で押し通すつもりだ。

 決して私がやらかしたわけではない。

 けれど、今城に行けば絶対グレイに捕まる。

 面倒事に自分から巻き込まれに行くつもりはさらさらない。



(どうにかして断らないと⋯⋯)


「おとうさま。その、おことわりを⋯⋯」


「苺のショートケーキをたくさん用意して待ってると」


「いきます」



 あの絶品ケーキが私を待っている。

 城に行かなければ、ケーキに失礼だ。



「エステル⋯⋯」



 父は何か言いたげだが、気にしない。



(ふんふ、ふんふ、ふーん)



 おいしいケーキを食べて、可愛い王女様に会う。それだけ。

 それ以外の用は存在しない。

 グレイの相手は父にお願いしよう、そうしよう。


 そうしてその翌日。

 私は二度目の城へと向かったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。