第23話 規格外
「用意ができました」
私がおやつに舌鼓を打っている間に、できるグレイによって薬の材料が準備された。
机の上に置かれているのは、何ら変哲のない水と淡く光るマナリィの花。
「これをどうするのですか?」
グレイが迷いなく私に指示を仰いでくる。
彼は貴族であり筆頭魔導士だ。
それでも相手が三歳児だからと話を切り捨てることはない。
本当にできた人物である。
「これにまりょくをながします」
私はマナリィの花を指差す。
「それは⋯⋯!」
どうやらグレイは、私の言わんとしていることを理解したようだ。
「はい。にじいろにします」
マナリィの花に許容量限界まで魔力を流すと、虹色に発光することは以前のやらかしで知られている。
私の考えた『最良』。それは虹色に輝いている状態を指すのではないか。
幻の花と呼ばれるくらいだ。十分に可能性はある。
「おねがいします」
私はグレイに魔力を流すよう頼む。
しかし眉をハの字にしたグレイから返ってきた答えは、私が予想していないものだった。
「すみません。私にはできません」
(え?)
できないとはどういうことか。
意味が分からず呆けていると、グレイが申し訳なさそうに言った。
「エステル嬢が幻の花を発見したあと、私もマナリィの花に魔力を流してみたのです」
さすが魔法オタクである。
けれどすでにやったことがあるにもかかわらず、できないと断言するなんて。
グレイは言葉を続けた。
「けれど、私の力では虹色に光らせることができませんでした」
「⋯⋯どういうことですか?」
グレイの言っていることがよく分からない。
魔力が満タンになれば自ずと光るはずなのに⋯⋯
「足りないのです」
「足りない?」
「はい。マナリィの花を虹色に光らせるには、私の魔力が足りなかったのです」
(なんと)
たしかに私も光らせるのにだいぶ魔力を流したが、ちょっと疲れた程度だったと記憶している。
やはり私の魔力量は規定外なのか? でも、
(それなら何回かに分けるとか、何人かでやるとか……)
他に方法はあるのでは?
そう思っているのが伝わったのか、グレイは言葉を続けた。
「一度に魔力を注ぐのは無理でしたので、他の方法も試してみました。魔力を流すのを数回に分けたり、複数人で一度に流してみたり……けれどどの方法も上手くいきませんでした」
魔力を流すのを途中で止めると花から魔力が抜けてしまい、複数の魔力は花に反発されて受け入れてもらえなかったそうだ。
「いろんな方法を試した結果、マナリィの花を虹色に光らせるためには、一人の魔力を一度に流す必要があるという結論に至ったのです」
まさかマナリィの花を虹色に光らせるのが、そんなに難しいことだったとは思いもしなかった。
(幻の花って呼ばれるわけだ)
筆頭魔導士であるグレイをもってしてもできないのだ。
これまでマナリィの花を虹色に光らせた人物は、どれほど存在したのだろうか。
きっと国の歴史を調べればある程度は分かると思う。
偉人、英雄、賢者……。
歴史上とんでもない肩書きを持った人物は、おそらく膨大な魔力の持ち主だったに違いない。
(……うん。考えるのはやめよう)
これ以上は、私の精神衛生上よろしくない。
膨大な魔力持ちが歴史に残るなど、考えてもいいことなんてない。
とりあえず今は、目の前の問題をどうにかしなければ。
「ですからマナリィの花を虹色にするには、その……」
グレイが私を見る。
(言いたいことは分かるよ?)
というか分からない方がおかしいだろう。
今突き当たっている問題。それはマナリィの花を虹色に光らせるため、膨大な魔力を持った人物が必要だということ。
筆頭魔導士であるグレイよりも魔力を持っている人物。
はたしてそんな都合のいい人物は存在するのか。
(それがまあ、存在するんだもんねぇ……)
魔力測定器を壊し、過去に一度花を虹色に輝かせた人物。そんな存在が目の前に⋯⋯。
(はい、私です)
認めたくはなかったが、やはり私は規格外の存在らしい。
まぁ前世の記憶がある時点で、他の人とは違うなとは思っていたけど。
(はぁ⋯⋯)
すべてグレイにお任せするつもりだったが、こればかりは仕方がない。
薬がなければ王女はよくならないのだ。
それでは『王女を元気にしたい』という私の目標は達成できない。
「⋯⋯わかりました」
私はため息を飲み込み頷いた。
「ありがとうございます!それではこちらを」
先ほどのハの字眉と対象的に、目をキラキラ輝かせるグレイ。
(こら、グレイ)
現金にもほどがある。
普段はできる大人なのに、魔法のことになるとまるで子どものよう。魔法オタク、怖い。
そんなことを思いながら、手渡されたマナリィの花を見て願う。
どうか王女が元気になりますように。そして、
(どうかこれ以上面倒事に巻き込まれませんように!)
そう強く願い、魔力を流した。
「おぉ⋯⋯」
そうして数十秒後。
私の手に、虹色の光が燦然と輝いていた。




