第22話 薬の存在
(これは……)
追加された一ヵ月の面会謝絶期間が終わり、私はグレイとともに再び王女の元へと訪れた。
これまでと同様、グレイが診察をしている間に私が王女の魔力を確認する。
久しぶりに再会した王女の姿に期待はしていたが、やはり魔力の結晶はほとんどなくなっていた。
「最近は、支えがなくても歩けるようになったのよ」
王女が嬉しそうに笑う姿に私も嬉しくなる。
しかしここにきて一つの問題が浮上した。
「魔力が乱れている、ですか?」
「はい」
グレイの研究室へと戻ってきた私は、先ほど視たことを伝えた。
魔力の結晶の大部分がなくなったことで、流れ自体はスムーズになってきている。
だが長年の影響なのだろう。
普通であれば魔力は、一定の量が一定の速さで流れている。
けれど王女の身体では、至る所で乱れが確認できたのだ。
乱れとは言ってもどれも軽微なもの。
たとえるのなら、きれいに均したはずの地面に、ぽつぽつと小石が飛び出している状態とでもいうのか。
たかが小石程度。けれど油断していると転んでけがをする。
「なにかほうほうはありませんか?」
私はグレイに尋ねた。
魔力の乱れがどの程度、王女の身体に影響を与えるかは分からない。
けれどようやくあと少しで結晶がなくなりそうなのだ。ここは確実に行きたい。
「⋯⋯薬はあります」
(あるんだ!)
あるならこの問題はすぐに解決するはず。
よかった。そう思ったのに、グレイは浮かない表情をしている。
「グレイさま?」
どうしたのかと声をかけると、グレイは言いにくそうに口を開いた。
「魔力の乱れを整える薬は存在します。ですが、その薬には少し問題がありまして⋯⋯」
「もんだい?」
私はコテンと首を傾げた。
薬が存在する。それなのに問題があるとは、一体どういう意味なのか。
「はい。実はレシピ通りに作っても、なぜか効果が殆どない粗悪品にしかならなくて⋯⋯」
レシピは手順書だ。だからそのとおりに作ればちゃんと薬はできるはず。
それなのに粗悪品しかできないのはおかしい。
けれどグレイが、わざわざ嘘をつく理由はない。
「そんなにむずかいしのですか?」
「いいえ。作り方はとても簡単で、水に材料を加え煮詰めるだけです」
(本当に簡単だな)
なんなら子どもでもできそうなくらいだ。
しかし粗悪品しかできない。
ということは作り方ではなく、材料に問題があるのかもしれない。
「ざいりょうはなにを?」
「水とマナリィの花です」
(マナリィの花!)
城の温室に咲いていた、魔力に反応してほんのり淡く光る花。
そして以前、私がうっかり光らせてしまった花だ。
まさかあの花が薬の材料になるなんて。やはりこの世界はファンタジーだ。
「どちらもかんたんにてにはいりますね」
「ええ、そうなのです。清らかな水と最良のマナリィの花があればできるはずなのですが⋯⋯」
(ん?)
今のグレイの発言で気になる言葉がひとつあった。
「さいりょう?」
清らかな水はまぁ分かる。けれど最良のマナリィの花とは何なのか。
「はい。レシピにそう書かれていますので、その日一番状態のよいマナリィの花を材料に使っています」
「⋯⋯」
たしかにグレイの言うそれは最良だ。
私も最良の花を選べと言われたら、一番美しく咲く花を選ぶと思う。
でもどうしてだか『最良』という言葉が引っ掛かる。
はたしてこの言葉はどちらを指すのだろう。
私たちにとっての最良なのか。それとも花にとっての最良なのか。
(⋯⋯あ)
点と点が繋がったような感覚。
そうだ。私は『最良のマナリィの花』がどういったものか知っている。
なぜなら以前、その『最良』に見て触れたことがあるから。
「ですから薬は当てにならないので、別の方法を考えるしか⋯⋯」
グレイは薬での治療は困難だと判断しているようだ。
しかしそれはまだ早いと思う。
「いいえ」
「⋯⋯エステル嬢?」
戸惑うグレイに私は告げた。
「いまからつくりましょう」
「え?ですが薬は⋯⋯」
「グレイさま。ものはためし、です」
グレイの目を見てニコリと笑う。
諦めるのは、もう一度挑戦してからでも遅くない。
それにもしも私の予想が当たっていれば、薬ができるかもしれない。
「やれることはやってみましょう」
(実際に作るのはグレイだけど)
なんか偉そうに言ってはみたが、薬作りは魔導士の領域。
私はただその様子を見守るだけ。
「⋯⋯我が同志殿には何か深い考えがあるのですね」
(いやないよ?それと同志認定はやめて!?)
心の中で叫ぶ。
そうだった。最近はできる大人な面ばかり見ていたから忘れてたけど、グレイは魔法オタクだ。
気を抜けば最後。
面倒事を押し付けられるか、実験台にされるか。
(気をつけないと⋯⋯)
「分かりました。では早速作って⋯⋯あ」
「ど、どうしました?」
私は内心ドキドキしながら問いかける。すると、
「いえ。まずはおやつが先ですね」
(⋯⋯できる)
グレイは私のおやつ時間を完全に把握しているらしい。
「⋯⋯おねがいします」
気をつけなれけばならない相手。でもおやつは食べたい。
(食べてから気をつけよう。そうしよう)
そう心に決め、今日のおやつは何だろうとウキウキする私であった。




