第21話 計画と結末
(どうしてこうなった)
国王との謁見を終え、屋敷に戻った私は頭を抱えた。
「これまではうまくいっていたのに⋯⋯」
王女に魔力を流し込んで六年。
これまで王女はベッドから動くことができなかった。
それなのに、面会謝絶から一ヵ月後。まさか歩けるまでに回復してしまうなんて。
「まずい⋯⋯」
成長に伴って王女の魔力が増えたせいか、魔力を頻繁に流さなければならなくなった。
だからこの一年は月に二度、王女の元へ訪れては魔力を流していたというのに。
このままでは病弱な王女ではなくなってしまう。
病弱だからこそ、息子の婚約者にすることができたというのに⋯⋯。
我が侯爵家は比較的新しい家門だ。そのため、同じ侯爵位でも下として扱われてきた。
許せなかった。無能のくせに、歴史の長さだけで優劣をつける愚か者どもが。
いつか必ず見返してやる。そう思って生きてきた。
しかし人生は、そううまくはいかなかった。
筆頭魔導士を選ぶ試験。
魔法には自信があった。だから筆頭魔導士に選ばれるのはこの私だと信じていた。
けれど選ばれたのは、私より下の存在である伯爵位の男。私は次席だった。
なぜ、どうして。
私の人生がうまくいかないのはなぜか。
そうしてある日気づいたのだ。
私に必要なのは確固たる権力であると。
では確固たる権力を手に入れるにはどうすればいいか。
『⋯⋯そうだ。王家と縁付けばいい』
そんな時だった。王妃の懐妊が発表されたのは。
私は祈った。
どうか生まれてくる子が女児でありますように。
そして生まれたのがメロディ王女だった。
これは天命だと思った。神が私を後押ししてくれたのだと。
だから宮廷魔導士として王女の護衛任務に就いた日。
私は王女に魔力を流し込んだ。
魔力を大量に流し込むと体に不調をきたすということは、別の任務の際に知った。
これは使える。そう思って、王妃の懐妊が分かってからすぐに実験を始めた。
そして実験の結果、定期的に魔力を流し込み続けると、不調が継続することが分かった。
『これなら⋯⋯』
私は宮廷魔導士。頻繁に王女の護衛につくことになる。
その際に魔力を流していけば、王女は病弱であると思わせられる。
そうすれば他国に嫁ぐことはできず、また国内ですら貰い手がない状況になるはず。
そこで我が侯爵家が婚約を申し出るのだ。
貰い手もおらず、扱いに困る王女を娶る。
王家からの心象はよくなるだろう。さらに王家の姻戚として権力も得られる。
実験では魔力を流すのをやめると、体調は戻っていった。
だから王女が子を産める年齢になったらやめればいい。
私の計画通り、王家は婚約を受け入れた。
これで準備は整った。
王女の存在は、私の人生そのもの。
どうかこのまま、その時が来るまでは病弱なままで――
「――くそっ!」
国王には笑顔で答えたが、これっぽっちも喜ばしくない。
一ヵ月で歩けるまでに回復したのだ。
あと一ヵ月も経てば、もっと回復してしまう可能性が高い。
赤子の頃に魔力を流し込んだ時は、生まれつきの病だということで誤魔化せた。
しかしこれ以上回復して、私と面会したあとに体調が悪くなったとすれば、私が何かしたのではと疑われる可能性がある。
それではダメだ。
これまでの努力が泡になってしまう。
「これ以上回復する前に、王女に接触しなければ⋯⋯」
しかし王女は面会謝絶。
国王ですら王女に会えていないのに、私が会えるわけがない。
ではどうすればいいのか。
「⋯⋯侵入するしかないか」
夜、王女が眠っている間に魔力を流し込んでしまえばいい。
ただ王女の部屋の前には見張りの兵がいるだろう。
気づかれずに、部屋に忍び込まなければならない。だが、
「問題はない」
私は本来、筆頭魔導士に選ばれるべき人間。
そんな私にかかれば、見張りの目を掻い潜ることなど容易い。
「ふっ。私としたことが」
これくらいのことで取り乱す必要などなかった。
私の計画は完璧だ
この程度で崩れるわけがない。
「さぁ、王女殿下待っていてください。あなたの義父がすぐに参りますからね⋯⋯」
しかしそれから二週間後のこと。
深夜に王女の部屋へと忍び込もうとしたところを、いとも簡単に捕まってしまうことになる。
侯爵を捕まえたのは彼の上司、筆頭魔導士グレイ・アドスターク。
本物の天才の前に、自称天才はなすすべもなかった。
◇◇◇
「え」
父から侯爵が捕まったとの話を聞き、私は驚いた。
(早くない?)
大人たちが作戦会議をしていたのが、今から二週間前のこと。
まさかこんなに早く成果を出すなんて。さすがシゴデキ三人組。
(きっと我慢できなかったんだろうなぁ⋯⋯)
あと一ヵ月の面会謝絶延長が功を奏したようだ。
「エステルが望むのならきちんと説明するが、どうする?」
父が私に問いかける。
侯爵を捕まえるのに協力した私には、知る権利があると。
でも私はまだ三歳。
心の中では、大人の汚いとこなど知らぬままでいてほしいと思っているのだろう。
だから、私にどうしたいかを問いかけのだ。
知るも良し。知らぬも良し。
(まぁ気にはなる)
どんな状況で、どんな方法で捕まえたのか。
気にならないと言えば嘘だ。
けれど私の返事は最初から決まっている。
「ひつようありません」
私がやると自ら決めたのは、王女の病を治すこと。
だから、侯爵が捕まった。それだけ知れれば十分。
「そうか」
「はい」
私が今思うのは、少しでも早く病を完治させてあげたいということ。
あとは、この件が終わったらのんびりゴロゴロ生活に戻りたいということ。
(もうひと頑張り)
面倒事はお断りだ。
けれどそう簡単に、前世で培った社畜根性は消えていないことに気づかない私であった。




