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【連載版】ミドサー転生幼女は働きたくない~面倒事はお断りです~  作者: Na20
第一章 三歳の幼女

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20/25

第20話 深呼吸

 

「たぶん、あのひとです」



 おやつタイムが終了した私は、空いた皿に名残惜しさを感じつつ報告を始めた。

 事は重大だと理解しているので、さすがにおかわりは我慢する。



「やはり⋯⋯」



 国王が呟く。国王もハジェス侯爵が怪しいと思っていたようだ。



「侯爵ともあろう者が、なんて愚かな!」


「アルト⋯⋯!」



 父とグレイが怒りの声を上げる。



(気持ちは分かる)



 アルト・ハジェス。

 侯爵家の当主であり、次席宮廷魔導士である男。

 まさか国に仕える者が、王家を、しかも子どもを害するなんて。

 国に仕える立場である父とグレイの怒りは最も。

 国王の胸中はとても計り知れない。


 でもだからこそ、今は冷静にならなければならない。怒りは目を曇らせるだけだ。



(一度切り替えないと)



 私はソファからぴょんと降りた。



「エステル嬢?どうかした⋯⋯」


「たってください」


「エ、エステル?」



 三人の視線が私に向く。

 そして私は腰に手を当て、大きな声で言った。



「いまからみんなで、しんこきゅうします!」


「「「しんこきゅう⋯⋯?」」」



 どうやらこの世界に深呼吸という言葉はなかったらしい。でも私はそんなのおかまいなしで続ける。



「おおきくいきをすってーはいてー⋯⋯ほらみんなもやってください!」


「え?あ、ああ⋯⋯」


「わ、わかった」


「はい!それじゃあ、すってーはいてー⋯⋯」



 ――一分後。



「おわりです」



 これくらいでいいだろう。そう思い終わりを告げると、父が迷いながら尋ねてきた。



「エステル。これは一体⋯⋯」



  父の顔に、先ほどの怒りはない。



「みんな、こわいかおしてました」


「え?」



 きょとんと呆ける父の顔に思わず笑いそうになったが、私より先に誰かの笑い声が聞こえた。



「くくく⋯⋯」


「陛下?」


「どうやら我らは冷静じゃなかったらしい」


「⋯⋯たしかに」


「ええ、そのとおりです⋯⋯」



 国王の言葉に、父もグレイも、自分たちが怒りの感情に振り回されていたことに気付いたようだ。



  「そなたのおかげで助かったぞ」


  「はい。もうこわくないです!」



 怖くなくなって嬉しい。そんな風を装って無邪気にニコッと笑う。

 ただ内心なにかご褒美くれないかなぁ、なんて思っているのだけれど。


 さて、切り替えもできたことだし、ここからは真面目な話をしよう。



「ハジェスこうしゃくのまりょくのいろはあかでした」



 王女の身体にある魔力の結晶。あの日視た見覚えのある色。そして侯爵の中で揺らいでいた魔力。

 そのすべてが同じ色だった。

 この状況から導き出される答えは一つ。

 しかしここで大きな問題がある。



「それならばすぐにでも侯爵を捕らえ⋯⋯」


「しょうこは?」


「証拠なら魔力の色が⋯⋯あ」


(そうなんだよねぇ)



 犯人がハジェス侯爵であるのは間違いないだろう。けれど侯爵を捕まえるために、は確実な証拠が必要になる。

 魔力の色はたしかに同じだ。だから私は侯爵が犯人だと分かる。

 しかし魔力が視えるのは私一人だけ。


『魔力の色が同じだから』


 さすがにこれだけでは侯爵を捕まえることはできない。


 問い:ではどうするべきか?

 答え:何もしない!



(だって、私の役目は終わりだもん)



 魔力を視て犯人を突き止めた。国王との約束はこれで果たしたはず。

 王女の病気を治すとは決めた。でもそれと犯人を捕まえるのは話が別。


 私は三人の大人たちに視線を向ける。

 私が思考にふけっている間に、各々がこれからどうすべきかを真剣に話し合っていた。



(あとはできる人に任せればいい)



 三歳児の出番はここまでだ。

 私はようやく肩の荷が下りたと、そっと小さく息を吐いたのであった。



 そしてこの日から二週間後。

 私は、ハジェス侯爵が捕らえられたことを知ることになる。



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