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【連載版】ミドサー転生幼女は働きたくない~面倒事はお断りです~  作者: Na20
第一章 三歳の幼女

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第19話 揺らぎ

 

「忙しいところ悪いな」


「いえいえ。陛下の命より優先するものはございません」 



 そう言って恭しく礼を執るのは、紺色のローブを纏い赤い髪に口髭を生やした男。



「うむ。しかし時間は有限だからな。早速本題に入るとしよう」



 ここは国王の執務室の中からしか入ることのできない秘密の部屋。

 この部屋の存在を知るのは、城内でも限られた者のみ。

 赤い髪の男――ハジェス侯爵もこの部屋の存在は知っていたが、実際に足を踏み入れるのは初めてのこと。

 そのせいかどことなく落ち着かない様子だ。



「今日この場にそなたを呼んだのは、王女について伝えることがあってな」



 王女が病を患っていることは公表されているが、病状までは公表されていない。

 そして本日まで一ヵ月の面会謝絶。現在の王女がどんな状態なのか分かっていない。

 そんな中での国王のこの発言。

 王女は王家唯一の女児。

 常々情勢を見極めている貴族にとって、喉が出るほど欲しい情報。気にならないわけがない。



「っ! 王女殿下について、ですか?」



 ハジェス侯爵も気になるのだろう。一瞬揺(・)ら(・)い(・)だ(・)のが分かる。



「ああ。そなたは面会謝絶の間も王女に会いたいと何度も申し出ていたからな。王女の状況を知りたいのではと思ってこの場を設けたのだ」


「なんと! 陛下の恩情に感謝いたします!」



 ハジェス侯爵は感動したかのように大げさに頭を下げている。

 ただその様子を見る国王は穏やかに微笑んでいるが、目の奥はまったく笑っていない。



「これまでそなたがどれほど王女に尽くしてきたかを、私は知っているからな」


「ありがたき幸せ」



  しかし侯爵が、その目に気づくことはない。



「それでだ。王女なのだが、あと一ヵ月面会謝絶の期間を延ばす予定なのだ」


「! それは、なぜ……」


「うむ。王女との面会を望んでいたそなたには申し訳ないのだが、少し状況が変わってな」


「状況ですか? 王女殿下になにか……」



 そこで再び揺(・)ら(・)ぎ(・)始(・)め(・)た(・)。

 ここで国王が確信的な言葉を告げる。



「違う違う。そうではない」


「ではなぜ……」


「実はこの一ヵ月で、王女は歩けるまでに回復したのだ」


「なっ! そ、それは真ですか……?」



揺(・)ら(・)ぎ(・)が徐々に激しくなる。



「ああ、私も驚いた。だが確かな話だ」


「そ、そんな……」


「ははは。そなたも驚いたであろう? しかしこれほど喜ばしいことはない」


「え、ええ。その通りでございます」



 侯爵は笑顔を浮かべ頷いている。

 一見、王女の回復を喜んでいるように見えるだろう。けれど見えない内側は荒れ狂っていた。



「あと一ヵ月もすればもっと回復するかもしれない。そういった事情から、王女への面会はもう少し待ってくれ」


「一ヵ月……」


「なに。一ヵ月などあっという間だ。そなたもどうせなら元気になった王女に会いたいだろう?だからもうしばらく待ってくれ」


「……分かりました」



 侯爵は笑顔のまま。しかしその笑顔は、先ほどよりもぎこちない。



「ああ、それとこの件はまだ公表していないからな。身内であろうと他言無用で頼むぞ」


「はい」


「話は以上だ」


「……承知しました。それでは失礼します」



  ――バタン



 侯爵が出ていったことで、部屋には国王一人。

 国王はそっと目を閉じる。そして少しして目を開けた。



「もうよいぞ」



 国王の視線の先。そこには誰も座っていない一人掛けのソファが一つ。

 しかし次の瞬間、そこに小さな子どもが突然現れた。まるで最初からその場にいたかのように。



  ◇◇◇



  (つかれたぁぁ……)



 もちろん小さな子どもというのは私のこと。実は私は最初からこの部屋にいたのだ。



「ごくろうだったな」



  国王から労いの言葉がかけられる。まぁ光栄だとは思う。

 けれど今の私に必要なのは言葉ではなく糖分だ。



「……ちからをたくさんつかいました。あまいものがたべたいです」


「わかった。すぐに用意させよう。その間少し休んでいなさい」



 そう言って国王もこの部屋から出て行った。きっとおやつの手配をしに行ってくれたのだろう。



「はう……」



 私はコテンと横になった。

 この部屋にいるのは私ただ一人。だからお行儀が悪いのは見逃してほしい。



「それにしても、まどうぐってすごい」



 私は自身の腕に嵌めてあるブレスレットを見た。これは国で管理されている魔道具だ。

 しかるべき時にしか使うことが許されない、大変貴重なものらしい。



「これをつかえば、とうめいにんげんになれるなんてね」



 ただ魔導具の効果を維持するのに、魔力を大量に消費するので使いどころが非常に重要になるのだそう。



「まぁわたしにはかんけいないけど」



 私の魔力量は魔力測定器を壊すほど。

 たしかに疲れはした。でもこの程度の疲れは、甘いものを食べれば吹き飛んでしまう。



「むふふ〜。きょうのおやつはなんだろう〜」



 それから少しして、ウキウキな私の前に一枚の皿が置かれた。

 その皿には、断面の層が美しい一品が。

 はい、今日のおやつはミルクレープでした。

 やっふい。


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