第15話 王子襲来
国王との話し合いから二週間。
現在は一ヵ月の面会謝絶期間のため、城に行く必要はない。
最近は何かと忙しかった。
だから思いっきりのんびりゴロゴロしてやるんだと決意し、充実した日々を送っていた。
(この生活がずっと続いてほしい)
しかしそんな願いもむなしく、嵐は突然やってくる。
その日の午前のおやつタイムは、天気がいいので外で過ごしていた。
おやつはエクレア。チョコレートとカスタードクリームのハーモニーが最高の一品だ。
「おいしい〜」
「お嬢様、お口にチョコレートが付いていますよ」
そう言ってミアが私の口を拭いてくれる。
「ありがとう」
ああ、なんて幸せな時間なんだろう。
おやつはおいしいし、専属侍女は有能。
太陽の光は優しく、風はそよそよと心地いい。それに茂みからはガサガサと音が⋯⋯
(⋯⋯音?)
――ガサガサッ
「えっ」
ハッとして、音のする方に意識を向ける。
まさか公爵邸に賊でも入ったのだろうか。
この場に緊張が走る。そして、
――ガサッ!
「っ!」
「エステル!」
「⋯⋯へ?」
茂みから飛び出してきたのは、白金の髪に青い瞳の子ども。
「クリス、さま?」
「そうだよ!」
「どうしてここに⋯⋯?」
なぜ目の前に、この国の王子がいるのだろうか。
理解が追いつかず戸惑っていると、王子がニコリと笑って言った。
「遊びに来た!」
「え」
(遊びに来たって⋯⋯)
王子が来るなんて聞いていない。
もし来るとすれば、父が伝え忘れることなんてないはず。
ということは、王子は先触れなしで突撃してきたことになる。
(いやいや⋯⋯アポ、取ろう?)
しかし王子はそんなのお構いなし。
「遊ぼう!」
そういうやいなや、私の手を取って走り出す。
「ちょっと、まって⋯⋯」
息を切らしながら、なんとか声を出す。
しかし残念ながら私の声が届くことはなく、王子が帰るその時まで、徹底的に遊びに付き合わされたのである。
◇◇◇
翌日。
(くたくただよぉ)
八歳の少年の体力に三歳児がついていけるわけもなく。
結果、ベッドの住人と化した私。
そんな私の元に父がやってきた。
「エステル。体調はどうだい?」
「⋯⋯あんまりよくありません」
身体中筋肉痛だし、なんだか熱っぽい。
子どもの身体は思っていた以上に繊細だったらしい。
(ゼリーが食べたい)
あまり食欲はないが、冷たいゼリーならつるりと食べられそうだ。
あとで料理長に作ってもらおう。
「はぁ」
父がため息をつく。めずらしい。
どうしたのかと思い父に問いかけた。
「どうしたんですか?」
「⋯⋯実はつい先ほど王家から手紙が届いたんだが、どうやら昨日の王子殿下の暴走は、陛下の言葉が発端だったらしい」
「へいかの?」
「ああ」
父の元に届けられた手紙には、私への謝罪と、今回の件の経緯が書かれていたそうだ。
現在、王女への面会は誰一人としてできないことになっている。
たとえそれは血の繋がった兄妹でも例外はない。
しかし王子もまだ八歳の子ども。妹に会えず寂しかったのだろう。
だから父である国王に相談した。
『メロディに会えなくてさみしい』
その相談に対し、国王はこう答えた。
『それなら友達と遊びなさい』
将来の側近候補として、王子と交流を持っている令息が何人かいる。
国王はその中の誰かと遊びなさいと言ったつもりだった。
しかし王子が選んだのは、まさかの私。
国王もさすがに予想していなかった事態だった。
(いや、私もだよ)
なんせ、王子と顔を合わせたのは最初の謁見の一度だけ。
たしかに友達になろうとは言われた。けれど歳も離れているし、性別も違う。
私と遊んでも特に楽しくないはず。それなのに、なぜ選ばれたのか分からない。
マナリィの花の一件で懐かれてしまったのか。
それとも面白い奴認定でもされてしまったのか。
(どっちにしても困るけど)
今回、国王から謝罪の手紙が届いたのだ。きっと今頃、王子も反省しているはず。
だからこれ以上は何も言わない。
「おいしい」
「料理長に伝えておきますね」
「うん」
私はつるりとみかんゼリーを頬張った。
身体はそこそこ辛いが、一日ゴロゴロできたし、おいしいゼリーも食べられた。
(たまにはこんな日もいいかも)
⋯⋯なんて思ったのがいけなかったのだろうか。
残念なことに、この日から三日おきに王子が遊びに来るようになる。それもアポを取って。
王子が事前連絡をしてやってくる。
きちんと手順を踏んでいる手前、追い返すわけにもいかない。
結局王女の面会謝絶期間が終わるまでの残り二週間、私は王子に振り回され続けたのであった。
(や、休ませてぇぇぇ!)




