第14話 私は三歳
「何だと!?」
(もぐもぐ)
国王が叫ぶ。
普段穏やかな国王が、ここまで感情的な反応を見せるなんて意外だ。
「あなた落ち着いてください」
(もぐもぐ)
そんな国王を宥める王妃。
「陛下⋯⋯」
(もぐもぐ)
そして戸惑うグレイ。
(ゴクン。うん、なかなか面倒くさい)
そんなことを思いながら、次のケーキを口へと運ぶ。
(むふふ〜、苺ショート〜)
三歳児は黙ってケーキを食べていよう。そう思ったのに⋯⋯
「エステル嬢⋯⋯」
「⋯⋯」
眉をハの字に下げ、助けを求めるグレイ。
(はぁ⋯⋯仕方ない)
私はケーキがなくなった皿を見た。
「へいか」
大人の中に、ぽつりと幼い声が混ざる。
普通ならば大人の声に掻き消されてしまうだろう。
けれどその声は幼くも妙に落ち着いていて、不思議と耳に響いた。
「ケーキのおかわりはありますか?」
今のこの場に、まったくもって似つかわしくない話題。
けれど国王の心は不思議と鎮まった。
「⋯⋯すぐに用意させよう」
「ありがとうございます」
グレイのお願いを聞きつつ、自分の要求もできた。
(やったね)
内心にやけながらも、表情は子どもらしい笑顔でお礼を言う。
そんなこともあり、その後の報告は比較的落ち着いた雰囲気で進んだ。
「――その話が本当であれば、娘の病は治る可能性があるのか?」
「断言はできませんが、可能性はあるかと」
「そうか⋯⋯」
赤い魔力さえ体内になければ、結晶は徐々に小さくなっていくことが確認できたのだ。
それなら赤い魔力から遠ざければいい。
完治はしなくとも、体調がよくなる可能性は大いにある。
「では本日より一ヵ月の間、娘への面会は誰であろうと許可しないことにする。私も含め、な」
「承知しました」
一ヵ月の面会謝絶。それも身内を含めるという。
ということは、家族にも会うことができないということ。
王女は寂しい思いをするだろう。
けれどこの一ヵ月は、様々な問題を解決するために必要な時間になるはずだ。
病の治療のため、そして犯人を炙り出すための。
「エステル嬢」
「はい」
「そなたには申し訳ないが、一月後、もう一度娘の容態を見てもらいたい」
魔力を視ることができるのは今のところ私しかいない。
それに王女の治療に関しては、最初から仕事だとは思っていない。
「わかりました」
だからその頼みは受け入れる。けれど、
「それと、そなたの能力で赤い魔力の持ち主を探してほしい」
追加された頼み事。頼み事と表現したが、国王の言うそれは王命と何ら変わりない。
拒否なんてしようものなら、どんな罰を受けるか。
けれど私の答えは『いいえ』一択だ。
「おことわりします」
「⋯⋯なぜだ? そなたは娘のためにこれまでも協力してきてくれたではないか。ならば病の原因である犯人を探す協力も」
「へいか。わたしはさんさいです」
無礼かもしれないが、私は国王に向けて短い指を三本立て言葉を続ける。
「それに、きしでもまどーしでもありません」
「⋯⋯」
「おうじょさまには、げんきになってほしいとおもっています」
これは本心だ。だからこそ、今こうしてここにいる。
「でもはんにんをさがすのは、わたしのしごとではありません」
はっきりと言葉にする。三歳児に犯人探しをさせるのはいかがなものかと。
そういうことは専門の人がやればいい。そのためにきちんと給料が支払われているのだから。
だけど私には給料も手当も報酬もない。
(ケーキは報酬じゃないよ? 当然の権利だもん)
まぁ働きたくないので、それらをもらっても困るのだけれど。
お手伝いならまだいい。でも仕事は責任が付いてくる。それはいらない。
「あなた。エステルさんの言うとおりよ」
「私もそう思います」
王妃とグレイが援護をしてくれる。
(よかった)
丸め込まれる気はさらさらなかったが、二人も味方ならこれ以上は言わなくてもいいだろう。
私は静かに国王を見つめる。
「ふっ⋯⋯」
少しして、国王が小さく息を吐く。
「そうだったな。そなたは三歳だった」
国王の言葉は、まるで今思い出したかのよう。
(え。忘れてた?)
そんなことないよね?
自分で言うのもなんだけど、こんなに愛らしい三歳児はそうそういないはず。
だから忘れたなんて⋯⋯
「大人びた言動が多いからか、ついそなたが三歳だったことを忘れていた」
(忘れてたのかよぉ⋯⋯)
ため息をつきたい気分ではあるが、さすがにそれは我慢しておく。
むしろここでため息をつけば、さらに大人びた子どもだと思われてしまうかもしれない。
それは困る。
(私は正真正銘の三歳児なんだから)
でも今ここではっきり言っておいてよかった。
言わなければいつの間にか仕事を押し付けられていた可能性だってある。
よくやった私、と思うことにしよう。
「まずはあやしいひとをみつけてください」
犯人が王女の使用人なら、一ヵ月後に結晶は小さくなってはいないだろう。
反対に使用人以外が犯人であれば、その犯人は相当焦るに違いない。
きっとなんとかして王女と接触しようと試みるはず。
「みつけたら、わたしがそのひとのまりょくをみます」
「申し訳ない。エステル嬢、感謝する」
「エステルさん、ありがとう」
(まぁ気持ちは分かるし)
最終的には魔力を視ないことには解決しない。それは理解している。
だから私が手を出すのは、本当に最後の最後だけ。
「ただ、ひとつおねがいがあります」
お手伝いすることにしたが、私には解決しなくてはいけない問題がひとつ。
「ああ、なんでも言ってくれ」
国王がなんでもと言った。
(それなら心配いらないね)
私が唯一懸念していた問題。
「おとうさまのせっとくをおねがいします」
それは父の説得だ。
受け入れたといっても、私はまだ未成年。
何をするにも親の許可は必要になる。
前回は自分で父を説得した。けれど結果は、黒歴史を作る羽目に。
もう二度とあんな過ちを繰り返したくない。
だから私は、国王にすべて丸投げすることにした。
「公爵の許可か。分かった。私に任せておきなさい」
「ありがとうございます」
(これで安心)
一番の問題が解決したことで、私はホッと息をついたのであった。




