第8話・女神の果実
池に写った自分の姿を見て驚いた。
そこに写っていたのは、顔が童顔…というか、4歳のままの自分の顔で体が15歳くらいに成長していた。
「キモ…」
一刻も早くこんな姿から元の4歳に戻りたいと願った30分はとても長く感じた。
それから、何度も失敗した。脚と腕の長さだけ大人になったり、顔だけ大人になったり。
失敗しては材料の組み合わせと比率の再計算、結果もどうなったかをメモした。
「はぁ…。今の僕じゃここが限界かな…。」
そもそも、制作できるレベルに達していないだけかもしれない。この国の素材で作れるものでは無いのかもしれない。そうなったら4歳で国をでて素材を集めるのも難しい。
諦めモードに入っていたある日、メイド達が休憩時間に入っていたキッチンに、おやつをもらいに行った時のことだ。
「そういえばさ、最近市場に来てるお店に『女神の果実』っていうものが売られているらしいじゃない!?」
「あ!聞いた聞いた!女神が作ったと言われてる木に10年に1度だけ実るって言われるものでしょ?」
「そうそう!その実を一つ食べると肌がすべすべに、二つ食べると若返るってものらしいの!」
「え、でも私、逆に年老いたって話も聞いたことあるわよ?」
「えーー?!運ってこと?!そんなの怖いじゃない!」
「はいはい!もう休憩は終わり!仕事に戻るわよー!」
メイド長のカエがパン!と手を叩いて他のメイド達の話を遮った。皆が仕事に戻ったあと、アルフレイルも急いで紅茶とお菓子を持って部屋にもどった。
「女神の果実…か。本には載っていない、ということは噂でしかないもの…本にするまでには研究がされていないものなのか…。」
机に向かい、もう一度植物辞典など探してみたものの見つからなかった。
「本じゃだめか…となると、やっぱ現地調査だな!」
屋敷中、走ってマリアを探してようやく見つけた。
「マリアーー!今日は買い物もういった?!僕も一緒に行きたい!いってもいいよね?…ね?」
こうやって、最後はマリアの手を握って目をウルウルさせるとマリアはいつも首を縦に振ってくれる。今回も期待通りに頷いてくれた。
♢♢♢
2人で街のはずれにある、フォース市場に向かった。
「マリアちゃん、久しぶりだね!元気にしてたかい!」
その市場についてすぐに声をかけてきたのは、果物を主に取り扱っているお店の店主である、陽気なご婦人だった。
「あ!マオさん!お久しぶりでーす!」
「今日は北の方の国から仕入れてきた甘い果物もあるよ!」
マオが指さしていたのはまさしくメロンのようだった。
「メロン?」
「おや、ぼうや、よく知ってるねぇ。」
「アルフレイル様、さすがです!」
「あ、えーっと…本で読んで知ってたんです。」
「マリア、この子は?」
「あっ、ご紹介が遅くなりました!領主のご子息の、アルフレイル様です。アルフレイル様、こちらはこの市場を仕切ってるマオさんです。」
「初めまして。アルフレイル・ミラルディアです。よろしくお願いします。」
「領主様の…!これはご丁寧に。マオといいます。領主様にはこの市場を作ってくれたからね、すごく感謝してるんだ。」
国外からの商人が出店できる市場は、アルフレイルの父、ランベルトが領主になってから作られた場所だ。それまでは、国内の商人だけが市場で商売ができていたが、国外にも美味しい食べ物や見たことのない薬草、この国にはない宝石などを流通させないのは大きな機会損失だとランベルトは考え、この場所を作ったらしい。
それを聞いた時、父の見事な計らいに、アルフレイルは誇らしい気持ちになった。
「僕も、こんなに活気にあふれている市場が見られて嬉しいです!これからも頑張ってください!」
「ありがとう。アルフレイルぼっちゃんが初めて店にきてくれたお礼に、メロン1つサービスだ!食べておくれ」
「え!いいんですか!ありがとうございます!そしたら次来た時はたくさん買わせていただきます!」
「そうかい、楽しみにしてるよ!」
マリアの買ったブドウとメロンをカゴに入れて、マオに手を振って別れた。
「良い方でしたね!」
「はい!あのお店の果物はすごく美味しくて奥様もとても気に入ってらっしゃるんですよ。明日朝食にお出ししますね!」
「ありがとう!そういえば、最近噂になっている女神の果実はどこのお店で買えるのかな?」
「それでしたら、1番端にあるあのお店なんですけど、お休みのことが多くて…あ、でも店主さんいるみたいですね!」
近づいていくと、白いローブを纏った小さなおばあちゃんが店の奥に座っていた。
店棚に並んでいるのは、先ほどのお店とは違う果物や薬草だった。
「久しぶりね。」
「え?」
あまりにその見た目にはそぐわない声色だった為、他の人が近くにいるのではと、周りを見渡したが誰もいない。それどころか、隣にいるマリアはぴくりとも動かず、笑顔のまま止まっていた。
「え…マリア?」
手を引っ張ってみるが動かない。
「時間を止めさせてもらったわ。」
「マリア!マリア!!」
呼びかけても答えず、少し遠くに見える人も、風に揺れる旗も、全てが止まっていた。
市場の喧騒が、一瞬で止まったのだ。
背筋に冷たいものが走る。
「誰だ?!何をしたんだ!」
「ちょっとあなたと話がしたかっただけよ。
――キョウ。」
♢♢♢




