第16話・僕にできること
最初の魔物、ファングボアとの戦闘を終え、素材の回収もひと通り済ませた。
ファングボアの肉は、高級料理店でも扱われるほど美味しい食材らしく、せっかくだから馬車に積めるだけ積んでいこうということになった。
皆で何度か往復しながら素材を運んでいると、ふと、バルトさんの腕から血が滴っていることに気がついた。
「……あれ?」
最初はファングボアの血だと思っていた。
しかし、よく見ると――。
「バルトさん! 怪我をしているじゃないですか!」
「あぁ、このくらい大したことないっすよ」
そう言ってバルトさんは荷物から布を取り出し、傷口に乱雑に巻きつけようとする。
「待ってください!」
僕は慌ててアイテムボックスを開いた。
そして、中から回復薬と魔力回復薬を取り出す。
「これを使ってください!皆さんも、よかったらどうぞ!」
「……え?」
リアンルージュの全員が固まった。
「アイテム……ボックス?」
ロロティアさんが目を丸くする。
「あ……」
隠すつもりはなかったとはいえ、アイテムボックスまで見せてしまった。
しかし、今さら隠すわけにもいかない。
「実は僕、アイテムボックスのスキルを持っているんです」
「アイテムボックスのスキル持ちなんて、初めて見た……」
ロロティアさんが呆然と呟く。
「アイテムバッグでも代用はできるけど、容量も限られているし、かなり高価だからな」
レオさんが教えてくれた。
「そうなんですね……」
僕自身、アイテムボックスがそこまで珍しいものだとは知らなかった。
「それより、バルトさん。早く傷を治してください」
「いや、でも貴重なものだろ? このくらいなら――」
「駄目です!」
「え?」
「命をかけて僕たちを守ってくださったんですから、遠慮しないでください!」
「……ははっ。アルって、意外と頑固なんだな」
「そうですよ!」
僕がもう一本、回復薬を差し出すと、バルトさんは苦笑しながら受け取った。
「じゃあ、ありがたくいただくか」
そう言って、瓶の中身を一気に飲み干す。
すると――。
「……お?」
傷口から流れていた血が止まり、傷がみるみるうちに塞がっていく。
そして数秒後には、傷跡すら残っていなかった。
「おぉ……!」
バルトさんは腕を動かして確かめる。
「傷が……完全に消えたぞ」
ぐるぐると腕を回したり、傷があった場所を確かめるように触ったりしながら、驚いた声を上げた。
「前に飲んだ回復薬は傷跡が残ったんだけどな……。これ、どこで買ったんだ?」
バルトさんが空になった瓶をまじまじと見つめる。
「えっと……それ、僕が作ったんです」
「…………」
「……あっ! でも、ちゃんと僕自身で飲んで効果を確認しています! 安全性も大丈夫です!」
慌てて付け加える。
しかし――。
リアンルージュの全員が、再び口を開けたまま固まっていた。
「これを……アルが?」
レオさんが呟く。
「でも、まだ天命の儀も終わってないんだろ?」
「その年で回復薬を作ったの!?」
ロロティアさんが驚きの声を上げる。
「しかも、これ……普通の回復薬じゃないですよね?」
ロロティアさんは、自分が受け取った魔力回復薬の瓶を見つめている。
「僕が作ったものなので、たぶん……普通のものとは少し違うかもしれません」
ロロティアさんは少し迷ったあと、恐る恐る魔力回復薬を口にした。
「……え?」
目を見開く。
「魔力が……全部戻った」
「えっ?」
「本当に、全部です。こんな魔力回復薬……見たことありません」
「天才かよ……アル、すげぇな!」
アロさんが笑いながら僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ちょ、ちょっと! 髪が……!」
「はははっ!」
「本当にすごいです、アル君。ありがとうございます」
ロロティアさんも嬉しそうに微笑んだ。
「いえ。僕にできることは、このくらいしかありませんから……」
「このくらいって……」
レオさんが苦笑する。
「4歳の子供が言う台詞じゃないな」
「え?」
「でも……ありがとうな、アル」
そう言って、レオさんが僕の肩に手を置いた。
「この後も、俺たちがしっかりナディールまで連れて行く。安心してくれ」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして僕たちは再び馬車へ乗り込んだ。
その後も何度か魔物と遭遇したが、リアンルージュの連携は見事なものだった。
僕たちは大きな怪我をすることもなく、順調に森を進んでいった。
やがて――。
木々の向こうから、明るい光が差し込んできた。
「森を抜けるぞ!」
レオさんの声が響くと、馬車が最後の木々を抜ける。
その先に広がっていたのは、今まで見たことのない街の景色だった。
「……あれが、ナディール……!」
初めて見る隣町に、僕の胸は期待でいっぱいになった。
ティナも窓の外を見つめながら、静かに微笑んでいる。
そして――。
「……ただいま」
その声には、どこか懐かしさが滲んでいた。
♢♢♢




