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第15話・初めての魔物とリアンルージュの戦い


ナディールへ向けて出発したときは薄暗かった空も、いつの間にかすっかり晴れ渡り、遠くの山々まで見渡せるほどになっていた。


「よし、この辺ですこし昼休憩にしようか」


レオの声とともに、馬車がゆっくりと止まった。


これから先は、魔物が出ると言われている森へ入る。

その前に、安心して休めるのは僕としてもありがたかった。


「う〜ん……」


隣を見ると、ティナが眠そうに目をこすり、右腕を上げて背筋を伸ばしている。


「ティナ、よく眠っていたね」


「はっ! す、すみません……」


「いいんだよ。安心して眠れるうちに眠っておかないと」


「アルフレイル様は眠れなかったのでしょうか?」


「うん。初めて行く場所だから、楽しみで全然眠れなかったんだ」


そう答えると、ティナはくすりと笑った。


「アルフレイル様らしいですね」


「しっかりとお守りしますので、お二人とも身体を休めてくださいね」


ロロティアが優しく声をかけてくれた。


馬車の中でも、彼女は僕たちに飲み物を渡してくれたり、道が悪くなれば身体が揺れないよう支えてくれたりと、細かなところまで気を配ってくれていた。


「ロロティアさん、ありがとうございます」


ロロティアは軽く頭を下げた後、馬車から昼食に必要な物を降ろし始めた。

レオも、パーティメンバーに見張りや食事の準備などを手際よく指示している。


「僕たちも何かお手伝いさせてください」


「私もメイドをしておりますので、ある程度のことでしたらお手伝いできます!」


ティナも申し出る。


「じゃあ、お願いしようかな」


僕もできることを手伝いながら、野営の準備を眺めていた。

前世でもキャンプの経験はあるが、この世界では魔物への警戒など、気をつけなければならないことが多い。


パーティメンバー全員が各自の仕事を淡々とこなしていたが、特にアロは森での生活経験が長いらしく、火を起こすところから調理まで、驚くほど手際がよかった。


「アロさん、これはどうやって火をつけているんですか?」


「ん? これか? こうやって乾いた枝を――」


僕が質問するたび、アロは手を止めて丁寧に教えてくれた。

ティナもロロティアと一緒に、全員分の食器や飲み物を準備していた。



やがて昼食を食べ終えると、それぞれが武器や装備を確認し始めた。


「よし。そろそろ行こうか」


レオの声に、全員が頷いた。


いよいよ、森へ入る。


◇◇◇


森の中は木々が生い茂り、昼間だというのに薄暗い。


しかし、街と街をつなぐ数少ない街道のひとつということもあり、馬車が通れるよう道はしっかりと整備されていた。


「魔物って、どんなものが出てくるんですか?」


僕が尋ねると、レオが少し意外そうな顔をした。


「あれ? ティナちゃんはナディールからミルヴェリオスに来たんだろ? この道を通ってきたんじゃないのか?」


「あ〜……それが、ナディールを出てからの記憶があまりなくて……。馬車の中でほとんど眠っていたので……」


「ははっ。今朝のティナちゃんを見てたら、なんとなく分かる気がするなぁ」


「うぅ……」


ティナが恥ずかしそうに俯く。


「この森には、そこまで強い魔物は出ないよ。C級のファングベアや、D級のホーンラビットなんかがいるな」


「まぁ、オレたちなら余裕っすよ!」


「安心してください! 蹴散らしてやりますから!」


バルトとジルトが胸を張る。


「ありがとうございます。とても心強いです」


「それに、この森を走っている間はロロティアが魔法で周囲を警戒してくれている。何か近づいてくれば、すぐに探知できるはずだ」


「えっ! それって、すごく大変なんじゃないですか?」


ティナが心配そうにロロティアを見る。


「大丈夫ですよ。魔力回復薬も用意してありますから」


ロロティアは笑顔で答えた。


そんな会話をしながらしばらく進んでいると――。


ロロティアの表情が変わった。


「……待ってください」


「どうした?」


「魔物がいます」


車内の空気が変わった。


「数は?」


「五匹。前方からこちらへ近づいてきています」


「全員、戦闘態勢!」


レオの指示が飛ぶ。

バルトが馬車を止め、ジルト以外のメンバーが素早く馬車から降りた。

ジルトは僕とティナのそばに残り、短剣を構える。


「ファングボアだ!」


木々の向こうから、巨大な猪のような魔物が姿を現した。

その名の通り、口元から伸びた鋭い牙が特徴的だ。

 

一匹がこちらに気づくと、地面を蹴って一気に突進してくる。


「来るぞ!」


「おりゃああっ!」


バルトが真っ先に飛び出した。


「バルト、また先走りやがって……!」


アロが呆れたように呟く。


次の瞬間。


ヒュッ!


放たれた矢が、先頭を走っていたファングボアの頭部に突き刺さった。


「おい! 俺の獲物を横取りするなよ!」


「悪い悪い! そんじゃ、あとは任せるぜ!」


アロが笑いながら次の矢を番える。


その間にも、バルトは二本の短剣を巧みに操り、ファングボアの懐へ潜り込んでいく。


「そこだ!」


一閃。


急所を正確に捉え、ファングボアが地面に倒れた。


「すごい……!」


僕が思わず声を漏らした。

一方、レオは盾でファングボアの突進を受け止め、その勢いを殺してから剣を振り下ろす。


「はぁっ!」


ズンッ!


一撃でファングボアが倒れた。


「……強い」


ティナも目を丸くしている。

先ほどまで穏やかな笑顔を見せていたレオも、戦闘中は別人のようだった。


その後も、ロロティアの魔法による援護と、アロの遠距離攻撃、バルトとレオの近接戦闘が見事に噛み合っていく。


そして――。


「これで最後だ!」


レオの一撃がファングボアを捉えた。

五匹の魔物は、あっという間に地面へ倒れた。


「ふぅ……終わったな」


アロが木から飛び降りる。


「じゃあ、回収するか」


「ジルトさん、回収って……魔物から素材を取るんですか?」


「ああ。倒した魔物を解体して、売れる素材を集めるんだ」


「僕も見てみたいです!」


「アルフレイル様、危ないですよ!」


ティナが止めようとしたが、僕は「勉強のためだから」とお願いした。

レオとアロに教えてもらいながら、魔物の解体方法や、どの部分が素材として売れるのかを教えてもらう。


「牙や毛皮は状態が良ければ売れる。魔物によっては魔石が取れることもあるぞ」


「なるほど……!」


知らないことばかりで、とても勉強になる。


初めて見る魔物。


初めて見る冒険者達の戦い。


初めて見る魔物の解体と素材。



今日1日だけで、僕はたくさんのことを学んだ。


けれど――。

この度で僕が初めて知ることはまだまだあった。


♢♢♢


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