第14話・いざ、ナディールへ
まだ夜が明けきらないうちに目が覚めたが、いつものように眠い目をこすることもせず、ベッドから降りた。
今日は、ティナとかねてから約束をしていた、隣街のナディールに向けて出発する日だ。
4歳の僕が初めて街を出る記念すべき日でもある。
普通、4歳の子供が街を出るとなれば、親は止めるか同行するのだろうが…。
ミラルディア家はそんなこと全くない。
というか、僕だけ放任されている。しかし、決して嫌われているとか、育児放棄されているわけではない。
今日のことも、冒険者ギルドに依頼に行ったことや馬車の手配などの準備を始める前にちゃんと両親に報告し、了承は得ている。
「ナディールに行くの?帰ったらたくさんお話聞かせてちょうだいね」
そう言って笑顔で答えてくれたお母様と、
「道中、冒険者の皆さんから戦い方や野営についてもしっかり学んでくるんだぞ。」
と、短剣を持たせてくれたお父様。小さいうちから、こうして色々な経験をさせてもらえるのは、本当にありがたい。
マリアは、前日に服や荷物など準備していてくれたようで、部屋の中心にあるソファには、綺麗に畳まれた服の上に手紙も置いてあった。
『アルフレイル様、いってらっしゃいませ。無事に帰って来てくださいね。ティナをよろしくお願いします。 マリア』
「……ありがとう、マリア。」
着替えを済ませ、カバンの中にそっと手紙をしまい込み、部屋を出た。
屋敷のロビーには、ひと足先に準備を終えたティナが待っていた。
「ティナ、おはよう。」
「アルフレイル様、おはようございます。」
まだ窓の外は薄暗く、ロビーも廊下もしんと静まり返っていたので、僕とティナは小声で挨拶をかわした。
「さぁ、いこうか。馬車は屋敷の外に呼んでるよ。」
「はい、行きましょう!」
小声で話すからか、自然と身振り手振りまで小さくなっていた。
馬車を屋敷の外に呼んだのは、できるだけ静かに出発しようと思ったからだ。
馬の鳴き声や馬車を引く音は、この静まり返った時間帯だとより大きく聞こえる。
馬車に近付いていくと、人影がぼんやり見え始めた。今日から護衛を引き受けてくれる冒険者の皆さんだった。
「おはようございます。僕はアルフレイル・ミラルディアです。こちらはティナ。よろしくお願いします。」
護衛依頼を引き受けてくれた、Cランク冒険者の皆さんにあいさつをした。
「まだ小さいのにしっかりしてるわねぇ…」
手を口に当てて感心していたのは、いかにも魔法使いという格好をした女性だった。年はティナと同じくらいに見える。
「ロロティア、そんなにじろじろ見たら失礼だろ。」
ロロティアと呼ばれた魔法使いを諌めたのは矢筒を背中に背負った髪の長い男の人だった。格好を見れば、だいたいこのパーティでの役割が見えてきた。
「アルフレイル様、ティナさん、こちらこそよろしくお願いします。俺のパーティも紹介します。俺はこのパーティ『リアンルージュ』のリーダーでレオといいます。メンバーは、ロロティア、バルト、ジルト、アロです。」
よろしくお願いします、と言いながら全員が一礼した。
馬車に乗り込み、目的のナディールへ向けて出発した。まだ薄暗いのに、誰も眠ろうとはせず、外を見ていたり武器を磨いたりしていた。
この沈黙は、緊張からくるものだとひしひしと感じた。少しでもその場を和ませられないかと、僕は口を開いた。
「皆さんはパーティを組んでどのくらいなのでしょうか?」
「まだ一年くらいですかね。最初は俺とアロ、ロロティアの3人でパーティを立ち上げました。」
リーダーのレオが答える。レオの赤い髪が朝日に照らされて、すこしオレンジ色に輝いていた。
「そうね、そのくらいかしら。」
「ロロが彼氏に振られて酒を飲みながら泣きわめいていたところを、オレとリーダーがパーティ組もうって声をかけたんだよな。」
アロはロロティアをからかいながら笑った。
「もう!言わないで!あんな男、こっちから振ってやったのよ。」
ロロティアは、ふんっと息を漏らし横を向いた。
「ははっ。まぁまぁ、アロ、そのへんにしとけよ。」
レオは、いつものことと言うようにロロティアとアロの間に割って入った。そして続けて言った。
「バルトとジルトは兄弟なんだ。2人でいくつものダンジョンを攻略していてな。いつの間にか、『ダンジョンキラー』なんて呼ばれるようになってたんだ。」
「へぇ!すごいですね!」
ティナも僕と同じように驚いて声を上げた。
「それで、半年前にオレたちから声をかけたんだ。」
「オレたちも、もともと2人で行動しようとしていたわけじゃなかったからな。」
「そうそう。『このパーティで骨を埋めたい!』と思えるようなパーティがなかなか見つからなかっただけなんだ。」
バルトは馬車の手綱を握り、ジルトはその横に座って会話に参加してくれた。
「そうなんですね。でもこうして、入りたいと思えるパーティを見つけられたんですよね!なにが決め手だったのですか?!」
「このパーティの心意気に惹かれましたね!」
「そう!3人の冒険者の在り方というか、ね!」
兄弟で息を合わせたように答えた。他の3人は頬を染め、照れているようだった。
「ふふっ。皆さんが護衛を引き受けてくださって良かったです!」
僕とティナが顔を見合わせて笑った。
「あっ、そうだ。僕のことは気軽に『アル』って呼んでくれると嬉しいです。あと敬語も使わなくても大丈夫です。」
「え、でもそれって不敬罪に当たるんじゃ…」
バルトとジルトが顔を見合わせている。なにか過去に貴族とのトラブルでもあったのだろうか…。
「いえいえ!僕がそうして欲しいので!この数日、皆さんから色々学ばせていただきたいと思っておりますので是非!……もちろん強制はしませんが…」
そういうと、リアンルージュの全員の表情がぱぁっと明るくなり、緊張が解けたようだった。
「んじゃぁ、アルって呼ばせてもらうぜ!」
「敬語ってうまく使えるか不安だったのよねぇ」
「まずどれが敬語かわかんねぇしな!」
「貴族様の護衛をすることも増えるだろうし、ちゃんと勉強しないとダメだってわかってるんだけどね。」
各々が不安を吐き出した。
それを見てティナと顔を見合わせてまた笑い合った。
「アルフレイル様、楽しくなりそうですね!」
「うん。ホントだね。」
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