第12話・ウワサの店の怪しいお客
開店初日から数日が経ち、レイドの店の噂は広まっていった。
「あの店行った?!私、昨日ピンクのグラスを買ったのよ!」
「俺は水色の素敵な模様の入ったお皿を奥さんにプレゼントしたら喜んでくれたよ!」
「レイドさんのお店のガラスは割れにくくていいわよね!昨日、子どもが落としてしまったのに割なかったの!」
「もうすぐアクセサリーができるらしいのよ。絶対買っちゃう」
商品だけでなく、街の女性達の間では、『ガラスの王子』と言われるほどレイドの人気が出ていた。
「すごい人気ですね、レイド様。」
少しむっとした表情でティナが言う。
「頑張って作った甲斐があったよ。あとはお母様やお父様にも使っていただけたらなぁ。」
(これだけ噂が広まっているのに、屋敷ではまだ使われていないようだったし…。)
「それでしたら、旦那様と奥様のお揃いのワイングラスなどをプレゼントしたらいかがでしょうか?」
「そうだね、なにか考えるとするよ。」
今日も大人の姿に変わったアルフレイルは店に立った。
ティナは、買い物にきた客のふりをして話していたが、他の客が来始めたので軽く頭を下げて去っていった。
アルフレイルの身体が戻る時間まで、ティナは屋敷に一度戻ることになっている。
「はぁ…。普通の4歳の子どもならまだ文字も書けないというのにあの方は…」
アルフレイルのことを考えて歩いていると、建物の影からレイドの店をじっと見つめるフードの男に気がついた。
(……あの男、怪しいわね…。)
気付かぬふりをして少し歩いたところで、その男の様子が窺える物陰に身を隠した。
間違いなくレイドの店を見張っている。難癖つけて商品の価値を下げようとする人間は、過去にも嫌というほど見てきた。
…が、その男は少し違うようだとティナは感じていた。
しばらくして客がいなくなったのを見計い、その男はレイドの店の前で足を止めた。そして、商品を手に取り眺めはじめた。
ティナは、その男に声をかけようか迷ったが、ぐっとこらえ、その様子を見守ることにした。
「これはどこで作られているものでしょうか?」
「申し訳ございませんが、それはお答えできないのです」
「そうですか…それでしたら、商品はここにある分だけでしょうか?」
「今はそうですが、欲しいものがありましたらおっしゃっていただければ明日にはご用意いたしますよ。」
レイドは前世で培った営業スマイルを見せると、フードの男は3本の指を立てて言った。
「300!このグラスと同じものを頼む。」
「300?!すみませんがその数を明日までに用意するのは難しいです。」
「いつまで待てば用意できる?!」
「2週間いただければ…」
1週間でも余裕で作れてしまうが、すぐにその数を用意できるというと目立ってしまうと考えた。
「2週間…」
「それでよろしければまた2週間後にいらしてください。量が量なので、少しお安くしておきます。」
「いや、定価で買わせてもらう。2週間後、取りに来るとしよう。」
「かしこまりました。ありがとうございます。」
「今日はこの宝石をいただこう。」
「これは宝石ではなく、ガラスを加工して極限まで磨いたものなんです。それでもよろしいでしょうか?こちらは銀貨2枚になります。」
「そうなのか…これも…本当に噂以上だな…」
「ありがとうございます。」
満面の笑みでお礼を伝えた。フードの男は、表情に出さないものの、その反応が素直に嬉しかった。男はそのブローチを購入し、大事にカバンにしまいこんだ。
「また、2週間後にくる。」
「はい!お待ちしております!」
その男と入れ違いにティナが戻ってくる。
「レイド様!大丈夫でしたか!?」
「へ?何が?」
「今の男、ずっとレイド様のお店を観察していて怪しさ満載でしたので!」
「大丈夫だよ、いいお客様だったし。それより、今日はもう帰るよ。」
「え!まだ時間には早いですがどうかされましたか?」
「今のお客様がね、2週間後に300個のワイングラスを注文してくださったから早めに用意しておこうと思ってね。」
「さ…300!?」
驚いてアルフレイルの服を落としてしまったティナが慌てて拾い上げる。
「大変申し訳ございません!」
「大丈夫だよ。着替え、もらうね。」
「はい、本当にすみません。…ところで300って、あのワイングラス1つで銀貨1枚ですよね?!」
「うーん…もしかして転売?どこかで商売やってる人なのかもね。」
「え!いいのですか?!あの男の店でもっと高く売ることになるかもしれないのですよ?!」
「うん、まぁいいんじゃないかな?他の土地で売ってくれるなら、もっと俺の作ったものを使ってくれる人が増えるって事だもんね。」
「まぁ…確かに同じものを作ろうとしても、このレベルは難しいでしょうし…ただ、考えられるのはアルフレイル様の商品と偽って売ったものが不良品だったりするとアルフレイル様の評判が落ちることにもなります。」
「あ、そういうこともあるのか。まぁ今度それとなく聞いてみるよ。」
子どもの姿に戻り2人で屋敷に戻ると、さっそく商品製作に取り掛かった。
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