第11話・商人 レイド
初めて『オトナ薬』の制作に成功してからは、大人の姿になれる間だけ、今まで作り貯めたガラス製品をフォース市場で販売することにした。
ティナが元商家の娘だということはマオも知っていたこともあり、ティナに仲介してもらい、最近空いたという区画に出店できることになった。
その場所は、以前女神様がおばあちゃん店主として使っていた場所だった。
「こんにちは、マオさん。ティナさんにご紹介いただき店を構えることになりました。レイドと申します。よろしくお願いします。」
「こんにちは、初めまして。話はティナちゃんから聞いているよ。分からないことはどんどん聞いてちょうだい!」
「ありがとうございます。未熟者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。」
胸に手を当て背筋を伸ばし、貴族らしい洗練されたお辞儀をすると、マオは「ほう」と声を漏らし感心したように頷いた。
「あとでお店見にいくわね!」
元気に手を振って送り出してくれた。
(本当にいい人だなぁ。他のお店に恥ずかしくないように今日から商人として頑張るぞ!)
さっそく店に商品を並べることにした。錬金術で作ってきたグラス、花瓶、砂時計、皿などのガラス製品だ。回復薬や解毒薬等も大量に作ってはあるが、他の店と競合になるのを避けた。
♢♢♢
ティナに協力を依頼してから今まで作ったものを見てもらった時のことだ。
「なんですか!これはーー!!」
「何って、今まで僕が作ってきた物だよ。」
「物だよ。…じゃないです!こんなにデザインや色が施されたガラスのグラスや花瓶なんて見たことないですよ!市場に出回っているものをご存知ですか!?透明だけど厚みもあって、デザインも何もないグラスや花瓶しかないんですよ!?こんな…光の入り方も透き通り方も全然比べ物にならないです!」
「す、すごい早口だな…」
「ちなみに、アルフレイル様はこれをいくらで売るつもりなんですか?」
「うーーん。そのグラスなら銀貨1枚くらいかな。」
(前世じゃこのくらいの物、100円均一にあるくらいだしなぁ。)
「銀貨1枚?!私の聞き間違いではないですよね?!金貨1枚でも安いくらいです!」
「金貨?!高すぎるよ!フォース市場で売るなら高くても銀貨1枚くらいで売れるものにしなきゃ!できるだけ多くの人に手に取ってもらいたいし!」
「それでしたら、銀貨1枚くらいまでの商品だけ出しましょう!もし、それ以上のものが見たいと言われる方がいたらお出しするという方がよろしいかと思います!」
「わ、わかったよ。」
そこから商品の選別会が行われた。
♢♢♢
「このグラス、とっても素敵ね!」
「ありがとうございます!どうぞ、手にとってご覧ください!」
褒められると自然と笑顔が溢れる。
「あら!お兄さんも…とっても素敵…」
「はい?」
「い、いいえ、なんでもないわ!…このグラスいただこうかしら」
「ありがとうございます、僕の初めてのお客様なので、これもサービスいたしますね。よかったら使ってください。」
自分の作ったものを手にとってくれて、褒めてくれたことが素直に嬉しかった。余った材料で作った一輪挿しを渡した。
「これもとってもキレイね。ありがたく使わせてもらうわ。」
最初のお客様が帰ると、ちらほらとお客様が立ち寄ってくれた。
そうこうしているうちに、『オトナ薬』の効果が切れる時間が近付いてきた。
最後のお客様は、マオだった。
「レイド、大盛況だったじゃないか!」
「はい!お客様が予想以上に来てくださって良かったです!」
「へぇ、素敵なものを売ってるじゃないか。」
「ありがとうございます。」
「こんな良いもの、どこで仕入れてるんだい?仕入れ値が銀貨1枚でも安いくらいだね。」
「仕入れ先は企業秘密です。」
「はっはっは。そうだろうね、こんな良いものをこんな価格で売れるくらいの仕入れ先なんて易々と教えられる訳ないもんね!気にしないでおくれ。」
「すみません、マオさん。」
「いいんだよ。これはなんだい?」
「それは『砂時計』といって、上下をひっくり返して置いてみてください。」
「こうかい?」
「はい。そうすると、砂が落ち始めます。これで3分の時間が測れるんです。」
「へぇ、面白いね。すごく透き通っててキレイだね。砂も好きな色が選べるのがいいね。私の好きな色は黄色だから、黄色い砂のこれをもらおうかね。」
「ありがとうございます!」
「次も頑張ってね!」
手を振ってマオは店へ戻って行った。
こうして、初めての商人としての仕事を終えた。アイテムボックスへ商品を入れ店を閉めていると、ティナが迎えに来てくれた。
「お疲れ様です、レイド様。」
「そろそろだね。」
ティナからローブを受け取ると、人目がないことを確認し裏路地に身を隠した。
「ふぅ。なかなか、慣れたものだな。」
「アルフレイル様の早着替えもすごいです。」
「はは。見つかるとやっかいだからね。」
「さぁ、帰りましょうか。今日はいかがでしたか?」
今日のお客様とのやりとりや、どんなことがあったかをティナへ楽しそうに話しながら屋敷へ向かう。
アルフレイルは知らなかった。
その頃、フォース市場では――。
「……あの店の主人、どこへ消えた?」
レイドの店を指さして、市場の他の店の店主に話しかける1人の男がいた。
「さっきまで確かにあそこで商売をしていたはずだが。」
「あぁ、あそこの店主なら少し前に店じまいして帰って行ったよ。良い商品を取り扱ってたからね。売れちまったんじゃないのか?ほら、私もこのグラス気に入って買っちまったよ。」
店主は、買ったばかりのグラスを自慢げに見せてきた。
男はそれを手に取り、光にかざした。
「この透明度、この精巧な細工、これほどの品質は王都でも見たことがない。」
静かに口元を歪めると、男は誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「見つけた。…この商人だ。」
♢♢♢




