第94話:当たり前の幸せ
その後隣にある別のホールで、卒業パーティが開かれた。今までサターン様に怯えていた貴族たちも、今回の件を受けて積極的に話し掛けてくれる。
そんな状況に、完全に混乱するサターン様。彼がアタフタする姿、なんだか新鮮だ。今はまだぎこちないけれど、そのうちサターン様も、きっとこの世界に馴染んでいける、なんだかそんな気がした。
そしてパーティも終盤に差し掛かった頃
「マリオネット、ちょっといいかい?」
隣にいたサターン様に、声をかけられたのだ。
「ええ、どうされました?」
「ああ…どうしても行きたい場所があってね。ついて来てくれるかい?」
「もちろんですわ、行きましょう」
2人でホールを抜け出し、中庭へと出た。どんどん奥へ進んでいく。向った先はもちろん、私たちがいつも一緒に過ごした、思い出の丘だ。
「ここ、私がいつもサターン様を盗み見ていた時に、隠れていた茂みですわ。ここからいつも、サターン様の姿を見ていたのですよ」
「ああ、知っているよ。君は得意げに隠れていたが、俺の位置から丸見えだったからね。俺もずっと君を見ていたから。毎日君の姿を見る事が、俺にとって唯一の幸せだったな…」
「まあ、そんな大げさな。そうそう、ここにいつもサターン様が、座っていらしたのよね」
「そうだね、マリオネット、こっちにおいで」
いつもの場所に座ったサターン様が、私を隣に座らせた。まさか夫婦になってからも、この思い出の場所で、2人並んで座れるだなんて。
あの時の記憶が、一気に蘇る。ずっと片思いだと思っていたあの頃、サターン様の姿を見るだけで幸せだった。
決して報われる事のない私の気持ち、ずっとそう思っていた。でも、今は私の大切な旦那様だ。
「マリオネット、俺に出会ってくれてありがとう。俺にとってここは、君との思い出がたくさん詰まった大切な場所なんだ。だからこそ今日、どうしても君と来たくてね」
「奇遇ですね、私にとっても、サターン様との思い出が詰まった、大切な場所です。また来られて、本当に幸せですわ。サターン様、どうかこれからも私の傍にいて下さいね」
「それは俺のセリフだ。マリオネット、俺を選んでくれてありがとう。君と出会えたことが、俺にとって人生で一番幸せな事だ。君の存在が、俺の生きる希望。マリオネット、愛している、もう二度と君から離れない、永遠に」
サターン様が私の肩を抱きよせる。お互い見つめ合い、そしてゆっくりと唇が重なる。もう何度も重ねている唇なのに、なぜか涙が溢れだす。
今この幸せの絶頂が、永遠に続いて欲しい。
いいえ…この先もっともっと幸せな事が待っているだろう。そう願っている。
~5年後~
「ちちうえ、ははうえ、マーガレット、すごいでしょう。こんなに大きなほのおが、だせるようになったよ。それにとうしだってできるんだから」
黒い髪に黒い瞳をしたした男の子が、得意げに話している。彼は私とサターン様の第一子、4歳のサレルだ。
「わたちだってできるわ。ほら」
同じく黒い髪に黒い瞳をした2歳の女の子、第二子のマーガレットもほのおをだそうとするが…
まだうまく魔法を扱えないマーガレットの炎は、暴走してしまったのだ。すかさずサターン様が鎮める。
「なにやっているのだよ、マーガレットは。まだうまくつかえないんだから、ぼくのまねをしないでよ」
「ごめんなちゃい」
シュンとするマーガレット。そんな彼女を、サターン様が抱き上げた。
「マーガレットはまだ小さいからな。もう少し練習をしような」
優しい眼差しで、サターン様がマーガレットを見つめる。
「あっ、ずるい。ちちうえ、ぼくもだっこ」
すかさずサレルが甘える。そんなサレルをサターン様が抱き上げた。
ディーズ公爵家の人々は、代々人間に興味がないため、私がサレルを妊娠した時、サターン様は自分が子供を愛せるのか、非常に悩んでいた。でも、そんな心配は不要だったようで、サレルはもちろん、マーガレットの事もとても可愛がっている。
2人もサターン様に懐いている。サターン様だけではない。
「サレル、マーガレット、ここにいたのか、お土産を沢山買って来たよ、こっちにおいで」
「「おじいさま」」
そう、お義父様も2人を可愛がってくれているのだ。
「父上、またこんなに買ってきて!あまり子供たちを、甘やかすのはお止め下さい」
「私のお金で買ってきているのだから、サターンに文句を言われる筋合いはない。マリオネットも、こっちに来なさい。君にもたくさん買って来たよ。サターンの分はないがな」
そう言って笑ったお義父様。なんだかんだで家族みんな、仲良く暮らしている。
ちなみに子供たちの魔力だが、サターン様と同じくらいあるらしい。サターン様は魔力を自分の物にするのに、随分苦労したと聞いていた為、子供たちの身を案じ随分心配したが、どうやらあっさりと魔力を吸収してしまったらしい。
どうやらそれも私の出すオレンジ色のオーラが、関係しているとの事。生まれる前から私たちの愛情を浴びるように受けていたことで、魔力もすんなり受け入れられたらしい。
ちなみにオレンジ色のオーラは、私だけが特別に出ている訳ではない。相手を強く思う気持ちが、オレンジ色のオーラとなって現れるとの事。
いつの間にかサターン様やお義父様、私の両親やお兄様、レアなどなどから放たれるオレンジ色のオーラを浴びて育った子供たちは、ほぼ無敵状態だ。
「ははうえ、みてください。おじいさまがこんなにたくさんかってきてくれました」
「まま~」
嬉しそうに私に駆け寄る2人。
「あら、よかったわね。大事に使うのよ」
「はい、もちろんです。こんどアランがきたら、みせてやるんだ」
「わたちもみんなにみせる」
そう言って笑う2人。有難い事に、今のところお兄様とレアの子供、アランを始め、沢山のお友達に恵まれている2人。今後も沢山お友達と触れ合い、仲良くしてほしい。
ちなみにサターン様にも、それなりに仲良しの貴族が出来たのだ。あれほどまでにサターン様の事を怖がっていた貴族たちも、今ではすっかり普通に話している。
ぺスタナ殿下の件は、辛い事も悲しい事も沢山あった。けれどあの事件を乗り越える事が出来たから、今の生活があるのだろう。今はそう思っている。
「父上、そろそろ冷えて来たし、屋敷に戻った方がいい。もうあなたも歳なのですから」
「私を年寄り扱いするな!今はもうすっかり元気だ」
すかさず怒るお義父様。なんだかんだ言って、この親子の関係も随分と改善された。
「おじいさま、やしきにいきましょう」
「おじいさま」
サレルとマーガレットが、それぞれお義父様の手を握って歩き出す。
「可愛い孫たちだ」
嬉しそうにお義父様も、2人と一緒に歩き出す。
「マリオネット、俺たちも屋敷に入ろう。体調でも壊したら大変だ。君は1人の体ではないのだからね」
サターン様が優しく私の肩を抱く。実は今、私のお腹には第三子がいるのだ。
「ええ、分かっておりますわ。それでは私たちも屋敷に戻りましょう」
サターン様と手を繋いで、屋敷へと戻る。温かくて大きな手、この手を握ると、安心する。
サターン様、あなたと出会えて私は、最高に幸せな日々を過ごせております。きっとこの幸せは、永遠に続くのでしょう。
あなたが傍にいてくれる限り、ずっと…
おしまい
これにて完結です。
最後までお読みいただき、ありがとうございましたm(__)m




