24話 その一皿のために
「カンナ、この野菜の残りもう使わないけどいる?」
「あ、いります。余った物はなんでも下さい」
「おいカンナ、この野菜の皮も使うか?」
「使います! ありがとうございます」
厨房の人から沢山の野菜を渡される。
入りきらないので籠に入れた。
今、私は絶賛、廃棄物処理班なのだ。勿論、食べ物専門だけど。
王宮の厨房では、毎日大量の廃棄が出る。
その中には、まだ十分食べられる野菜も多い。
それを片っ端から回収するのが、今の私の役目だ。
野菜が山盛りの籠を抱え、厨房の隣に建てた簡易小屋の扉を開ける。
狭い室内には、買い集めた中古の調理器具が所狭しと並んでいた。
「おいカンナ、ベーコンを買っといたぞ。交渉してかなり安く仕入れた」
先客――料理長が包丁の手を止めて振り向く。
「ありがとうございます、料理長」
鍋の中では、白いスープがぐつぐつと音を立てている。
――これは、給食だ。
王都の子供たちに届けるための。
王宮の厨房の人達は、この活動に賛同して協力してくれた。
厨房勤務は全員平民。
生活は安定していても、貧しさを知っている人が多い。
だから、残り物で給食を作りたいと話した時、反対する人はいなかった。
むしろ足りない分の食材を買うために、募金まで集めてくれた。
本当に、頭が上がらない。
「カンナ、切ったやつここに置いておくぞ」
「はい!」
本当は厨房の空き時間を借りたかった。
けれど厨房は二十四時間稼働。衛兵や事務官の食事で、火が落ちることはない。
だから――自分で建てることにした。
簡易小屋と竈。
建設費は安く済んだ。
問題は調理器具だ。
大型鍋、フライパン、配達用の鍋。
中古でも高い。
値切って、値切って、なんとか、揃えた。
今はまだ人もお金も足りない。
だから給食を届けられるのは、王都の学校だけ。
それでも、まずはやってみようと思う。
出来上がった給食を、学校ごとの鍋に分ける。
王都には学校が二十ある。
昼までに届けなければならない。
最初は一人で配るつもりだった。
けれど厨房の人達が手を挙げてくれて、今は数人で回している。
馬車は使えないので、鍋を台車に乗せて運ぶ。
「うぅ、重たい……」
ゼェゼェと息を切らす私の隣で、マグシムが涼しい顔で笑った。
「カンナ、すごい汗だぞ。もうすぐ冬なのに」
「だって重たいんだもん。仕方ないでしょ」
「だからこうして俺も引いてやってるだろうが」
「……少し休憩」
「時間ないぞ」
マグシムは鼻をスンスンさせ、鍋を覗き込む。
「すげぇ良い匂いだな。俺も食べていいか?」
「ダメに決まってるでしょう。意地汚いですよ、近衛騎士さま」
「ちぇっ」
舌打ちしながらも、台車をぐいっと引いた。
「しかし食材はどうにかなるとして、小屋や調理器具の金はどこから出たんだ?」
あ、まずい。やっぱりその質問がきたか。
「えっと……私が出したんだ」
「は? お前、金持ってないだろ?」
「あ〜、その、陛下からいただいた耳飾りを、売ってお金にした……」
「……は?」
マグシムを見ると固まっていた。
「おい今、陛下からの物を売ったと言ったのか?」
「だからそうだって。お願いだから怒らないで。この前料理長にもこってり怒られたんだから」
「嘘だろ……普通、家宝にするだろ」
呆れたように頭を抱える。
「私だって売りたくなかったよ。でも現金が無いんだもん」
「陛下は知ってるのか?」
「事後報告だけどね。どこから金が出たか聞かれたから、正直に言った」
「で?」
「……『そうか』って」
「マジかよ……」
深いため息。
「お前みたいなやつ、本当にいるんだな」
「そりゃどうも」
話しているうちに学校へ到着した。
神殿の鐘が昼を告げる。
ギリギリ間に合った。
「カンナ! お腹空いた!」
「あ、ミネル君! おーい!」
窓から子供たちが手を振る。
今日は私も配膳を手伝った。
パンと、豆と野菜、そしてベーコンたっぷりのクリームシチュー。
ベーコン以外は、ほとんど残り物だ。
本当はもっと色々食べさせてあげたい。
けれど今は、これが精一杯。
それでも、食事を渡した時の子供達の嬉しそう顔を見ると、やって良かったと思える。
「美味しい! お姉ちゃんありがとう!」
以前は、空腹を我慢して、お昼を過ごしていた子供たち。
その子達が今、笑ってスープを飲んでいる。
――本当に良かった。
自然と頬が緩む。
気がつけば、生徒の数が増えていた。
給食目当てで通わせる家庭が増えたらしい。
それはいいことだ。
でも――
人数が増えれば、それだけ食材も必要になる。
肉や魚は簡単には手に入らない。
今の募金だけでは、いずれ足りなくなるだろう。
……やることは、まだまだ多い。
忙しくなりそうだ。
――数日後。
その日はマグシムが不在で、別の衛兵が護衛だった。
「カンナさん、近衛騎士でなくて申し訳ありません」
「とんでもないです。こちらこそありがとうございます」
給食を配り終え、穏やかに帰路についた――その時だった。
前方に、男たちが立ち塞がる。
嫌な予感しかしない。
中央に立つのは、上等な服を着た男。
貴族? 平民?
どちらにせよ只者じゃない。
「あなたがカンナさんですね」
「……人違いです」
「嘘をつかずとも良いですよ」
分かってるなら聞くなよ。
男は髭を撫でながら、にこやかに笑った。
「少し、お話しませんか?」




