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19話 石のキノコと、ワームの池


 ウキウキ気分で森に入ろうとする私に、マグシムは怖い顔で忠告してきた。


「いいか、この森は普通の森じゃない。絶対に俺から離れるなよ」


 お化けでも出るの? と軽く流しかけて――

 マグシムの表情を見て、言葉を飲み込んだ。


 ……冗談じゃ、ないのかも。


 分かってるって言いかけて、私は小さく頷く。


 そうして二人で森に入ったのだけれど……


 やけに静かだった。

 鳥の声も、風の音もほとんどしない。


 耳が痛くなるほどの静けさ。


 そして。

 全然、見つからない。どこなの、石のキノコ。

 気づけば日も落ちてきていた。早く探さなきゃ。


「おいカンナ、そろそろ終わりにしよう。もうすぐ暗くなる」

「もう少しだけ探させて!」

「はぁ。それに、あまり奥に行くとワームの池に行っちまうぞ」

「え? ワームの池? 何それ」

「お前、ワーム知らないのか?」


 マグシムが本気で驚いた顔をする。

 だって私、異世界人ですもん。知らないものは知らない。


 マグシムの話によると、ワームとは巨大な蛇のような姿をした生き物らしい。水辺や沼地に棲み、若い女性を好んで食べるという。


 ……ちょっと待って。

 それ、めちゃくちゃ怖くない?

 普通じゃないって、そういうこと?


 怖くて、一歩後ずさると

 ぬちゃ、と足元がわずかに沈んだ。

 ……嫌な感触が、靴越しに伝わる。


「分かった! マグシム、速攻で帰ろう」


 その時。

 首筋に、ひやりとした感触が落ちた。


「ん?」


 掴んでみると、ムカデだった。

 無数の脚が、ぞわぞわと動いている。

 あぁ、なんだムカデかぁ……。


「…………ぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 ムカデを投げてその場から全速力で走る。


「カンナ! 馬鹿、離れるな!」


 マグシムが叫んでいたけど、足が止まらなかった。


 ダメなの、私こういうの無理だから!

 森は好きだけど、ニョロニョロは無理!!


 しばらくすると足は止まったが、マグシムから大分離れてしまった。

 辺りは暗く、足元もよく見えない。


「どうしよう」


 マグシムの名前を呼びながら移動する。

 そうやって焦ってウロウロしていたのがいけなかったか。

 足を踏み外し、二メートル位の崖にずるずると落下してしまった。


「うぅ、痛い……」


 盛大に左足をくじいた。


 他に大したケガは無かったが、痛みと迷子になった事で涙が出そうだ。

 服も所々破れて泥だらけだ。


「……あれ?」


 暗がりの中、大木の根元に何かが生えているのが見えた。

 慎重に近付くと……キノコだった。


 どっしりと分厚い見た目。

 白い柄に、茶色の傘。直径は二十センチほど。

 思わず顔を近づける。

 そして気づいた。


「あ、これ……ヤマドリタケだ」


 知っているキノコだった。


 地球ではポルチーニと呼ばれる、高級食材。

 そういえば、元の世界でも、海外の一部では石のキノコと呼ばれていた。

 陛下が言っていたのは、このキノコの事だ!


 とにかく見つかって良かった。

 周りの土を優しく掘り、持ってきた小型ナイフで根本をカットする。

 一個一個が大型で、しかも複数生えていたので、量は十分だ。

 腰袋にパンパンにしまい込んだ。


 落ち着いて周囲を見渡す。


 森の中とは思えないほど、開けた場所だった。


 目の前には、大きな池。

 走り回って喉も渇いている。

 水を――と思いかけて、はっとする。


「……ワーム」


 嫌な想像がよぎり、足を止めた。

 水は我慢だ。早くマグシムと合流しなくちゃ。


「とりあえず……叫んでみる?」


 息を吸った、その瞬間。


 背後から、強い力で口を押さえられた。

 え?


 気配なんて――なかったはずなのに。


 肩を押され、地面にねじ伏せられる。

 視界が布で覆われ、手足を後ろに縛られた。


 混乱している間に、どんどん拘束されていく。

 何? 何なの? 


 目隠しをされ、視界は完全に奪われている。それでも足音から、少なくとも二人の人間がいる事は分かった。


 必死に抵抗するが、まったく身動きが取れない。

 バタバタともがく中、頭上で男の声がした。


「早く始末しちまおう」


 嘘でしょ……! 嫌だ! 殺される!


 さらに必死に抵抗する。

 しかし目と口を布で塞がれ、手足まで縛られた状態では、どうする事も出来なかった。


 足元でゴトッと音がする。私の足に、何かを縛り付けているらしい。

 何? 何なの……怖い。


 そのまま二人がかりで担ぎ上げられる。どこへ連れて行かれるんだ。


「じゃあな、お嬢さん」


 え?

 

 次の瞬間、

 ワームの池に――突き落とされた。


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