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18話 処刑宣告――それでも森へ行く理由

 

 地獄のお茶会から数日後。


 陛下の日課である体重測定の時間に、あの大臣が大広間へ現れた。

 そう――私を勝手に処刑しようとした、あの大臣だ。

 大柄な身体を揺らしながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべて近づいてくる。


 ……来たよ。最悪のタイミングで。

 

 最近知ったのだが、この国には大臣が何人もいるらしい。

 その中の一人が、コバト大臣。前王の代から国を支えてきた重鎮で、陛下もよく意見を求める存在だという。その影響力は、他の大臣たちも無視できない。


 要するに――

 王族の次に権力を持つ人。

 ……私、とんでもない相手に目をつけられたみたいだ。


「陛下。この者に食事を任せてから、お身体に変化はございましたか?」

「いや。正直、まだ分からぬ」

「ほう……左様でございますか」


 コバト大臣は、ちらりと私を見た。

 その目は、完全に勝ち誇っている。


「そなた、カンナと申したな。体重も、現在99キロ。以前とほとんど変わらぬではないか。やはり助かるために、大嘘をついていたか」

「急激な体重変化は危険です。時間をかけて、少しずつ落とす必要があります」

「ふん。言い訳だけは一人前だな」


 私とコバト大臣が睨み合っていると、陛下がやれやれといった様子で踵を返した。

 その背中を、コバト大臣が呼び止める。


「陛下。約束通り、三ヶ月経ってもお身体に変化がなければ――この者を処刑する。そのお考えに、変わりはありませんな?」


 ドクン、と胸が跳ねた。

 血の気が一気に引くのが、自分でも分かる。

 陛下は少しの沈黙のあと、私を一切見ずに淡々と答えた。


「当然だ」


 それだけ言って、陛下は大広間を後にした。

 コバト大臣は私の方を見て、気味の悪い笑みを浮かべると、同じく大広間から出て行った。


 私はナトムさんに「大丈夫ですか」と声をかけられるまで、しばらくその場から動けなかった。


 そうだ。


 色々ありすぎて、無意識に追いやっていたけど――

 本当は、どこかで期待していた。

 優しい陛下なら、私を処刑なんてしないんじゃないかって。


 でも、違う。

 一緒に過ごして分かった。


 あの人は、誰よりも優しくて――そして、王だ。

 感情は優先されない。

 たとえ私を心配してくれていたとしても、条件を守れなければ処刑は行われる。

 

 そもそも、国の重要な大神殿に不法侵入した時点で、処刑は当然。

 ……普通なら、とっくに死んでいる。


 しかも私は、王の身体を条件に交渉までした。

 ……普通なら即アウトだ。


 それでも陛下は、条件を呑んで私を生かした。

 生きるチャンスを、与えてくれた。


 だから――

 私は、自分の力で生き延びなきゃいけない。


「カンナ、大丈夫ですか?」


 ナトムさんが心配そうに声をかけてくる。


「カンナは良くやっていますよ。大臣の事はあまり気にしない方がいい」

「はい。大丈夫です。たしかに、ゆっくりではありますが、厨房の皆と陛下と一緒に進めていますし、結果は必ず出ると信じますので。それに……」


 へへっと笑ってみせる。


「……逆に、気が引き締まりました」


 ナトムさんは、少しだけ微笑んだ。


「あなたは、本当に逞しい人だ」

 




 それから数日後――


「カンナ。どうした考え事か?」

「え、あっ、すみません」


 いけない。今は日課となった陛下とのお散歩中だった。

 どうすれば確実に体重を落とせるのか、思考モードだった。切り替えなきゃ。

 

「もしかして調子が悪いのか?」

「あ、すみません! ちょっと考え事をしていただけです」


「そうか……そういえば、今日の晩御飯は何だ?」

「仕入れた食材を見て決めてるのでまだ未定ですが、何かリクエストはありますか?」

「特にないが……あぁ、一つ食べたい物ならあるな」

「え、何ですか?」


 この世界のあらゆる食材を食べられる地位にいる人の食べたい物って何だろう。


「昔父上と王家の森で採ったキノコがあってな。確か石のキノコと言われていた。肉がしまって石のように硬いからだそうなのだが、あれは美味かったな。あまりにも希少な物らしく、一度しか食べていないが」

「へぇ、石のキノコですか」

「まぁ幻と言われてる位、珍しいキノコだ。そう簡単に見つかる物ではないがな」


 普段特に要望がない陛下が初めて口にした「食べたい物」。

 ——それなら、用意したい。


「私、採ってきます!」

「は?」


 いつも多忙な陛下に少しでも食べたい物を食べて欲しい。

 ただそれだけだった。


 なのに何故こうもマグシムにネチネチと嫌味を言われなくてはいけないのだ。


「もう、お前は少し大人しくする事出来ないのか? その度に駆り出される俺の身にもなってくれよ」

「うぅ、悪かったって。ただ陛下が初めて食べたい物を、リクエストしたから、その思いに答えたかったの」


 今、私とマグシムは王宮の敷地内にある森に向かっている。

 敷地内と言っても、広大すぎて城から馬車で行かなくてはいけないのだけれど。ガタガタと揺れる馬車の中でマグシムが腕を組んで溜息をついた。


「はぁ、最近お前の護衛ばっかりだよ」

「美女の護衛で嬉しいでしょ?」

「美女? どこどこ?」


 マグシムが顔をキョロキョロして探す振りをしたので腹に一発お見舞いしておいた。


 「先に冗談言ってきたのはそっちだろうが」と腹をさすっているが無視だ、無視!

 しばらくすると馬車の窓から森が見えた。


「あ、マグシム着いたよ!」


 早速、キノコ狩りだ! 

 ウキウキ気分で森に入ろうとする私に、マグシムは怖い顔で忠告してきた。


「いいか、この森は普通の森じゃない。絶対に俺から離れるなよ」


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