13話 最大の敵は揚げ物
最大の敵は、分かっていた。
――揚げ物である。
先日、陛下の体重が判明したことで、栄養計画が一気に立てやすくなった。
しかも陛下に説明し、「二ヶ月半で95キロまで減量する」という一文を、誓約書に追加してもらえることになった。
最初の半月は、ほとんど何もできなかったからね。
そして、本格的に始まった栄養マネジメントだが――
「うーん……どうしよう」
実際に陛下の食事を見ていて、どうしても気になる点があった。
他の人たちも揚げ物は好きだが、陛下の量は明らかに別格だった。
この国は揚げ物率が異常に高い。毎食何品も並び、菓子まで揚げ物。
――毎日が揚げ物パーティー状態である。
揚げ物が悪いわけではない。
だが高カロリー・高脂質なのは事実で、食べ過ぎれば確実に体重は増える。
この国の食文化を尊重しつつ、少しずつ減らす必要があった。
幸い、料理長からはすでに了承を得ている。
あとは、ラスボス(陛下)の了承だけだ。
ちょうど今、大広間で会議中らしい。
終わった頃を狙って、突撃しよう。
大広間の扉を開けると、会議はすでに終わっていた。
侍女たちが、陛下の前に食器を並べている。
「カンナ、いたのか。ちょうどいい。菓子がある、来い」
手招きされて近づくと、机の上はお菓子だらけだった。
中央には、丸いドーナツのような揚げ菓子。
表面には、これでもかというほど砂糖がまぶされている。
わぁ、美味しそうだ……そしてカロリー高そう。
「食べてみろ。美味いぞ」
機嫌の良さそうな陛下に勧められ、一つかじる。
――なにこれ、うまっ。
中にチーズ入ってる。
ここに来てから、初めて食べたお菓子かもしれない。
感動している私を見て、陛下は山盛りの皿を寄せてきた。
「気に入ったなら、もっと食べていいぞ」
「へ? いいんですか? ぁあ、いやいや、もう大丈夫です!」
あ、危ない。どんどん食べてしまう所だった。悪魔的な美味しさだな。
「とても美味しかったです。ありがとうございます、陛下。その……実は、お話がありまして」
「何だ?」
「体重を落とすためにも、健康のためにも、揚げ物の量を減らしたいと思っています」
揚げドーナツを持つ陛下の手が止まった。
「どのくらい減らす?」
「ええと……一週間に一品まで――」
「それは無理だ」
即答。
分かってた。
「揚げ物は高カロリー・高脂質です。毎食何品も食べていると、体重が落ちませんし、病気のリスクも上がります」
固まる陛下に、私はにっこり笑う。
「なので、まずは毎食一品までにしませんか?」
「……分かった」
渋々だが、了承は得た。
「あと、もう一つお願いがあります」
「まだあるのか」
「今後は、陛下の分は厨房で盛り付けて出したいんです。大皿方式だと、食べた量が把握できなくて」
「……もう、お前に任せる」
投げやり感はあるが、了承は了承だ。
よし。
私はその足で厨房へ向かった。
「料理長! 陛下から了承をもらいました!」
料理長は、ちょうど調理中だった。
「料理長、何作ってるんですか?」
「見りゃ分かるだろ。海老のフリッターだ」
――揚げ物。
なんてタイミングだ。
「料理長! 私に揚げさせてください!」
「あぁ? 別にいいけどよ」
鍋の前に立ち、腕をまくる。
揚げ物には、私なりのルールがある。
油は少なめ。
温度はしっかり。
入れるのは少量ずつ。
――それだけで、油の吸収量はかなり変わる。
揚がった海老を金網に並べる。
「付け合わせに、レモンとキャベツありますか?」
「あぁ」
脂肪の吸収を抑える定番コンビだ。
地味だけど、効果は侮れない。
今は一食一品だけど、そのうち、揚げ物の頻度を減らしていきたいな。
そんな風に考えごとをしながらレモンを切っていたら――
「いたっ!!」
久しぶりに指を切った。
地味に、めちゃくちゃ痛い。
「何やってんだ。ぼーっとするからだ」
料理長がどこからか軟膏を持ってきてくれた。
「どけ、俺がやる」
私が軟膏を塗っている間に、料理長がテキパキと盛り付け、あっと言う間に完成させた。
「ありがとうございます……」
「世話のかかる奴だな」
でも、その背中はやたら頼もしい。
「料理長……お父さんって呼んでもいいですか?」
「呼ぶな」
即答された。
「子供はバカ息子一人で十分だ」
「息子さん、いるんですか?」
私が聞くと、料理長は途端に顔を歪めた。
「あのバカ息子は、料理人なんか死んでもならんと、全く別の道に進みやがった! 俺の家は代々、料理人だ。あいつも同じ道に進むとばかり思っていたが……しかも、なまじ顔がいいからか、城の女達にキャーキャー言われて調子に乗ってやがる! あいつは本当に俺の息子なのか!」
料理長の愚痴が止まらない。
私は料理長にとっての禁断のワードを言ってしまったようだ。
しかし、料理長に似た息子なら、さぞかしイケメンなのだろう。
一度、会ってみたいものだ。
――いや、もう会ってるかも?
城の中にいるなら、どこかで顔を合わせていてもおかしくない。
そんな事を考えながら、私は料理長の愚痴を延々と聞かされ続けたのだった。




