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12話 陛下の盾


 この国には、体重計というものはない。


 薬や家畜の重さを量る器具はあるが、「人の体重を量る」という発想そのものがなかった。

 だからマグシムが驚くのも無理はない。


「で、なんで陛下の体重を量る必要があるんだ?」

「今の体重を基準に栄養管理の方針を決めるため。それに、定期的に測らないと順調かどうか分からないでしょう?」

「ふぅん」

「数字が減れば、本人のやる気にも繋がるしね」

「なるほどなぁ」


 ……多分、半分くらいしか分かってない。


「じゃあ早速、お城に運ぶよ。マグシム、手伝って!」

「了解だ。お姫様」


 十人以上の衛兵と工房の人たちに手伝ってもらい、吊り秤は大広間に設置された。


 ふぅ……これで、ようやくスタートラインだ。


 日が暮れる頃、陛下が大広間に現れた。

 巨大な吊り秤を見て足を止める。


「カンナ、これが以前言っていた吊り秤か」

「はい、陛下」

「……乗らなくてはならんのか」

「はい! どうかお願い致します! 陛下の健康のためなんです」


 食い気味に詰め寄る私に、陛下は少し引きながらため息を吐く。


「分かった。だが、こんな辱しめを受けるのだから、一つ私の頼みを聞いて欲しい」

「頼み? もちろん、乗っていただけるなら可能な限りご協力いたします!」


 交渉成立とばかりに、陛下が椅子部分に腰掛ける。


 ゆっくり沈み、吊り秤の目盛りが動いた。

 側使いが脚立に登り、目盛りを確認する。

 

 結果が出た。


「陛下、体重は100キロちょうどです」


 ……うん。やっぱり。

 身長178センチ、BMIは31超。

 正常範囲は25未満だから、できればそこに近づけたい。


 自分の体重に納得していない様子の陛下が、ナトムさんに命じる。


「ナトム。お前も測れ」

「え……はい」


 ……陛下、それパワハラになりませんか。


 ナトムさんが恐る恐る吊り秤に乗る。

 結果はすぐに出た。


「70キロですね。身長180センチなので、正常範囲です」


 細身だし、妥当な数字だ。

 吊り秤は、きちんと機能している。

 一方、陛下は明らかにショックを受けていた。


 私はその横で、必死に頭を回す。


 落ち着け……考えろ……

 日本からこの国に来て、約二週間。

 残り二ヶ月半。


 短期間で劇的に痩せさせるのは危険だ。

 たとえ私の命がかかっていても、管理栄養士として無茶はできない。


 減量の許容範囲は月3パーセント。

 しかも契約書には「月2パーセント」と書かれている。


 つまり、一ヶ月2キロ。


 残り二ヶ月半で合計5キロ。

 ……正直、ギリギリだ。

 しかも今まで体重計がなかった。


 契約書に「体重を落とす」と書かれているのに、測れなかったのだ。

 だから作ったんだけど!

 これは、きちんと追記してもらわないと。


 陛下をちらりと見る。

 5キロで見た目が変わるかは微妙だ。でも体調や膝、肌には確実に影響が出る。

 数字が減るだけでも、本人の意識は変わる。


 まず一日の必要摂取カロリーを算出。

 標準体重は約70キロ。

 体脂肪1キロ落とすのに7200キロカロリー。

 一ヶ月2キロなら……一日480キロカロリー減。


 陛下の消費カロリーは3260。

 だから摂取目標は2780。


 ……意外と食べられるな。

 運動と食事。

 十分、現実的だ。


「何をそんなに考え込んでいる」


 気付けば、陛下が目の前に立っていた。

 ……ちょっと拗ねてませんか?


「計画を立ててたんです! 聞きます?」

「ああ」


 その後、説明して契約書に

『今から二ヶ月半でマイナス5キロ』を追記してもらえた。

 よし……第一関門突破!




 翌日。

 なぜか私は、陛下と王宮の庭園を散歩していた。


「……」


 確かに言った。

 頼み事を聞くと。


「いい天気だな」


 棒読みですよ、陛下。


「そうですね……」

「ほら、花が綺麗だ」


 それより視線が痛い。


「陛下! 横にいる外国人はどういったご関係で?」


 貴族令嬢たちが、前に立ちはだかり、明らかに私を睨んでいる。

 そういえば、ナトムさんが

 独身の陛下を狙って、日々令嬢たちがアタックしていると言っていたっけ。


「なんて地味な見た目なの」

「色気がないわ」


 聞こえてますよ、ご令嬢たち。


 陛下は、美女たちの詰問にも表情を変えず、さっと私の肩に手を回した。


「この者は、私にとって()()()()()な存在だ」


 ……はい?

 

 彼女たちから悲鳴があがる。


「ご令嬢たち、大事な時間を邪魔しないでもらえるか?」


 令嬢たちは、ショックを受けた表情でフラフラと去って行った。


「陛下、私、彼女たちに刺されないですよね?」

「そこまでの勇気はないだろう……おそらく」


 おそらく? なんで、そこ小声なんですか?


「ストレスも身体に良くないと言っただろう。しばらくは、令嬢たちから私を守れ」


 こうして私は、

 この国に来て二週間で、令嬢から陛下を守る盾になった。


 ……命の危険が増えた気がする。


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