11話 陛下の体重測定計画
プロン様の国葬から一週間。
悲しみが消えたわけではないが、日常は容赦なく戻ってくる。
私は王宮の敷地内にある鍛冶工房へ向かっていた。
広大な王宮の敷地には草花が生い茂り、蝶が舞っている。
気温も低くなく、運動がてら散歩するにはぴったりの日かもしれない。
横を歩く男さえいなければ。
「なぁ、なんで鍛冶工房なんて行くんだ。行くなら、もっと楽しい所にしてくれよ」
「私はお仕事なんです! 遊びじゃありません! 嫌ならついて来ないで下さい」
早歩きをして、男の数歩先を行く。
だがその男――近衛騎士のマグシムさんは、つまらなそうな顔をしながら、一歩で私の隣にきた。
ぐぬぬ……脚が長いのが羨ましい。
「そもそもなんで騎士様が私の護衛に付くんですか?」
「陛下の指示さ。あんたはあの大臣にも目を付けられてるし、一人じゃ危険と判断したんだろ」
「でも、なんで隊長クラスのマグシムさんが護衛なんですか?」
「ほら、俺は今暇だからさ」
あ……そうだ。この人はプロン様の近衛騎士だったんだ……。
隣を歩いているから表情は見えない。
けれど、私よりずっと長い時間、プロン様と一緒に過ごしてきた人だ。
私より、ショックが大きくて当然だ。何も考えずに口に出した事を後悔した。
「それに俺は平民出身だから、陛下も平民同士なら話が合うだろうと思ったんじゃないのか」
「え! マグシムさん平民なんですか? 騎士様なのに?」
驚きだ。
ナトムさん情報によると、貴族しか近衛騎士になる資格はないと聞いていたのに。
「俺は例外だよ。元はただの衛兵だったけど、優秀すぎてスカウトされたわけ」
そんな事があるのか。
普通にすごい人だな、この人。すごいドヤ顔しているが。
「そういう事だから、宜しくなカンナ」
「宜しくお願いします、マグシムさん」
「呼び捨てでいいよ。こういう距離感の方が楽だろ? 歳もそう変わらないだろうし」
「そう、分かった。マグシム宜しくね」
「……切り替え早いな」
歩き始めてから十五分程、やっと工房らしき建物が見えてきた。
煉瓦造りの大きな建物。
背後には巨大な森林がそびえ立ち、ここまで離れていても、金属を叩く音が響いてくる。
工房の入り口から中へ入ると、その音はさらに大音量になった。
そして――暑い。
暑すぎる。
巨大な炉のせいか、一気に汗が吹き出した。
熱風で肺が焼けそうだ。
耐えきれず、入り口へ戻ろうとしたその時。
責任者らしき中年の男が声をかけてきた。
「あんたら、何の用だ」
「あ、あのカンナと申します。陛下の為に例の物をお願いしていたのですが……」
その瞬間。
男は目を見開き、肩に担いでいたハンマーを振り上げて叫んだ。
「あんたか! めんどくせぇ注文しやがったのは!」
ひぃぃぃ! すみません!
なんか前も似たような事あったような。
「ふっ、まぁいい。無茶な注文だったが中々楽しかったぜ。外に出な!」
工房の裏へ案内されると、そこには巨大な物体が置かれていた。
高さ三メートルほどの――巨大な吊り秤だ。
太い梁からロープが垂れ、その先に布の座席がぶら下がっている。
ロープの上部には、目盛りの刻まれた棒が取り付けられていた。
「うわぁ、すごい!」
感動だ! さすが王宮の職人。
私が伝えた内容を、百パーセント忠実に再現してくれている。
私が興奮している横で、マグシムが訝しげに聞いてきた。
「こんな巨大な吊り秤、何に使うんだ?」
「ふふふ、これで陛下の体重を計るのよ!」
「……まじかよ」
……問題は、陛下が素直に乗ってくれるかだけだ。




