クリスマスの約束
期末テストが終わって数日。
校内はすっかりクリスマスムードに包まれていた。
昇降口には小さなクリスマスツリーが飾られ、放送委員が流す音楽も冬らしい曲に変わっている。
昼休み。
文芸部の部室では、クリスマス会の準備の話題で盛り上がっていた。
「プレゼント交換、楽しみだね!」
美咲が笑顔で言う。
部員たちも、それぞれ何を用意するか楽しそうに話している。
その輪を見ながら、葵はそっと遥へ目を向けた。
(そういえば……。)
(もうすぐ約束の日だ。)
テストが終わったら、一緒にクリスマスへ出掛ける。
自分から誘ったものの、日が近づくにつれて少しだけ落ち着かなくなっていた。
◇
放課後。
「じゃあ、また明日!」
部員たちが帰っていく。
最後に部室へ残ったのは、いつもの二人だった。
「帰ろう、遥。」
「うん。」
冬の夕暮れ。
二人は並んで駅へ向かう。
駅前には、大きなクリスマスツリーが飾られていた。
「きれい。」
遥が見上げる。
「夜になるともっと光るんだろうね。」
「今度見るよ。」
葵が笑う。
「……一緒に。」
遥も優しく笑顔を返した。
「楽しみ。」
その一言だけで、葵の胸は少しだけ温かくなった。
◇
翌日。
休日。
葵は一人で駅前の雑貨店を歩いていた。
「遥には何が似合うかな。」
店内には冬らしい小物が並んでいる。
手袋。
マグカップ。
本のしおり。
ブックカバー。
どれを見ても、自然と遥の顔が浮かぶ。
「散歩が好きだから……。」
「手袋もいいかな。」
「でも、本も好きだし。」
何度も売り場を行ったり来たりする。
店員が思わず笑ってしまうほど真剣だった。
「これだ。」
ようやく見つけたプレゼントを見て、葵は満足そうに微笑んだ。
「きっと喜んでくれる。」
◇
一方、その頃。
遥も別の雑貨店を訪れていた。
「葵は……。」
店内をゆっくり歩きながら考える。
「かわいい雑貨が好きって言ってた。」
ふと目に留まったのは、雪の結晶が描かれたブックカバーだった。
「これ……。」
手に取る。
落ち着いた紺色。
冬らしい優しいデザイン。
「葵に似合いそう。」
その隣には、おそろいのしおりが置かれていた。
遥は少しだけ考えたあと、小さく微笑む。
「これにしよう。」
プレゼントを受け取り、店を出る。
冷たい風が頬をなでた。
自然と、クリスマス当日のことを考えている自分に気付く。
(葵、喜んでくれるかな。)
その問いに、自分でも少し照れてしまった。
◇
そして迎えた、クリスマス当日。
待ち合わせは午前十時。
駅前の大きなクリスマスツリーの前だった。
遥が先に着くと、街は休日らしい賑わいに包まれている。
カップルや家族連れが笑顔で行き交い、クリスマスソングが街中に流れていた。
「遥!」
聞き慣れた声に振り返る。
そこには、白いコートに淡い青色のマフラーを巻いた葵が立っていた。
いつもの制服姿とは違う、少し大人びた雰囲気だった。
遥は思わず見つめる。
「……。」
「どうした?」
葵が首をかしげる。
遥は少し照れながら微笑んだ。
「その服。」
「すごく似合ってる。」
一瞬、葵は固まる。
そして耳まで真っ赤になった。
「ま、また急にそういうこと言う!」
「本当に思っただけ。」
「だから余計に照れるの!」
二人は思わず笑い合った。
「遥も。」
葵は少し照れながら言う。
「その白いセーター、すごく似合ってる。」
「ありがとう。」
遥も少しだけ頬を赤くした。
クリスマスの街並み。
冬の澄んだ空気。
そして、お互い少しだけ照れた笑顔。
高校二年生の特別な一日が、静かに始まろうとしていた。
ショッピングモールへ入ると、館内には大きなクリスマスツリーが飾られていた。
赤や金色のオーナメントが光を受けてきらめき、天井からは雪の結晶を模した飾りが吊り下げられている。
「すごい……。」
遥は思わず足を止めた。
「こんなに大きなツリー、初めて見た。」
葵は嬉しそうに笑う。
「夜になるともっときれいなんだって。」
「楽しみ。」
二人はゆっくりと館内を歩き始めた。
◇
最初に入ったのは文房具と雑貨のお店だった。
「見て、遥。」
葵は動物のイラストが描かれたマグカップを手に取る。
「かわいい。」
「本当だ。」
遥も隣に並び、棚を見つめる。
「葵はこういう雑貨が好きだったよね。」
「覚えててくれたんだ。」
「うん。」
「勉強会の時に話してたから。」
葵は照れたように笑う。
「嬉しい。」
二人は店内をゆっくり見て回り、小さなクリスマス雑貨を眺めながら楽しそうに話を続けた。
◇
続いて入ったのは大型書店。
「このシリーズ、新刊が出てる。」
遥が一冊の小説を手に取る。
「前に読んでたやつ?」
「うん。」
「続きが気になってたの。」
葵は表紙をのぞき込む。
「今度読み終わったら貸して。」
「もちろん。」
「じゃあ私は、このミステリー貸すね。」
「交換だ。」
「うん。」
二人は笑い合った。
◇
歩き回ったあと、館内のカフェで一休みする。
窓際の席からは、少しずつ暗くなっていく街並みが見えた。
「何にする?」
葵がメニューを開く。
「ホットココアかな。」
「私はホットチョコレート。」
注文した飲み物が運ばれてくる。
湯気が立ちのぼり、冷えた体を優しく温めてくれた。
「そういえば。」
葵がカップを持ちながら言う。
「遥って冬は好き?」
「好き。」
遥は静かに答える。
「空気が澄んでるし。」
「星もきれいだから。」
「やっぱり遥らしい。」
葵は笑う。
「私は冬も好きだけど。」
「一番好きなのは春かな。」
「暖かくなって、お出掛けしやすいし。」
「花も咲くしね。」
「うん。」
「春も好き。」
遥は優しく微笑んだ。
◇
夕方。
二人はショッピングモールを出て、駅前広場へ向かった。
イルミネーションが一斉に灯る。
「わぁ……。」
葵が思わず声を漏らす。
何万球もの光が並木道を包み込み、巨大なクリスマスツリーも昼間とは違う幻想的な姿を見せていた。
遥も静かに見上げる。
「きれい……。」
「来てよかった。」
しばらく二人は並んで光景を眺めていた。
◇
少し歩いた先のベンチへ腰掛ける。
葵は紙袋を膝の上へ置いた。
「はい。」
「メリークリスマス。」
遥は驚いたように目を丸くする。
「ありがとう。」
包みを開くと、中には暖かな手袋と、雪の結晶が描かれたマグカップが入っていた。
「散歩が好きって言ってたでしょ。」
「冬でも暖かく歩けるように。」
「それから、本を読む時に使ってほしくて。」
遥はプレゼントをそっと抱きしめる。
「覚えていてくれたんだ。」
「もちろん。」
葵は照れ笑いを浮かべた。
「遥のことだから。」
◇
「私からも。」
遥も小さな包みを差し出した。
「メリークリスマス、葵。」
葵は丁寧に包装を開く。
「……わぁ。」
中には紺色のブックカバーと、雪の結晶をあしらった金属製のしおり。
「雑貨屋さんが好きって話してたよね。」
「それに、本も読むようになったって。」
「だから使ってもらえたら嬉しい。」
葵はしおりを手に取り、目を細める。
「勉強会で話したこと。」
「ちゃんと覚えてくれてたんだ。」
「うん。」
遥は少し照れながら笑う。
「葵が楽しそうだったから。」
葵は大切そうにプレゼントを胸へ抱いた。
「ありがとう。」
「すごく嬉しい。」
◇
イルミネーションを眺めながら、二人は静かに座っていた。
街にはクリスマスソングが流れ、人々の笑顔が行き交う。
「今日は本当に楽しかった。」
葵がゆっくりと言う。
「私も。」
遥は優しく答えた。
「葵と一緒だったから。」
少しだけ照れたように笑った葵は、勇気を出して口を開く。
「ねぇ、遥。」
「うん?」
「来年も……。」
「来年も、一緒にクリスマスを過ごそう。」
遥は少し驚いたあと、柔らかな笑顔を浮かべた。
「うん。」
「来年も、一緒に過ごそう。」
「約束。」
葵は小指を差し出す。
遥も自然に小指を重ねた。
「約束。」
二人は小さく指切りを交わす。
冬の夜空には星が瞬き、イルミネーションが優しく二人を照らしていた。
プレゼントも、今日の思い出も、交わした約束も。
すべてが二人にとって、かけがえのない宝物になった。
そして来年の冬も、またこの景色を一緒に見よう。
そんな願いを胸に、遥と葵は肩を並べて帰り道を歩き始めた。
――クリスマスの約束 完――




