第三章 雪降る神社の落とし物(前編)
十二月二十四日。
文芸部の部室には、色とりどりの飾り付けが施されていた。
窓には紙で作られた雪の結晶。
黒板には「Merry Christmas!」と大きく書かれ、机の上には部員たちが持ち寄ったお菓子や飲み物が並んでいる。
「それじゃあ!」
部長の美咲がクラッカーを手に笑顔で立ち上がった。
「今年も一年、お疲れさまでした!」
「メリークリスマス!」
パンッ!
小さなクラッカーの音が部室に響く。
「メリークリスマス!」
部員たちの笑い声が広がった。
◇
クリスマスパーティーでは、ビンゴ大会やプレゼント交換が行われた。
「次!」
「十五番!」
「やった!」
「リーチ!」
部室は終始賑やかだった。
結菜も一年生ながらすっかり文芸部に馴染み、笑顔でゲームに参加している。
「上乃園先輩!」
プレゼント交換が終わると、結菜は嬉しそうに遥のもとへ駆け寄った。
「見てください!」
「かわいいブックマーカーが当たりました!」
雪の結晶があしらわれた銀色のしおりだった。
遥は穏やかに微笑む。
「白石さんに似合いそうだね。」
「ありがとうございます!」
結菜は満面の笑みを浮かべる。
その様子を見ていた葵も自然と笑顔になった。
「よかったね。」
「はい!」
結菜は少し照れたようにうなずいた。
以前より神原先輩と話すことにも少しずつ慣れてきたようだった。
◇
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「それじゃあ今年の部活動は今日で終わり!」
美咲が笑顔で締めくくる。
「また来年もよろしくね!」
「よろしくお願いします!」
部員たちが元気よく頭を下げる。
結菜も遥へ向き直る。
「上乃園先輩。」
「今年はいろいろありがとうございました。」
「来年もよろしくお願いします。」
遥は優しく微笑んだ。
「こちらこそ。」
「来年も一緒に頑張ろう。」
「はい!」
結菜は嬉しそうに頭を下げる。
その後、
「神原先輩。」
「来年もよろしくお願いします。」
と葵にも丁寧に挨拶をした。
「こちらこそ。」
葵は笑顔で返した。
結菜は一礼すると、友人たちと帰っていった。
◇
部室には最後に遥と葵だけが残る。
「今年最後の部活だね。」
葵が少し寂しそうに言う。
「うん。」
遥も窓の外を見つめた。
夕暮れに染まる校庭。
冷たい風が木々を揺らしている。
「今年もいろいろあったね。」
「本当に。」
夏祭り。
文化祭。
読書週間。
赤いマフラーの落とし物。
思い返せば、二人で解決してきた出来事がたくさんあった。
葵は少し笑う。
「来年はどんな事件が待ってるんだろう。」
「分からない。」
遥も笑った。
「でも。」
「葵と一緒なら、大丈夫。」
その一言に、葵は照れくさそうに笑う。
「それ、ずるい。」
「そんなこと言われたら嬉しくなる。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。
「帰ろう、遥。」
「うん、葵。」
今年最後の部活動を終えた二人は、いつもの帰り道をゆっくり歩き始めた。
◇
翌日。
二学期最後の終業式。
体育館には全校生徒が整列していた。
校長先生の話が終わると、教室へ戻り通知表が配られる。
「終わったー!」
「冬休みだ!」
教室は一気に賑やかになる。
葵は通知表を見て、ほっと胸をなで下ろした。
「順位も上がったし。」
「今回は安心!」
遥も自分の成績表を閉じる。
「勉強会の成果だね。」
「うん!」
葵は嬉しそうに笑った。
「ありがとう、遥。」
「どういたしまして。」
◇
放課後。
昇降口では、
「よいお年!」
「また来年!」
という声があちこちから聞こえる。
遥と葵も校門を出る。
冷たい冬空の下。
「冬休みだね。」
葵が伸びをする。
「やっと!」
「宿題はあるけど。」
遥が笑う。
「そうだった……。」
「現実に戻された。」
二人は思わず吹き出した。
「でも。」
葵は笑顔で続ける。
「今年の冬休みは楽しみがいっぱい!」
「初詣。」
「初売り。」
「それに、ゆっくり本も読める。」
「うん。」
遥もうなずく。
「楽しみ。」
◇
そして大晦日。
窓の外では雪がちらちらと舞っていた。
遥は部屋でお気に入りの小説を閉じる。
机の上にはクリスマスに葵からもらったマグカップ。
温かい紅茶の湯気が静かに立ち上っている。
スマートフォンが震えた。
画面を見ると、葵からのメッセージだった。
『今年はありがとう!』
『遥と一緒に過ごせて、本当に楽しかった!』
遥は自然と笑顔になる。
『こちらこそ。』
『ありがとう、葵。』
『来年もよろしくね。』
数秒後。
『もちろん!』
『来年もいっぱい思い出作ろう!』
遥は「うん。」と返信し、夜空を見上げた。
時計の針はゆっくりと新しい年へ向かっている。
◇
一月一日。
柔らかな朝日が部屋へ差し込む。
遥の部屋には、母が用意してくれた淡い水色の着物が掛けられていた。
「遥。」
母が優しく声を掛ける。
「せっかくの初詣だから、着てみる?」
遥は着物を見つめ、少しだけ考えた。
「きれいだけど……。」
「歩き慣れてないから。」
「転んじゃうかもしれない。」
母はくすりと笑う。
「遥らしいわ。」
遥も少し笑い、紺色のコートに白いセーターを合わせる。
そしてクリスマスにもらった手袋をはめた。
「また今度。」
「着物は来年の楽しみにしよう。」
そう小さくつぶやくと、家をあとにした。
◇
一方その頃。
葵も鏡の前で悩んでいた。
祖母から借りた赤い振袖。
「かわいいなぁ……。」
袖を軽く広げてみる。
「でも。」
「今日は初売りにも行くし。」
「いっぱい歩くよね。」
少し考えたあと、白いダッフルコートと赤いマフラーを身につける。
「よし!」
「来年は着物にしよう!」
鏡に向かって笑顔を見せると、急いで家を飛び出した。
◇
駅前の時計台。
先に着いていた遥は、行き交う人々を眺めていた。
「遥!」
元気な声が聞こえ、振り返る。
白いダッフルコートに赤いマフラーを巻いた葵が、小走りで駆け寄ってきた。
「あけましておめでとう!」
遥も自然と笑顔になる。
「あけましておめでとう、葵。」
「今年もよろしくね。」
「もちろん!」
葵は満面の笑みで答えた。
「今年もいっぱい思い出作ろう!」
新しい一年。
二人の高校二年生最後の冬が、穏やかに始まろうとしていた。
(第三章 中編へ続く)




