表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/32

冬空の約束


 期末テスト初日の朝。


 いつもは賑やかな教室も、この日ばかりは静かだった。


 教科書を開く生徒。


 英単語帳を見返す生徒。


 問題を出し合う生徒。


 それぞれが最後の確認をしている。


 一方で──。


「……無理かも。」


 葵は机に突っ伏し、小さくつぶやいた。


「昨日覚えたところ、半分くらい飛んでいった気がする。」


 向かいの席で単語帳を閉じた遥は、小さく笑う。


「大丈夫。」


「昨日の勉強会ではちゃんと解けてたよ。」


「それは昨日の私。」


 葵は真顔で言う。


「テストになると別人になるんだよ。」


「問題用紙を見た瞬間に頭が真っ白になるの。」


 遥は優しく微笑んだ。


「焦らないこと。」


「最初から全部解こうとしないで、できる問題から始めればいいよ。」


「……うん。」


 葵は深呼吸を一つする。


「遥がそう言うなら、大丈夫な気がしてきた。」


     ◇


 チャイムが鳴る。


「始め。」


 先生の合図で、一斉に鉛筆が動き始めた。


 遥は落ち着いて問題を読み、一問ずつ丁寧に解いていく。


 一方、葵は最初の英語長文を見た瞬間、思わず固まった。


(長い……。)


 しかし、その時。


 勉強会で遥が言っていた言葉を思い出す。


「全部訳そうとしなくていいよ。」


「接続詞と大事な単語を先に探して。」


(そうだった。)


(落ち着いて……。)


 葵は深呼吸をして、ゆっくり問題へ向き合う。


 すると、不思議なくらい文章の流れが見えてきた。


(できる……!)


 焦っていた心が、少しずつ落ち着いていった。


     ◇


 昼休み。


 二人はいつもの中庭のベンチでお弁当を広げる。


「終わったぁ……。」


 葵は大きく息を吐いた。


「英語、思ったよりできたかも。」


「よかった。」


 遥は安心したように笑う。


「勉強した成果が出たね。」


「全部、遥のおかげ。」


「そんなことないよ。」


「葵が頑張ったから。」


「でもね。」


 葵は卵焼きを食べながら笑う。


「遥も気を付けた?」


「何を?」


「最後の見直し。」


 遥は少し首をかしげる。


「勉強会でも計算ミスしてたでしょ。」


「あ……。」


 遥は少し照れたように笑う。


「ちゃんと見直したよ。」


「二回確認した。」


「よし!」


 葵は満足そうに親指を立てる。


「それなら安心!」


 二人は顔を見合わせて笑った。


     ◇


 三日間のテストは、あっという間に終わった。


 最終日の放課後。


「終わったー!」


 教室中に歓声が響く。


 葵は机へ突っ伏した。


「もうしばらく問題集は見たくない……。」


 遥も小さく笑う。


「お疲れさま。」


「ありがとう。」


「今回は最後まで頑張れた。」


 その表情は、テスト前よりずっと明るかった。


     ◇


 一週間後。


 順位表が廊下へ掲示される。


「見に行こう!」


 葵は少し緊張しながら歩き出した。


「心臓がうるさい。」


「大丈夫。」


 遥が穏やかに笑う。


「きっと前よりいいよ。」


 人だかりをかき分け、順位表を見る。


「……え?」


 葵は何度も順位を見直した。


「上がってる!」


 前回より二十二位も順位が上がっていた。


「本当に!?」


 思わず遥の方を振り返る。


「遥!」


「上がった!」


 嬉しさのあまり、小さく飛び跳ねる。


 遥も自分の順位を見る。


 今回も学年上位に名前があった。


「おめでとう、葵。」


 遥が微笑む。


「頑張ったね。」


 葵は首を横に振る。


「違うよ。」


「これは私一人じゃない。」


「遥が毎日教えてくれたから。」


「私は少し手伝っただけ。」


「ううん。」


 葵は真っすぐ遥を見る。


「勉強会がなかったら、絶対こんな順位になってない。」


「本当にありがとう。」


 遥は少し照れながら笑った。


「どういたしまして。」


     ◇


 帰り道。


 冷たい風が吹く中、駅前には少しずつクリスマスの飾り付けが増えていた。


 大きなツリー。


 イルミネーション。


 赤いリボン。


 冬の街が少しずつ色づき始めている。


 その景色を見ながら、葵が立ち止まる。


「ねえ、遥。」


「ん?」


「お礼させて。」


「お礼?」


「うん。」


 葵は少し照れくさそうに笑った。


「テスト勉強を手伝ってくれたお礼。」


「もうすぐクリスマスでしょ?」


「今度の休み、一緒に出掛けない?」


 遥は少し驚いたように目を瞬かせる。


「クリスマスに?」


「うん。」


「イルミネーション見たり。」


「プレゼントを選んだり。」


「おいしいもの食べたり。」


「せっかくなら、高校二年生のクリスマスを思いっきり楽しみたい。」


 少し間を置いて、葵は柔らかく笑った。


「それに。」


「遥と、ゆっくり一日過ごしたい。」


 その言葉に、遥も自然と笑顔になる。


「私も。」


「葵と出掛けたい。」


 葵の表情が一気に明るくなった。


「本当?」


「うん。」


「じゃあ決まり!」


 葵は嬉しそうに右手を差し出す。


「約束。」


 遥も笑顔でその手に自分の手を重ねる。


「約束。」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


 駅前のイルミネーションが、一足早いクリスマスを優しく彩っている。


 次の休日。


 二人には、新しい冬の思い出が待っていた。


       ―― 冬空の約束 完――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ