第4話 担任事情聴取要旨
【文書種別】事情聴取要旨
【作成日】2146年6月16日
【作成者】白峰署 生活安全課
【対象者】深瀬亮平
【所属】白峰学院高等部 2年A組担任
【場所】白峰中央医療センター 一般病棟面談室
【状態】医師確認のうえ短時間聴取
【備考】供述調書作成前の確認記録
1. 聴取時の状態
対象者・深瀬亮平は、腹部負傷により白峰中央医療センターへ搬送。
処置後、同院に入院中。
聴取時、意識清明。
発声は弱いが、応答は明瞭。
医師より、短時間であれば聴取可能との確認あり。
対象者は冒頭、本件について以下のように述べた。
「生徒の将来に関わることです。扱いは慎重にお願いします」
2. 事件当時の確認
問:2146年6月14日、第二準備室にいた理由は。
答:放課後の個別面談です。
問:面談相手は誰か。
答:2年A組の真柴透です。
問:真柴透を呼び出したのか。
答:はい。
学習状況と進路について確認する予定でした。
問:叱責、処分、注意指導の予定だったか。
答:いいえ。
本人は少し無理をしているように見えました。
通常の面談で済む内容だと考えていました。
問:事件発生時、第二準備室内にいた人物は。
答:はっきり覚えていない部分があります。
ただ、負傷直後に見えたのは真柴でした。
問:真柴透があなたを傷つけたという認識でよいか。
答:はい。
私を傷つけたのは、真柴です。
問:刺された瞬間を見たか。
答:動作のすべてを見たとは言えません。
ただ、倒れる直前、私の前にいたのは彼でした。
その後、彼が自分でやったと言っているとも聞いています。
問:他に関係する人物に心当たりは。
答:今はありません。
少なくとも、私の記憶では、真柴のことが一番はっきりしています。
3. 真柴透について
問:真柴透の普段の様子は。
答:真面目な生徒です。
課題も提出物も、よくやっていました。
問:暴力的な傾向はあったか。
答:ありません。
少なくとも、私が知る限りではありません。
問:今回の行為について、動機に心当たりは。
答:断定はできません。
ただ、彼は以前から、成績や進路のことで負担を抱えていました。
自分から助けを求めるのが得意な生徒ではありません。
問:あなたは真柴透を支援していたのか。
答:担任として、必要な範囲で支援していました。
面談を増やしたり、学習状況を確認したりです。
問:特別な支援か。
答:特別というより、必要な生徒に必要な確認をしていたということです。
詳しい内容は、学校の記録を確認してください。
問:ここで具体的には答えられないのか。
答:本人の家庭状況や進路情報に関わります。
不用意に話すべきではないと思います。
4. 被害届および厳罰意思
問:被害届、または厳罰を求める意思はあるか。
答:今は望みません。
問:理由は。
答:彼の人生を、ここで終わらせるべきではないからです。
問:あなたは被害者である。
答:はい。
問:それでも厳罰を望まないのか。
答:はい。
まず、本人の状態を確認すべきだと思います。
問:状態とは。
答:精神状態、学習状況、家庭環境です。
一つだけを見て判断すべきではありません。
問:真柴透が故意にあなたを傷つけた可能性がある。
答:その可能性は否定しません。
しかし、普段の彼だけを知っている者としては、そのまま結論を出すことはできません。
問:では、何があったと考えるか。
答:分かりません。
分からないからこそ、急いで処分すべきではないと言っています。
問:これまでの支援で、実際に進路が維持された生徒もいるという認識か。
答:あります。
少なくとも、声をかけなければ退学や進路変更になっていた生徒はいました。
問:今回も同じ支援の延長だったと。
答:そう考えていました。
ただし、今回それが適切だったかは、今ここで私が決めることではありません。
問:支援が本人の意思を越えることはないのか。
答:越えないようにするべきです。
しかし、本人が何も言えない時期に、何もしないこともまた、本人を見捨てることになります。
5. 学校側対応について
対象者は、学校側対応について以下を希望した。
真柴透を即時退学処分としないこと。
医療機関による確認を行うこと。
学習記録、面談記録等は学校側で慎重に扱うこと。
真柴透の進路情報、家庭情報を外部に出さないこと。
問:学習記録や面談記録に触れた理由は。
答:今の生徒にとって、学習記録は生活の一部です。
不用意に扱えば、本人の将来に影響します。
問:事件に関わる記録があると考えているのか。
答:そこまでは分かりません。
ただ、本人が混乱している間に、記録だけが一人歩きするのは避けたいです。
問:学校側が管理したいという意味か。
答:学校が責任を持って扱うべきだという意味です。
問:警察への提出も、学校を通すべきだということか。
答:必要なものは提出されるべきです。
ただ、生徒に関する記録は、文脈なしに切り出されると誤解されます。
学校を通して確認していただきたい。
問:本人に確認させたうえで提出すればよいのでは。
答:今の真柴に、それを判断させるのは酷です。
問:本人の同意より、学校側の判断を優先するということか。
答:本人が自分の状態を正しく説明できる段階ではありません。
同意という形だけを取って、後から本人を傷つけることもあります。
問:記録の範囲を学校が決めるという意味か。
答:範囲ではなく、順番です。
何を先に見せるかで、本人の扱われ方は変わります。
問:被害者としてではなく、担任として答えているのか。
答:両方です。
私は負傷しました。
それでも、彼は私の生徒です。
6. 補足発言
聴取終了前、対象者より以下の発言あり。
「真柴は、自分が何をしたのか、まだ受け止められていないと思います」
「今は、責任を突きつける前に、状態を確認すべきです」
問:真柴透を守りたいという意味か。
答:守れる範囲は守るべきだと思っています。
ただし、守るというのは、本人の言葉をそのまま外へ出すことではありません。
問:あなた自身への謝罪や賠償については。
答:今は考えていません。
問:真柴透に直接会う意思はあるか。
答:今すぐは難しいと思います。
ただ、いずれ話す必要はあります。
問:何を話すのか。
答:本人が落ち着いてからでなければ、意味がありません。
この後、対象者は疲労を訴えたため、聴取を終了した。
7. 聴取者所見
対象者は、真柴透を加害者として認識している。
一方で、真柴透への厳罰意思は現時点で否定している。
対象者の発言は、被害者としての処罰意思よりも、担任としての保護責任を強調する内容が中心であった。
ただし、真柴透に関する学習記録、面談記録等については、学校側での慎重な取り扱いを複数回希望している。
対象者は、真柴透に関する記録の外部提出について、聴取中計三回、「学校を通してほしい」旨を述べた。
以上。




