第27話 筆者不詳手記C
【文書種別】筆者不詳手記
【作成日】不明
【作成者】不明
【取得経路】未確認投稿アーカイブ
【状態】断片/自動保存ログ由来/作成環境不明
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戻ったと思った。
だから最初に、日付を探した。
違っていた。
六月ではなかった。
呼び出しの日でもなかった。
まだ何も起きていない日の朝だった。
それなのに、手だけが終わった後だった。
指の間に残る重さ。
腕を引いた後の鈍さ。
肩の奥に残る、力を入れすぎた痛み。
部屋にたどり着く前から、俺はもう、やった後の身体をしていた。
準備室へ向かっていたはずだった。
角を曲がれば、あの扉がある。
そう思っていた。
けれど、角の先にあったのは、知らない昇降口だった。
俺の知らない制服の生徒が、俺の横を通り過ぎた。
誰も、俺を先生と呼ばなかった。
次は駅にいた。
学校へ向かう電車を待っていた。
鞄の中には、見覚えのない書類が入っていた。
校章も、校名も違っていた。
それでも胸の奥だけは知っていた。
今日、あの男に会いに行く。
電車は来なかった。
来る前に、また別の場所にいた。
ある時は、事件の前だった。
あの男はまだ生きていた。
けれど、教師ではなかった。
校長でもなかった。
別の肩書きで、別の場所にいた。
写真の目だけが同じだった。
ある時は、事件の後だった。
あの男はもう死んでいた。
俺が着いた時には、ニュースも終わっていた。
コメント欄だけが残っていた。
犯人は分からない、と書かれていた。
俺の名前はなかった。
それでも俺は、やった側にいた。
ある時は、あの男の名前がどこにもなかった。
学校案内にも、記事にも、職員一覧にもいなかった。
その学校には別の校長がいた。
安心するべきだった。
なのに俺は、準備室を探した。
あの男がいない場所で、あの男が倒れる部屋を探していた。
おかしいのは、死んだことではない。
死ぬ場所へ、たどり着けないことだ。
扉の前まで行けない。
呼び出しを受け取る前に、別の日へ落ちる。
朝だと思ったら、もう取調室にいる。
取調室だと思ったら、まだ廊下に立っている。
俺は、戻っているのだと思っていた。
けれど、戻ったと言える場所は一つもなかった。
準備室の扉は、いつも少し手前で遠のく。
たどり着いた時だけ、あの男は倒れる。
たどり着けない時でも、手は覚えている。
刺したはずだった。
そう言った。
そう書いた。
そうしなければ、出来事の形が保てない気がした。
でも、手だけが先に残る。
何をしたのかより先に、
やった側にいたという感じだけが残る。
補助。
支援。
道具。
本人のため。
言葉は毎回少しずつ違う。
でも、声の置き方は同じだった。
こちらが選んだことにされる前に、もう選ばされている。
俺は、それを止めようとした。
そう書けば、少しは軽くなるかと思った。
軽くならなかった。
止めようとした手も、やった手として残っている。
俺がやった。
その言葉だけは、どの場所にもついてくる。
呼び出しは、やはり短かった。
準備室に来なさい。
パッチのことで話があります。
読み終えた時、俺はもう扉の前にいると思った。
けれど、そこへ行く前に、別の日の空気が入ってきた。
俺はまだ、扉の前にさえ戻れていない。




