第29話 ユニークスキル修練
翌日、ヒルマとネシュカは再度、20階層を訪れていた。
「じゃあ、20階層のボスでユニークスキルの練習をしましょう。」
「い、いきなりボスで練習して大丈夫でしょうか…?」
「ここのボスはCランク上位程度の強さです。僕であればビームを使わなくても余裕を持って倒せます。むしろ、ある程度の強さがないと、僕たちのスキルは強力すぎて練習にならないと思うんです…。」
「た、たしかに…。」
「では、どういう練習をするか、考えましょうか。」
「わ、わかりましたっ!」
「まずはネシュカさんのちゅー魔法からですね。ちゅー魔法で、僕にバフをかけてもらえますか?」
「バフ、ですか?」
「はい。攻撃力上昇や動体視力向上など、身体能力や防御力をあげるものを想像していただければ。」
「わ、わかりました!え、えと、じゃあ、あの…。」
ネシュカがもじもじとする。
「つ、使うときは、は、恥ずかしいので、目を閉じて、くれませんか…?」
「っ!?わ、わかりましたっ!…ん?そういえば、ちゅー魔法ってキスで発動するんですよね?」
「えっ!?は、はい…。」
「…口にキスしなくても、体のどこかにキスすれば、それで済むのでは…?」
「…。た、確かに…。」
(じゃ、じゃああのとき、唇にち、ちゅーしなくても良かった、ってことっ!?)
「で、ですよね…?ちょっとそれも試してみましょうかっ!!」
「そ、そうですねっ!!」
(考えたら負け…考えたら負け…。)
ネシュカはゆでだこ状態であった。
「ネシュカさんのバフありの状態である程度戦ってみて、最後は僕のビームを試してみようと思います。それでとどめをさして終了ですかね。」
「そのあとはどうしますか??」
「う~ん、ボス戦ですし、今日は検証が終わり次第、帰ってゆっくりしましょうか!」
「了解ですっ!」
◎
20階層の扉を開く。今回はちゃんと、ボスモンスターがいた。
「…あれは、カーマドゥーム、ですね。」
カマドウマのような見た目の巨大昆虫。両手はカマキリの鎌のようになっている不気味な魔物である。
「ギチギチギチギチギチッ」
カーマドゥームがこちらに気付き、足をこすり合わせて威嚇音を発した。
「では、ネシュカさん。お願いします。」
「は、はいっ!」
ヒルマが手の甲を差し出した。
ネシュカは赤面しながら、口づけをした。
ちゅっ
ヒルマの体がうっすらと光り輝き、風が吹き乱れた。
「こ、れは…すごい…ッ!」
ヒルマは自らの体に、暴力的なまでの魔力とが宿っているのを感じた。
また、思考は冴えわたり、視界は澄み、体中の筋肉の動きや血液の流れまで知覚できるようだった。
「…最初は、少し慣らします。ネシュカさんも自分自身にバフをかけて、防御に徹してください。」
「りょ、了解ですっ!」
そう、ネシュカのちゅー魔法。
これまで他者に対してしか使えないものと思い込まれていたが、自分自身にも使えるものであった。
ネシュカが自らの手に唇を当てた。
ネシュカにも、圧倒的な魔力が宿る。
この状態でネシュカが魔法を放てば、どうなるのか…。
(でも、今回はヒルマさんの検証。今回は防御に徹しますっ!)
「プロテクションッ!」
ネシュカが防御魔法を唱えると、通常では考えられないほど巨大な魔法障壁が現れた。
「す、すごい…!」
そして、ヒルマは。
「まずは剣技の検証につきあってもらおうかな。」
「ギチギチギチッシャッシャッ」
カーマドゥームが鎌を擦り合わせて、突進。
その速度はすさまじく、これまで遭遇した魔物の中でもトップクラスであった。
カーマドゥームの後ろ脚はバッタのような強靭な筋肉が詰まっている。
その脚から繰り出される突進は、空気を裂く。
しかし。
ギィイイイイインッ
「見える。見てからでも、対応ができる。」
ヒルマは真正面から、余裕を持って受け止めていた。
しかも、片手のみで。
「筋力も大幅に上昇してるな。まさか片手で受け止められるとは…。」
「ギギギッギチチッ」
無機質な複眼がヒルマを見つめる。
不意に片方の鎌が振り上げられた。
ジャキッガキィンッ
鎌と剣による剣激が始まる。
カーマドゥームの両鎌は乱舞のように荒れ狂う。乱れ裂き。
しかしヒルマはこれを片手でいなしていく。
シャインッシュインッ
連撃を剣で受け流すたびに、刃物を研ぐような音がする。
「少し、速度を上げよう。」
ヒルマの剣速はさらに上昇していく。
そして。
斬ッ
「ギチチチチッ」
カーマドゥームの両鎌が斬り落とされた。
不利を悟ったカーマドゥームが逃げ出そうとする。
昆虫の本能に従った、逃走。
しかし。
「逃がさないよ。」
ヒルマが右足を前に出し、胸を張った。
右手のみ、乳首に添えられる。
それは、”構え”だった。
「チクビーム・ライト。」
右乳首が明滅。
不可避の速光、発射。
パヒュッ
「ギチチ」
断末魔を残し、カーマドゥームは消滅した。
◎
「ヒルマさん!ど、どうでしたか?」
戦闘を終えると、ネシュカが駆け寄ってきた。
「ちゅー魔法のバフ、すさまじいです。おそらく、すべてのステータスが倍以上に向上してました。本来は向上した筋力に対応しきれず転倒したりしそうですが、思考速度や動体視力なんかもすべて向上しているので、純粋に戦闘能力が底上げされている感じです。」
「よ、よかった!私の方も、魔法の威力含め、すべてが倍以上に向上しているようでした!」
「魔法も倍以上に、ですか。すさまじいですね…。」
「も、もっとはやく使っておくべきでした…。そしたら、あの男にも苦戦しなかったのに…。」
ネシュカがうつむいた。
「ネシュカさん。どんなスキルであっても、基礎は大事です。僕たちはユニークスキルを解禁しましたが、基礎的な能力はユニークスキルを活かすためにも必須です。今後もこれまで通り、基礎をおろそかにせず、戦っていきましょう。」
「そ、そうですね!了解です!」
「ネシュカさんのちゅー魔法のバフは、普段から使うものではなく、切り札的な形にしましょう。僕のチクビームも同様に。そうですね、今後は基礎練習の日と、ユニークスキルを練習する日に分けてみましょうか。」
「賛成です!」
「では、それで行きましょう!今日は一度帰って、明日から21層に挑戦しましょう。」
ヒルマとネシュカ。
二人のユニークスキル使いの、本当の意味でのスタートだった。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/822139844400383614




