第27話 深紅の鎧とチクビーム
ガイィイイイイイイイインッッ!!!
深紅の斧と魔力を纏った長剣がぶつかり合う。
火花が散り、血が蒸発する匂いが立ち上った。
「はぁあああああああああっっ!!!!!!」
目に追えないほどの速度で交わされる、剣と斧の応酬。
その空間には耳をつんざくような、金属がぶつかり合う音が響き渡っていた。
ヒルマを突き動かすのは、怒り。
ミカシュの下劣な行為と言動に対する、怒り。
そして、ネシュカを守れなかった、自分への怒り。
チクビームに頼らざるを得なかった、弱さへの怒り。
「ぐうううううううっっっ!!!!」
故に、ヒルマは真向から打ち合う。
膂力はキリング・アーマーが圧倒的に上。
しかし、技巧はヒルマが上。
よって、二人の剣激は拮抗し、成立していた。
しかし、キリング・アーマーはアンデッド。
体力はほぼ無限。
一方、ヒルマは生身の人間である。
その体力は、有限。
「ハァァアアッッ!!!」
ヒルマが仕掛けた。
半ば強引に、キリング・アーマーの懐へと飛び込む。
ザシュッ!!
「ぐっ!!」
ヒルマの肩を、鮮血の斧がかすめた。
かすめただけで、大量の血が噴き出した。
肉を切らせて、骨を断つ。
斧使いの弱点は、斧の取り回しの悪さ。
斧使いとの戦いは、かつて嫌というほど経験していた。
故に、その対処法は熟知していた。
いや、熟知した気になっていた。
「■■■■■■■■■」
剣激の最中、キリング・アーマーの詠唱。
「ッ!!?」
そう、“ビリーは魔法を使えなかった”。
危機を感じ、半ば反射で後方へ跳躍。
しかし、わずかに遅かった。
ジジジジジジジジッバリバリッ!!!!
「ぐぅううっっ!!!」
深紅の迅雷。雷属性の魔法。
ヒルマの右足が焼かれた。
もう、回避は難しい。
絶体絶命、剣激が再開される。
現状、ヒルマに勝ち目はないように思われた。
勝てるとすれば、再度。
チクビームを放つしかない。
チクビーム再発射までにどれくらいの時間がかかるかは、わからなかった。
しかし、ヒルマの直感が「まだ撃てぬ」と告げていた。
両乳首からはジクジクとした痛みを感じており、
無理に発射すれば、もう二度とビームを討てなくなる可能性もあった。
故に、耐えるしかない。
ビシュッ
「ぐぅっ!」
血が舞う。
限界が近づく。
ヒルマの体に裂傷が刻まれていく。
そして、ついに。
斬ッッ
「ッッッ!!!」
ヒルマの左腕の感覚が、消えた。
どちゃっ。
何かが、洞窟の地面に音を立てて落ちてきた。
腕。左腕。
(ああ、僕の――。)
「ヒルマさんっっ!!!!!」
「はい、まずは左腕~。」
どくどくと血が流れ落ちる。
命がこぼれていく。
「もう終わったな。俺の勝ち。さぁ、キリング・アーマー。さっさとそいつにとどめをさs」
「ほわほわりんッ!!!!」
「あ?」
ネシュカが使える、唯一の支援魔法。
ヒルマの全身が、淡い光で包まれた。
しかし、血液は止まらない。
「ぶはははっっ!!!なんだよ、ほわほわりんって。舐めてんの?全然効いてないし。余計な水を差してんじゃねぇってのッ!!」
ドゴッ
「あぐぅっ!!」
ネシュカが蹴り上げられ、地面に倒れた。
「おい。」
「あ?」
ミカシュが振り向くと。
うつむいていたはずのヒルマが、こちらを見ていた。
そして、ゆっくりとその口が開かれ。
「――――。」
「キリング・アーマーッッ!!!!俺を守れッッ!!!!!」
パヒュッ
一条の光が放たれた。
そう、ほわほわりんは肉体を活性化させる魔法。
身体能力、そして自然治癒能力の向上。
故に、ヒルマの乳首は回復したのである。
ミカシュの前にキリング・アーマーが躍り出た。
斧を高速回転させ、チクビームを弾かんとする。
しかし。
ジュワッ
キリング・アーマー、1秒で蒸発。
怒れる滅却の光、健在。
「バカがァッ!!!1秒もありゃ十分なんだよッッ!!!!」
そう、ミカシュはAランクに届くといわれる冒険者、
1秒もあれば、回避行動は可能であった。
「ビームはもう撃てねえェッ!!!左腕も無いッッ!!!ただ突っ立ってるだけのゴミが!!!死にさらせッッ!!!」
ミカシュが短剣を振りかざした。
ここで、気づいた。
ヒルマの乳首。
煙を上げていたのは、“右乳首だけだった”。
「てめぇッ…!まさか、右乳首だけでッ」
「もう黙れ。消え失せろ、ゴミカス野郎。」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお」
「チクビーム・レフトォオオオオオオオオオーーーーーーッッッ!!!!!!!!」
憤怒の光線、三度炸裂。
敵対者の存在を許さない、絶対の力。
◎
「あ~、慣れないことをするもんじゃないね。少しずれちゃった。」
「かひゅっごぼっごぽっ」
ミカシュは、生きていた。
いや、生きていると言えるかどうか。
ミカシュの左半身は、すでに消滅していた。
ヒルマがゆっくりとミカシュに近づく。
「ごぴった、たしゅけ…な、んでも、する…。」
「はぁ…助けるわけ、ないだろ?」
「ひっ」
ヒルマの目は、どこまでも冷たかった。
漆黒。まるでそこに、真っ黒な穴が開いているかのようだった。
「う~ん、“まだ右腕と右足が残ってる”なぁ。」
ヒルマがおもむろに剣を振り上げ。
ザシュッ!!
「ごぼごぼごぼっごぽぷっ!!」
「僕の四肢を斬り落とす、とか言ってたよね?」
ザシュッ!!
「ごぼぼぼっやめっだずげっ」
ザシュッ!!!
「あーあ、因果応報。四肢を斬り落とされたのは、君のほうだったね?」
「ごぽっごぽぷっ」
ごぽごぽと血の泡を噴いていたミカシュは、やがて静かになった。
そして、その体は黒い霧となって消えていく。
その場に残されたのは短剣と、ギルドタグだけだった。
そう、ダンジョンで死した者は遺体が残らない。
魔物同様、黒い霧となって消えていく。
故に、ダンジョン内での殺人が後を絶たないのだ。
ミカシュもまた、それを利用してヒルマたちを始末しようとしていた。
ぐらり。
ヒルマの体が揺れる。
視界がゆっくりと流れていく。
どさっ。
「ヒルマさんっっ!!!」
ヒルマの体は、すでに限界を迎えていた。
左腕、および全身からの出血量は、すでに致死量となっていたのだ。
「ネ、シュカさん…ご無事、ですか…?」
「だ、ダメっ!ヒルマさんっ、喋ったらダメですっ!」
「ネシュカさん、転移魔法陣から、早く、逃げてくだ、さい。」
「な、なにを言ってっ!」
「こ、こはボス部屋、です…いつ、ボスが召喚されるか…。」
「ヒルマさんを置いていけるわけ、ないじゃないですか…っ!」
ネシュカがヒルマの手を握る。
「私、うれしかったです。ヒルマさんが、私を守ってくれて。ヒルマさんとの冒険の日々は毎日が楽しくて、輝いていて。」
ネシュカの目から、涙がこぼれる。
「ヒルマさんも、ユニークスキル、だったんですね。私と同じ…。私と同じ、だったんですね。」
(そう、スキルを使いたくなかったのも、同じ…。だから、あんなに悲しそうな顔をしてたんですよね…?)
「でも、私のために、私なんかのために戦ってくれて、ユニークスキルを使ってくれて、うれしかった。ヒルマさんのユニークスキルは、まぶしくて、暖かくて、とってもかっこよかったですよっ!」
ヒルマの目が見開かれた。
「だから。だから、ヒルマさん。私もあなたのために、使います。ヒルマさんのためなら、使えます。いや、ヒルマさんになら、使いたいですっ!」
ネシュカの顔が、ゆっくりと近づく。
「ありがとう、ヒルマさん。大好きです。」
ヒルマの唇に、柔らかい感触が伝わった。
作者のおしり炒飯と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本作、カクヨム様にて、先行公開しております。
続きが気になりましたら、ぜひ下記よりご覧ください。
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