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【過去話の密度調整中】ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第三章 王妃付き侍女と国王付き侍従の恋文とその顛末について

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11.三日前 11


 どんどんと萎れていくダレルにハリエットまでつられてしまいそうになる。

 丸まってしまいそうな背中を何とか叱咤し、ハリエットは小さな猫を口元に乗せて微笑んだ。


「それで、ストークス様。陛下はどうされたのでしょう?」

「ああ、はい。それでですね。その、酷く不安定になった陛下がいつもの無茶を…いえ。王妃殿下の侍女殿から報告書を貰えと仰るのです」

「報告書、ですか?」

「はい。王妃殿下は視察中にどのように過ごされたのか、王妃殿下はどのようなご様子だったのか、それから」


 大変申し訳なさそうな顔でハリエットの表情をちらりちらりと確認しながらダレルが言った。


「………特に、王妃殿下が少しは陛下を思い出されたのかを、手紙で貰え、と」

「つまり、報告書の書き手にわたくしが選ばれた、ということでしょうか」


 王妃付き侍女のうち、生涯独身宣言をしているハリエットとまだ年若い後輩侍女以外は皆、既婚者だ。ダレル宛の恋文となれば書いても問題の無い者が自ずと絞られる。ただし、必要なのが恋文ならば、だ。


「護衛の騎士の報告では駄目なのですか?騎士は一日に一度必ず王宮へ報告書を送るはずです。街道や周辺状況の把握も任務の内のはずですから。手紙を書く時間を取れるどうかすら分からない侍女ではなく、彼らに命じさえすれば日々滞りなく王妃殿下についての報告書が送られるのでは?」


 ハリエットが小首を傾げると、ダレルがまた困ったように首を横に振った。


「常であればそれで十分なのです。ただ、今は王妹殿下も慰問中ですので女性騎士のほとんどがそちらへ同行しています。今回の王妃殿下の視察には女性騎士が同行できません」

「はい、そうですね?」


 それでもなお分からないと首を反対側へ傾げたハリエットに、ダレルはどこか諦めたように微笑んだ。


「普通はそれで良いのですけどね」

「今回は、それでは駄目だと?」

「はい。陛下は王弟殿下以外の男性が王妃殿下を観察…いえ、見守ることを、良しとしないのです」

「ああ…そういうこと………」


 ハリエットは微笑みを浮かべたまま内心で脱力した。


「今回の旅程には大きな危険はありません。危険や人員の不足があれば第二騎士団からも護衛を選びますが今回は第一騎士団の近衛のみです。アレクシア・ガードナーや他の第一の女性騎士がいればそちらに命じることもできたのですが…こればかりは、どうにも」


 ダレルもまた微笑みを浮かべたままで疲れたように肩を竦めた。


「それに、たとえ第二騎士団の女性騎士が同行しても結局のところ王族の周りを固めるのは第一騎士団ですからね。第二の騎士は更にその周りを警護することになるでしょう」

「そうですね。王命となれば第二騎士団の女性騎士が王妃殿下の警護をすることもできるでしょうが…」

「以前よりはましになってきたとはいえ、今の騎士団ではまだ第一と第二の溝は決して浅くない。連携は難しいでしょう」

「いくら危険な日程ではないとはいえ得策ではない、ということですか」

「はい、そのとおりですね」


 第一騎士団に所属できる騎士は伯爵家以上の出自に限られる。対して、第二騎士団は突出した実力さえあれば平民出身でも所属することができる。良くも悪くも自尊心の強い第一騎士団とすれば、王族の警護という自分たちの特権を脅かされるのは我慢がならないだろう。そうなると結局、今回の視察では王妃殿下の周囲はどうしても男性騎士が固めることになってしまうのだ。


「王妃殿下に近づくことができる男性は、王弟殿下とご子息である王子殿下だけですからね……」

「はい。メイウェザー嬢や侍女の皆さんに武術の心得があって本当に助かっております。下手をすると騎士たちの首が飛びかねません。物理で」

「そうですね……第一騎士団はみなさん、家柄も見目もよろしいですから。たとえ報告書のためとはいえ王妃殿下ををずっと見つめてなどいては……。陛下なら、やりかねませんね、物理で」


 なぜだか首元がひんやりした気がしてハリエットが両手で首を温めていると、ダレルがふと一瞬だけ柔らかく目元を緩めた気がした。

 ハリエットはおや?と思ったが瞬きの間に大変申し訳なさそうな顔になっていた。


「兎にも角にもそんなわけでして。王妃殿下の侍女殿に手紙で王妃殿下の様子を知らせてもらうように、との陛下の仰せです」

「理解いたしました。ですが、恋文の理由が見えません」

「そこはまた…陛下の無茶振りと申しますか…」

「いつものことではございませんか。今回はどのような無茶振りでしょう?」

「それが、ですね」


 眉を寄せてぎゅっと唇を噛むと、ダレルはちらりとハリエットを見て、非常に気まずそうに視線を逸らした。


「陛下が探りを入れていることを王妃殿下に知られたくないそうでして。私と、その…メイウェザー嬢との恋文として、やり取りをしろ、と…」

「え?馬鹿なの?」


 しょんぼりと肩を丸めたダレルに被せるようにハリエットの心の声がぼろりと漏れた。


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