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【過去話の密度調整中】ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第三章 王妃付き侍女と国王付き侍従の恋文とその顛末について

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9.三日前 9


 ふぅ、と大きく息を吐くとダレルがぐっと背筋を伸ばし、ソファに深く座り直して苦笑した。


「ベンジャミンはポール卿のファンですからね。王弟殿下のようにポール卿とアンソニーのため、ならまだ我慢したかもしれませんが……。我が主のこととはいえ大変申し訳ないことをしました」

「ストークス様がなさったことではないと思うのですが」

「いえ。まぁ、そうですね。今回は珍しくベンジャミンのミスもあるのでお互い様の部分もあるのですが、それでもやはり陛下が留めですからね」

「それはその、否定ができないのですが……」


 何となく顔を見合わせると、「はああああ…」とふたり同時にため息を吐いた。


 ちらりとテーブルを見ればダレルのカップが空になっている。もちろん、ハリエットのカップも空だ。

 来客でありながらティーポットを触るのもいかがなものかと思ったが、侍女だから良いかとハリエットは横に置いてあったポットからすっかり冷めた紅茶をダレルのカップに注いだ。自分のカップにも注いでダレルを待たずにゆっくりと口にする。

 先ほどはどことなく苦く感じたが、冷めていても十分に美味しい。やはりとても良い茶葉だ。


 行儀はあまり良くないがひと息に半分ほど飲み干す。思っていたよりも乾いていた喉が潤されてハリエットがふぅと息を吐くと、ダレルも「ありがとうございます」と紅茶に口を付けた。ダレルの表情が緩むのを見届けて、ハリエットはカップをソーサーに戻すとソファに座り直した。


「第二騎士団の士気が下がっているのが気になります。特にポール卿の周囲の方からの抗議はかなりのものと伺っています」

「はい。第二騎士団もかなりの被害を受けましたし、そこに来ての王命結婚ですからね。今回の件、かなり根が深そうなのでまだ公式発表もできませんし…ポール卿にも更に気苦労をかけしてしまいますね」


 ことりと、小さな皿がハリエットの前に差し出された。見れば先ほどのレーズンのクッキーが乗っている。ぱっと顔を上げるとダレルににこりと頷かれ、ハリエットは苦笑しつつありがたくひとついただいた。

 先ほども美味しいと思ったがレーズンの甘さと生地のほのかな塩味が体に染みる。しっかり飲みこむとハリエットは小さく首を傾げた。


「ポール卿は今も騎士団の寮にお住まいなんですよね?」

「はい。ちょうどもうすぐ遠征がありますので、それまでは騎士寮に詰めるつもりのようですよ。それ以降はポール卿の心次第ですね」

「アンソニーさん、王都にタウンハウスを買われたんですよね?」

「王弟殿下が先走り過ぎだと頭を抱えていらっしゃいましたよ。物件自体は呆れたベンジャミンが確認をしに行って問題なしと判断したようですね。ですが……」


 ダレルがそこで苦いものを嚙んだような顔で言い淀んだ。ハリエットもまた、もやりとした何かが湧き上がりそうで抑えるように胸元に手を当てた。


「物件に問題は無くても…ポール卿ご本人がご納得されない限りは、移られないのでしょうね」

「そうなると思いますよ。王弟殿下の件も含めてアンソニーには良い薬になるでしょう。ポール卿はしばらく動かないでしょうからね」


 ポーリーンとは年齢と立場に差はあれど、同じ女のハリエットからすれば今回のアンソニーのやりようはあまりにも酷い。婚約期間の一年で芽生えたであろう少しくらいの好意など、春の突風にさらされて塵芥になって消えてしまいそうだ。


「ストークス様は、ポール卿は最終的には移られると思われますか?私なら…逃げ続ける気がします」


 唇をぎゅっと引き結んだハリエットを見てダレルは軽く目を瞠り、それからどこか悲し気に微笑んだ。


「そうですね。王命、ですからね」

「王命、ですか」


 その響きに何かがハリエットの頭をよぎり、胸の中の不快なもやが少しだけ濃くなった気がしたが、小さな深呼吸と共に吐き出した。


「……今のところ王妃殿下は国王陛下を強く庇う気はないようです。王弟殿下も調査が終わるまでは静観する、と。しばらくは、国王陛下への風当たりが強そうですよね」

「いえ、おふたりとも、大ごとになりそうな所へは手を回してくださっていますから。収拾がつかなくなることはありませんよ」

「ベンジャミンさんも今回の件では完全には王弟殿下を庇うことはしないそうです。アンソニーさんはポール卿にかかりきりで周りが見えていないようですし…」

「たまには全員、しっかり痛い目を見ろ、というこでしょう。さすがに王命での婚姻受理は陛下にしかできないことですからね。そもそもその件では庇いようがありませんね」


 少しだけ考えるように口を閉ざしゆっくりと視線を落とすと、「それでもあの方は今回も被るんでしょうね…」とダレルは少しだけ悲しそうに瞳を揺らした。


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