第15話 拭えぬ不安
今回はセーレ視点です。
私とゲンが敵を退け、走り目撃した街並みはとても物々しかった。
もう敵は撤退したのだろうか。激しい音こそ聞こえないが未だ黒煙は上がり、軍服以外の人間を見つけることは出来ない。
「急ぐぞっ!」
「はいっ!」
私達は駆ける。
まだ危ないから屋内へ戻れ、と呼びかける衛士を横目に目指すのはこの街のシンボル。
ダルグドール殿は私達、来訪者を国賓だと言った。
それ即ち全力を以て安全を確保すると言う事。
この街で一番堅牢な建物と言えばおそらく対脅威対策機関の施設だろう。
ならばそこにアサヒ達はいる筈だ。
早く安否を確認したい想いに駆られ、屋台骨を足場にし、屋根を走って、人々の頭上を跳ぶ。
次第に警報が止んだのか人が増えてきた。
私達も施設へ辿り着き、皆が集まっているという部屋へ通される。
が、しかし私の目に映ったのは後悔の滲んだ様な皆の表情。
いや、”皆”では無い。
アサヒがいない。
どういう事だ。理解出来ない。
動揺する私に近づく人影が一つ。
特徴的な頭の枝、リンセといったか。
「セーレさんっ!・・・アサヒさんが、アサヒさんが・・・」
玉の涙を浮かべるリンセ。
「どうしたっ!何があったっ!」
リンセの口から漏れ出す懺悔の様な報告。
それを聞いて心の底から湧くのは怒りと焦りだった。
曰く中から謎の水晶を持った三人組が現れ、アサヒと対峙した後、水晶から鎧が出てきたと思ったら連れ去られていたと言う。
三人の内の一人が腕から斧を生やしていたということは今回この街を襲撃した連中の仲間なのだろうか。
状況を聞く限りアサヒはこちら側に対する捕虜として捕らえられたと考えるのが妥当な線。
だが、そうであるなら。いや、そうでなくとも一度ダルグドール殿とは話しておかなければなるまい。
ダルグドール殿が姿を見せたのはそれから二十分程後の事。
私はそのまま足速に過ぎ去ろうとする彼を捕まえ口を耳に近づけた。
「ダルグドール殿。アサヒが連れ去られました」
事実を伝えると彼は目を開き、声を顰める。
「・・・出来るだけの事を手短に頼む」
「はい。私も人伝に聞いたのですが・・・」
現状を知ったダルグドール殿は拳を握り締め、私に指示をした。
「この事は他言無用。そして手出し無用でもあると皆さんにお伝えください。その鎧がこの施設から持ち出された物である事は確実。調査もすぐに済ませます」
「そ、それでは」
・・・私達は何をすれば良いのか。
問おうとした私にダルグドール殿が向けたのは突き放す様な冷たい視線。
「何をすれば、とでも言いたいんですか?正直に言いましょう。この施設の常駐職員三十八名が毒殺されていました。彼らに対する諸々の手続きに加え今度は来訪者の救出を行わなければならない。はぁ。ここまで言って分からないとは思っていませんが、正直あなたがたのお守りをしている余裕は無いのです。学園編入の手続きは終わっています。皆さんは安心して学業に励んでください」
私の抵抗虚しくダルグドール殿はそそくさと去っていってしまった。
私がこの事をどう皆に伝えようか考え始めると
ダルグドール殿は一瞬立ち止まり割と大きめな声で呟く。
「まぁ、個別にお願いする事はあるかも知れませんがね・・・ふっ」
「・・・」
なんだろう。ダルグドール殿に対して抱いていた敬意が今の”ふっ”という変な笑いで崩れてしまった気がする。
なんだ。なんなんだ。彼はその笑いで何を表しているのだ。分からない。
その疑問はその日、夕飯を食べ、風呂に入り、寝台に寝そべって忘れるまでとうとう解かれることは無かった。
そして、翌日。
いつもの稽古を済ませ室内へ戻るとリンセが料理を机に並べていた。
彼女が作ってくれたのだろうか。
「あ、セーレさん。おはようございます」
表情から透けて見えてしまう自責の念。
「やっぱり、分かっちゃいますよね」
目を伏せるリンセに私は声をかけてやれない。
「アサヒさんは私にとても優しくしてくれました。私にとってアサヒさんはとても頼りがいのある・・・お姉さんの様な存在だったんです」
リンセの頬が濡れる。
「リンセ。アサヒはダルグドール殿が責任を持って敵の手から救い出してくれる筈だ」
「そう、ですね」
場を支配するやり切れなさ。
まるで助け舟でも来たかのように連絡用端末から音が聞こえた。
他の数人も気づいたようでその場にいる全員で覗き込む。
『来訪者の皆様。
編入の準備が整いましたので先程皆様の制服を発送致しました。
明日。制服着用のうえ当校受付にお越しください。
国営総合士官養成学校代理責任者ウォン=プライド』
「ようやくですか」
そう呟くのは顔に刺青の入った、確かブォルンと言ったか。
一堂に会した皆の顔を見るとどこか抜けていてダルグドール殿がアサヒを必ず連れ帰ると信じているのだろう。
しかし、なんだ。この不安は。
その不安はすぐにこびりつき拭えなくなる。
その時の私には祈ることしか出来なかった。




