夢を見たその後で 5話 「伝えたいこと、ひとつ」 その4
それから、数日が過ぎた......
pipipipipi........
pipipipipi........
電話が鳴っている........。
まだ、朝の4時だというのに、常識的に考えて普通は電話なんてかける時間帯じゃない。
間違い電話か?
そう思いながらも着信画面を見た。
”田村 美香”
着信画面には確かにそう書いてあった。
美香は電話を出来る状態じゃない。
それじゃあ、一体 誰が電話かけているのだ?
美香のお母さんか?
こんな時間にか!?
まさか........!!!!
「もしもし!!」
「..........朝早く、すみません.......」
美香のお母さんからだった。
こんな時間に電話をかけてくるんだ。よっぽどな事があったのだろう。.......どうしても、嫌な予感が膨らんでしまう。
「もしもし.......どうかされましたか!?」
「美香が..........今朝、亡くなりました」
「.........................!!!!」
やはり、聞きたくない言葉だった。
「最期に松本さんに”ありがとう”と言っていました......大きく苦しむ事もなく......安らかな顔で.....逝きました」
「そう.....ですか......」
「告別式は明日の夕方6時からありますので、娘に最後のお別れを言ってあげてくれませんか?」
「わかり.....ました.....」
いつかはこうなる事は ある程度の予想はしていたが、こんなにも早く..........その時が来るなんて思わなかった。
「だから...今日..で...本当の...お別れ...」
美香が俺に言った最後の言葉..........。
本当にあれで最後になるなんてな。
考えもしなかった。
またしても俺は美香の人生からおいてけぼりを食らったみたいだ。
せめて一言 彼女に伝えたかった。
せめて一言........。
夕方7時
告別式も終わり式場の外に出てきたのだが、未だに信じられない.......。
祭壇の写真の美香は花のように笑っていた.....。あの笑顔の持ち主がもう、この世にいないなんて本当に信じられない。
「............」
美香のお母さんを見かけた。
こちらを見て軽く会釈をすると俺の方に歩いてきた。
「松本さん.......今日は......娘の..美香のために........ありがとうございます」
「この度は.......本当に.......心中お察しいたします」
ダメだ.....声にならない」
「もし良かったらもう一度 美香の顔を見てあげてくれませんか?」
「はい」
親族以外の人がみんな帰った後、家族の待合室に通された。
棺の中の美香は今にも動き出しそうで、綺麗に化粧をされていた......。
親族の人が「誰だろう?」と、俺の方を見ている。
美香のお母さんはその人に「この方は美香と結婚するかもしれなかった人です」
と、説明していた。
別段否定する気はない。
癌にさえかかってなければ本当に結婚して今頃は子供でもいたのかもしれない。
ただ、現実は美香にあまりにも過酷な運命を背負わせたのだ。
「すいません、それでは私はこの辺で.....」
これ以上ここには居たくない.....。
待合室を出て駐車場に向かった。
美香のお母さんも俺と一緒に出てきた。
「俺、美香さんに伝えたかったけど........伝えられなかった事があるんです」
「松本さん........」
「本当は生きてる間に伝えたかったんですが 聞いてもらえますか?」
「............」
「俺は.....心の底から美香の事を尊敬します。そして、いつか俺もあんな風に生きてみたいと思います.....」
もう、流れ出る涙を隠そうとも思わない。
そして、美香のお母さんに背中を向け、ゆっくりと歩き出す。
「娘の.......愛した人が.....あなたで本当に良かったです.....。これからは、美香の事は忘れて、あなたの幸せを見つけてください。きっと、美香もそれを望んでいます」
背中からそう聞こえてきた........。




