第二話 北方戦略 1部
第二話 北方戦略
第一部「五稜郭の密謀」
横浜。
真田幸貞は、約束どおり上杉アイリと合流した。
その傍らには、人間の身体を得たアンドロイドのQueenが立っている。
「お待たせ、上杉!」
「真田艦長。お待ちしておりました!」
「おいおい、また堅苦しいな!」
「ここは人前ですから!」
「はっはっは! そうだったな!」
Queenが静かに口を開いた。
[お二人とも、そろそろ出発の準備をなさってはいかがでしょうか]
「おっと、その前に寄るところがある!」
真田が笑った。
「西郷のところだ!」
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三人が訪れたのは、西郷が経営するサイボーグ技術開発会社だった。
「おおっ! 真田さん!」
西郷が立ち上がった。
「上杉艦長まで! それに……Queenさんですね?」
[はい。初めまして、西郷社長]
Queenが軽く頭を下げた。
「いやぁ、本当に人間みたいですね!」
「おいおい、西郷。人間みたいじゃなくて、今はちゃんと身体があるんだぞ!」
「そ、そうでした!」
「はっはっは!」
久しぶりの再会に、室内が笑いに包まれた。
真田は、福原で江口から預かった資料を差し出した。
「そうだ。江口から預かってきた」
「これは……?」
「健康状態と、サイボーグ部分の改善案だ。研究熱心な西郷社長に渡してくれってさ!」
「江口さんが……!」
西郷の表情が引き締まる。
「必ず確認して、今後の改良に役立てます!」
「頼んだぞ!」
西郷は近況を語った。
横浜では新たな企業や研究機関が集まり、経済活動が急速に活発化していた。
「技術開発だけじゃありません。研究成果を産業へつなげる仕組みが、ようやく動き始めています」
「ほう!」
真田が身を乗り出した。
「技術があっても、それを使う企業と働く人間がいなきゃ国は豊かにならんからな!」
「はい。その流れを全国へ広げられれば、国内の経済にも大きな力になります」
「いい話じゃないか!」
真田は満足そうにうなずいた。
「江口にも伝えておこう!」
だが、西郷が進めている新たな無人空母計画については、詳しい話を聞き出せなかった。
「で、西郷。例の新型空母はどうなってる?」
「それは……まだ秘密です!」
「俺にもか?」
「真田さんにもです!」
「はっはっは! 言うようになったじゃないか!」
西郷は苦笑いした。
「完成したら、きちんとお見せします!」
「楽しみにしてるぞ!」
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それから数日。
真武蔵は北へ向かった。
目的地は北海道。
新たに整備された潜水艦専用施設――
ダイバーズドック。
巨大な艦体を収容するために設けられた、その施設へ真武蔵が静かに入っていく。
[ドックイン、完了しました]
Queenの報告が響いた。
「よし!」
真田が立ち上がる。
「上杉、行くぞ!」
「はい!」
三人が向かったのは、北海道・函館。
五稜郭だった。
かつて幕末の戦いの舞台となったこの地は、今、新たな日本の北方戦略を担う拠点となっていた。
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五稜郭作戦本部。
真田はアイリとQueenを連れ、奥の部屋へ進んだ。
「二人に会わせたい奴がいるんだ!」
「ここは、真田さんが去ったあと、AIが管理していたのでは?」
アイリが尋ねた。
「ああ。それは今も変わらん」
真田は笑みを浮かべた。
「だが、相手はロシアだからな。念には念を入れないと!」
部屋の扉が開いた。
一人の男が姿を現す。
「紹介しよう!」
真田が言った。
「五稜郭作戦本部、本部長――前田夕哉だ!」
男は姿勢を正した。
「前田夕哉と申します! 初めてお目にかかります!」
そして深々と頭を下げた。
「アイリ様、Queen様のお話は、殿よりかねがね伺っております!」
「おいおい、前田!」
真田が笑った。
「話し方が硬い! もっと普通に話せ!」
「も、申し訳ありません!」
「だから、それが硬いんだよ!」
「す、すいません! はっはっは!」
アイリも思わず笑った。
「よろしくお願いします、前田本部長!」
[こちらこそ、よろしくお願いいたします]
Queenも丁寧に応じた。
真田は二人に向き直った。
「前田は、俺たちの要である猿飛部隊の前総長だ」
「猿飛部隊の……!」
「この五年間、中国沿岸部での調略や工作活動を、前線で指揮してきた功労者だよ」
前田は静かに首を振った。
「滅相もありません。ただ、与えられた役目を果たしたまでです」
「相変わらず謙虚だな!」
真田は笑った。
だが、次の瞬間。
その表情が変わった。
「……前田」
「はい!」
「例のものは、配備したか?」
「すでに完了しております」
前田は即答した。
「択捉島北側沿岸。ロシア方面に向けて、約二百基のトマホーク改を配備済みです」
「ほう……!」
真田の目が光った。
「ロシアの偵察衛星には?」
「隠しておりません」
「つまり、フェイクなしで見せているんだな?」
「もちろんです!」
前田は続けた。
「その結果、ロシア軍はカムチャッカ半島への兵器集結をさらに加速させています」
短い沈黙。
そして――
「……ふっ」
真田の口元がつり上がった。
「はっはっはっ!」
「真田さん?」
アイリが怪訝そうに見つめる。
「愉快! 愉快!」
真田は豪快に笑った。
「もっとヤキモキさせてやれ!」
前田も不敵に笑った。
「承知しました、殿!」
ロシア軍は、日本のミサイル配備を警戒している。
だが、それこそが真田の狙いだった。
敵に見せるために配備された、二百基のミサイル。
その本当の意味を、ロシアはまだ知らない。
そして――
真田幸貞の北方戦略は、すでに始まっていた。
――第二部「北方の罠」につづく。




