蕾から
年明けて早々の土地神との出会い、それから三ヶ日が過ぎてついに共通テストまで二週間を切った。
二浪目で糸が切れたと思われていた縁だったが、幽荘を経て別人のように堂々としていた。
非日常な体験もあるせいか動じる事が少なく、集中して勉強に打ち込んでいく。
元々ニートの浪人二年目とは言え、自主的に勉強自体は進めていた。
それを花開かす目標が未来に据えれたのが大きい。
結果がどうであれ一区切りが付く、ラストチャンスに向け追い込んだ。
リビングでは隆二と里子が縁の話をしていた。
「ねえ、隆二さん……縁ちゃん大丈夫よね?」
「……勉強は俺達にはわからん、今で言う中学から高校の時間は二人で生きるのに必死だったからな」
「そうね……だから縁ちゃんには学のある道を進んで欲しいわね」
「まあ親の願いだが、俺達に言える資格はないさ……」
隆二と里子は幽導村最後の家を捨て、十代前半で駆け落ちをした。
高度経済成長期後半、それはもう戦中戦後すぐのような時代では無い。
必死に生きたが拾われた運も良かっただけだ。
「万博工事の会社がよく明らかな未成年を拾ってくれたよ、俺達は学が無い分身体しか使えなかった」
「そうね……夢は夢、その日を生きるだけだった……でもね、幸せよ隆二さん」
「里子……今は縁の未来が俺達の夢だ。見届けてやるさ」
そう言って隆二と里子は二階の自室に居る縁に心でエールを送った。
「じゃ、行ってくるよ」
共通テスト前日の金曜日、朝から荷物を抱えて縁は両親に言う。
その顔は両親にとって非常に凛々しかった。
「縁ちゃん、頑張ってね!」
「縁……ぶつかっていけ!」
両親に送り出され縁は家を出た。
試験自体は明日明後日の二日間だが、前乗りで試験会場になる都心まで出てホテルに泊まる。
初回と二回目の事はあまり覚えていない、流れは同じだが改めて振り返ると、緊張が有り目標の無かった自分だと笑う。
縁は電車を乗り継いで新幹線に乗る。
今や当たり前の文明の利器だが、作ろうとした者達が居たからあるし人は発展を遂げた。
同時に土地を広げ自然資源を削り廃れた場所がある事実。
縁は文明の発展に助けられてきた、幽荘も力を取り入れてはいるが場所的には時代の流れに押された側だ。
今更正解はこれだったと言える事は無い、だが未来に向かって進める。
その想いがあるだけで縁は心がブレずにいた、幽荘管理人のペンダントを見ながら呟く。
「コレを託すまでは俺が管理人だからな」
これから先の長い将来をこじ開ける僅かな共通テストの時間が迫る。
ホテルで勉強をしていた縁のスマホが鳴る。
「……?狐音さんからビデオ通話?」
狐音からのリクエスト表示だった。
オンにして繋げる。
「お、縁よ久しぶりじゃの」
「ご無沙汰してます!どうしました?」
「どうしたも何も明日からなんじゃろ?大事なテストとやら」
「え?狐音さんよく知ってましたね?」
「ふふ、ネコメがソワソワしてての。ならばいっそ激励してやろうとな、のう皆よ」
狐音はそのままスマホを持ち視点を変える。
映ったのはネコメ、ヘビメ、スズメ、ユウメ
「皆さん……」
「お兄ちゃん頑張ってね!応援してるよ!」
「さっさと終わらせて帰りなさい、モデルがあるのよ」
「縁さんなら大丈夫、お顔を見れば気力あるのがわかります」
「うふふ、孤児院からもホラ!」
ユウメは皆の手を借り白い幕を広げた、狐音はスマホを近づけズームにして幕を映していく。
孤児院の子達からの応援メッセージが書かれている。
縁は熱いものが込み上げてきた。
「皆……ありがとうございます!やりきって幽荘に必ず帰りますからね!」
わーわーと画面越しに応援の声がする。
スマホ画面が切り替わり狐音が映った。
「縁よ、人の人生の分岐点に向けた力を見せてみよ……待っとるぞ」
「……ハイ、必ず報告に行きます」
「うむ……じゃあ邪魔したの、またな」
最後に皆を映して通話が終わる。
(いやぁ……コレはずるいな……俺やりますよ!)
縁は再び机に向かい最終確認を始めた。
——静かな空間、紙にかかるペンの音
そして、終了のブザーが鳴る……
「はい、皆様お疲れ様でした」
二日間のテストはあっという間に過ぎた。
縁は手応えはあったが過去二度の苦い経験もあり、開放感までは感じられなかった。
(次は大学入試か、あと一息)
国公立を目標にしてる為、まだ二月は気が抜けない。
しかし、今更どうこうも言えまい。
やるだけの事をやるしかなかった。
本来縁は勉強が出来るタイプではなく、かといって落とすタイプでもない普通タイプであった。
だからこそ二浪した事実がマイナス面で引っ張られ、パフォーマンスに影響。
日常生活も受け入れたつもりであったが、両親からは心配に見えていた。
人間社会では結果の線引きに数字を使う、頑張りましたではダメなシーンが出てくるのだ。
しかし、頑張った上で結果を出すのと頑張らず結果を出すでは、同じ結果でも見られ方が変わる。
納得するかしないかもあり、環境に左右もされる。
一つの結果、数字で大きく振るいに掛けられる社会だ。
今回三度目にして縁は心穏やかであった。
大学入試もすぐに来る、縁は幽荘の体験から芽生えた夢の為に出し尽くす。
季節は冬の終わりを迎えて春が迫っていた……




