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現代幽荘物語  作者: かずや
鎮魂祭

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儂は人では無いよ

 チャプン

 身体の疲れが溶け出している、気持ち良すぎて眠りそうである。

 (狐音さんはまだかな?来たらわかると思うが)

 縁は目を閉じて話したい内容をゆっくり整理していた、色んな事が朧げながら噛み合ってきた。

 どう考えても非現実的な何かがある、そう考えた方が辻褄が合うのだ。

 湯の気持ち良さに気が抜けきった時であった。

 

「ほう、男湯は小さいんじゃの」

 バシャン!!


 縁は飛び跳ねた、全く予想外に狐音が一糸纏わず居たのだ。

「な、なんでこっち来てるんですか!女湯あるじゃないですか!」

「良いではないか、折角話をするなら顔が見たいのう」

 顔どころの話ではない状況に困惑しっぱなしだ。

「全くウブだけは克服せんのお主は」

 恵まれたお身体を持つ美人が現れたら、ウブとかの話ではない。

「……まあええ、何から話すべきかの〜」

 もうこのまま始めるつもりだ、困惑する中で縁はタカから言われていた事を先にぶつけた。


「狐音さん……」

「む?なんじゃ」

「尻尾はあるんですか?」


 尻尾があるか?それを聞いた縁は妖艶に笑いだした狐音に魅入る。そして儀式の時に見せた真剣な顔になり……


「もう隠す必要もあるまい」

 狐音はザバっと立ち上がり縁は反射的に目を覆う、いきなりは心臓に悪い。

 覆った目を少し開き、縁は目を見開いた。

 狐音のボディラインにも目を奪われる。

 だが今はそれすらも気にならなかった。

 くびれた腰と張りのあるヒップ、その根本にはっきりと大きく美しい尻尾が生えている。

 見間違いかと何度も見てしまう。

「お主は今非現実である現実を見ておるよ、確かに尻尾は存在する」

 まさかなとは思っていたものの、心のどこかで否定しきれずにいた。

 一回目はそう言ったアクセサリーかと、二回目はあまりの綺麗さに見えた幻覚かと。

 そして三回目、実物だと証明された目の前で左右に揺らされる尻尾。

 縁は固まり目を見開きはしたが、驚きや恐怖心は無かった。ただただ現実を受け頭の整理に時間を費やした。

「ふふ、儂の自慢の尾じゃよ?触ってみるか?」

 イタズラな顔しながら狐音は尻尾を目の前で振る。

 吸い込まれるようにその尻尾を撫でた。

 (本物だ……湯を弾いてサラサラの……尻尾)

 少し撫でていると、もう終わりだと言うように狐音はゆるりと温泉に浸かり直す。

 正面を向かれると妖しくも美しい狐音の上半身、そして目を逸せない引力がある顔が縁を見据えている。

 

「儂は人では無いよ」

 

 憶測ではあるも、半信半疑で芽吹いていた疑惑に答えを示された。

 狐音に対して抱いていた合わない時系列と容姿、形容出来ない不思議なオーラと目の当たりにした尻尾。

 縁は信じるしか無かった。

「お主は聡い所はあるが内に秘めるタイプじゃからのう、思っていても突く事はせずに抱えたままで幽荘の管理人をしてくれた。感謝するぞ」

 狐音は感謝を述べつつ持ってきていたお酒を二つ注いだ。

「ほれ、ほどほどに呑もうか」

 渡されたお酒、香り的に鎮魂祭の〆に頂いた御神酒のようだ。

 普段は止めるが、今は縁も飲まざるを得なかった。

 すぅと身体に染みる、美味さと癒しが喉から広がり落ち着く。

「儂が人では無い、軽い驚きはあったが思う程慌てんかったのう」

「……ええ、何かが引っ掛かっていて腑に落ちたんです」

「やはりお主は聡い奴じゃのまあええ、儂の存在としてはお主らの言葉で言えば……」

 狐音は空を見て少し考え出てきたようだ。


「狐の土地神じゃな」

「……土地神?神様?」

「様等要らんよ、神にも色々おるんじゃ。儂はこの辺り幽導村を見てきた狐じゃよ」

「……いつから見守ってきたんですか?」

「そうじゃのう……信じるかはお主次第じゃが、世の中が平安と呼ばれた頃か……昔の話じゃ」

 縁はさすがに顔をしかめる、平安とは平安時代と言う事か?さすがに飛躍しすぎな気がした。

「世の中はゆっくりと過ぎていった、お主らの歴史では動乱だとか言われるようじゃな。儂からすれば緩やかに流れる川みたいなもの、たまに増水したり水量が減ったりするが一時的なものじゃ」

「狐音さんはずっと、ここに居る……見守ってるって事ですか?」

「うむ、そして見てきた。お主も知るようにこの幽導村一帯の子供に対する特異性は聞いたろう」

 幽導村の特異性、子を手放しやすいが故に集まる孤児の多さだろう。

「何も今始まったものでは無い、儂が居着いた頃からこの地域は()()()()()として存在しておったのじゃよ」

「そう言う場って、そんな……」

「歴史を知れば不思議な事では無い。幾多の飢饉に疫病、戦争と自身を守る為に子供を生かす為にそうせざるを得ない外の環境じゃった。お主が平和に生きた時間より不安定な時間の方が圧倒的に長い。」

 狐音の言う事は事実のみを連ねている、だが納得できるかは別だ。

「狐音さんはその不安定な物事から子を守る為に幽荘を……?」

「……残念ながら違うのう、儂は人では無いのじゃ。むしろ逆の認知じゃよ」

「逆?」


「遥か昔からこの地域での儂の呼び名は()()()()()()、つまりここに連れて来られ捨てられる子供は儂への捧げ物」

 縁は息が止まる、幽荘の皆を優しく明るく見守っている狐音の扱いは人喰いの怪物なのだから。

「ふ、あくまで人間が勝手に崇め奉り勘違いしただけじゃよ。儂はこの地でただ自由にダラダラしてただけじゃ」

 少しホッとする、縁から見れば実物とイメージの乖離がありすぎる。

「お主達人間は人間以上の力を持つ者に平伏し、何かを捧げて天災から自分達だけでも助かろうとする。儂はそれを生物本能だと気にはせん、だが食わない物を貰っても持て余してくる」

 ごもっともな事だ、子を救う為に自身を犠牲にするかはその時にしかわからない。だがそれをしたところで残された子が絶対に幸せでその先を生きれるかは疑問がある。

 長い時代の中で数えきれない事が起こり、この地に子供が捧げられた……否、狐音に捧げられてきたと言う事だ。

「儂は土地の守り神としてだが、人の神では無い。様々な時代の流れで最もこの村が栄えたのは明治の頃じゃ」

「その時って……文明開花?」

「そう、飛躍的に文化や化学が発達し概念的な神や妖狐なんぞ消えていった。お主らで言う電話がスマホになったみたいなもんじゃな」

「そんな同列に語られても……」

「儂らは永くを生きている、お主ら人間と同じ順応していくもんじゃ」

 狐音が神でありながら縁と対等に居られるのは、順応したからなのだろう。神や妖狐と聞けば何か一段二段とステージが違う先入観がある。

「明治から昭和、世界で人の大きな争いが起きた。侍が刀を振るとはレベルが違う科学力に人々は皆等しく死を近くに感じたじゃろう」

「世界大戦……その時に孤児が爆発的に増えたんですね」

「うむ、孤児だけじゃない。この田舎の村は疎開先になっておりとにかく子供が増えた、忘れかけられた儂の存在もまた引っ張りだされてきたのよ」

「そんな勝手な……」

「それが時代であり歴史じゃ、もう変えられん事よ。少し時を戻し、明治の始めに幽荘の原型である建物がここに建ち儂はひっそり住み着いた」

 幽荘の始まりの時、狐音の始まり……


「ん〜あったまってきたの、のぼせる前にバルコニーで呑みながら話そうか。夜はこれからじゃ」

 バシャと上がり脱衣所に向かう狐音、湯で濡れてはいるが綺麗で立派な尻尾を靡かせ出ていった……

 受け止める覚悟はしていた縁だったが、いざ聞けば衝撃はある。

 狐音が神である事、その狐音が長い間を見てきた事情。全て過去ではあるがネットや本では無い、生の見聞を聞いて縁は大きな歴史を前にしていた。

 

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