鎮魂祭
——炊き上げ台設置所
ガコン!
「よし!そのままそのまま!あと一本だよ!」
縁とジャノメが大の男二人でキツめの丸太を、トラメの指示で組み上げていた。
ガコン!
「よっしゃ!にいちゃん!坊主!よくやった!」
「ふーっ……大変だった……」
「縁お兄ちゃん大丈夫か?」
「後は火の粉散らないように壁建てりゃ完成だ」
必要資材はあらかじめジャノメが用意してくれていたが、ここまで力仕事になるとは予想外な縁であった。
「おう坊主!ここに穴掘れ」
「俺坊主じゃないよ!トラメだよ!」
「ガハハ!そうだったな!トラメ穴掘れ」
なんだかんだで仲良くなってる二人にホッとした縁の視界に、儀装の女性陣が目に入る。
皆美しく清らかな塊に見える、ここに今は祭事広場の陣幕に居る狐音を入れて総勢八名。圧巻だ。
「おぉ……お姉ちゃん達綺麗だ」
「うむ、ヘビメよ綺麗になってうぅぅ……」
「皆さん、もう始まる感じですか?」
「後少しですわね、狐音姐さんが祈りを……」
ユウメは言い終わらない内に陣幕を向いた。
「終わったようですわね、行きましょう」
その一言で皆が祭事の陣幕に向かいだす。
到着した時、幕で見えなかった狐音が見えて縁は目を見開いた。
さっき通った時よりも神聖なオーラが溢れてる、うっすらと狐音が発光してるんじゃないかと思えるくらい綺麗で清い。
呼吸も忘れて縁はただ狐音に魅入る、普段見てる姿とは明らかに違うのだ。
「……綺麗だ」
縁が呟いたと同時に女性陣は狐音を囲むように配置に着いた。
目を閉じ伏せていた顔を上げ狐音は宣言した。
「これより鎮魂の儀を始める」
静かに他の女性陣が円になる、中央は狐音だ。
縁、ジャノメ、トラメの男性陣は少し下がり幕の外から儀を見守る。
言葉を出すのが憚られる空気の中で狐音は目を閉じて、何か祈りの言葉を呟く。
合わせて周りを囲む女性陣も頭を下げて型を取る。
発光していたように見えた狐音の身体から伝染するかのように、円を作る女性陣へと伝わるのが見えてくる。
(本当に光ってる……?)
光が狐音から女性陣へ、そして足元の立っている地面に伝わっていく。神聖な儀である事はもう理解していたつもりだが、ここまで見ると考え及ばない不思議な力はあるのだと理解させられる。
狐音の呟きが止み、ゆっくりと何かに礼をする。そこに何かがあるような、何かが居るような……。
内向きだった女性陣も外向きに変わり、同じく礼をする。
(あはは)
ふと子供が笑ったような声が聞こえてトラメを見た、しかしトラメもこちらを同じ顔で見てくる。
どうやら二人共聞こえたのだろう、ジャノメは頭を垂れて胸に手を当て祈っている。
ジャノメに倣い縁とトラメも同じ姿勢を取った。
長くは無かったが濃い時間を過ごした気がする、狐音が円の中央から外れて一人一人撫でる仕草をしていく。
女性陣が一周すると円から抜けて男性陣の方へ。
トラメ、ジャノメ、そして縁……
最接近した狐音は何か焦点が合わないような印象で、神聖なオーラをこちらに渡すような動作を見せて女性陣の円に戻って行った。
「以上で鎮魂の儀を完了とする……」
最後に美しい動作で一礼をした狐音に釘付けとなった、そして縁には揺れた物が気に掛かった。
(髪……じゃない、腰から……尻尾?)
以前にも気になった事はあったが、この場で付けるアクセサリーでは無い気がした。
「縁の兄ちゃん、終わったよ?」
トラメに手を引かれ我に返った。
「あ、ああ……何か凄かったな」
「うん、お姉ちゃん達神様みたいだった」
「ふっ、神様か!トラメ良い事言うじゃねぇか」
男性陣達がそれぞれ話し合っていると狐音から指示が飛ぶ。
「ほれほれ、皆で精霊柱に火を灯すぞ〜お主らも焚き上げ台完成させとくれ」
最後の火の粉防ぐ壁建てがまだであった、急げ急げと男達は走っていく……狐音に見えた尾はもう無かった。
(見間違い……には思えない)
縁は不思議な感覚に包まれたままだった。
ジャノメを筆頭に縁とトラメで焚き上げ台壁はすぐ完成した、後は皆が精霊柱の蝋燭に火を灯していくのを手伝うだけた。
「お兄ちゃんどうだった?」
やり遂げた感のある顔でネコメから感想を求められる。
「ネコメちゃん、すっごい綺麗だったよ」
「えへへ、嬉しい」
女性陣の中では最年少のネコメ、やはり緊張があったのだろう。無事終わって力が抜けてる。
「これで皆喜んでくれるかな?」
「ああ、今までの子供達が見ても感動したさ」
「そうだと良いな!私あっちも灯してくるね」
パタパタと走り行った側で、ヘビメとジャノメがやり取りをしている。
「ヘビメぇぇお前綺麗になったなぁ!パパ嬉しいぞ〜!」
「やめて、恥ずかしい」
「ジャノメ君、本当親バカになったわねぇ……」
リュウメが呆れて見ている。
「お二人はウチの両親と幼馴染?なんですよね?」
「おう!隆二と里子にリュウメしか居なくてな」
「何よその言い方……と言っても本当なんだけどね」
「ふーん、パパ達はここで何して遊んだの?その頃にはまだ何かあったの?」
「なーんにも無かったぞ」
「そうね、何も無かったわよ」
両親達も認める田舎度合いかと縁は笑う。
「下手したら今の方が充実してんじゃねぇか?ネットもあるわ調理場もあるわ温泉だって設備増えたしよ」
「時代の流れね〜私も孤児院院長やってるけど便利な物増えてるもの」
「パパ、アタシもデジタル化したいペンタブ欲しい」
「ペンタブ?なんだそりゃ?なんかわからんが欲しいなら買ってやるぞ!」
「ジャノメ君はね……昔、子供は厳しく育てなきゃ!って言ってたんだけどねぇ……今は私が厳しくなっちゃったわ」
「そ、そうなんですか……」
子を持つと変わる良い例?なのだろうか、孤児院で大勢の子を相手にするリュウメからしたら甘々な父親なんだろう。
昔話に花を咲かすジャノメとリュウメ、それを興味深く聞いているヘビメを置いて縁は移動した。
せっせと青空ビュッフェを用意するスズメとタカが見え手伝いに入ろうと縁は声を掛ける。
「おや、それじゃあんたも出来た物持って行って貰おうかね」
タカがポンと手渡して来たのは大皿に盛られたゼンマイの煮物だ。
縁は幽荘に来るまでは山菜を食べる経験が無かったのだが、スズメが振る舞う料理に沢山使われているので好物にすらなっている。
「おお、ゼンマイだ美味そう」
「なんだいあんた、若いのに変わっとるね」
やはりイメージ的には少し違うイメージを持たれているようだ。
「いやぁ、スズメさんが料理上手くて山菜の美味しさに目覚めまして」
「あらあら嬉しい事を」
出来た料理を運ぶスズメが言う。
「今日のは更に美味しいですよ〜私の師匠が作ったのですから」
「誰が作っても一緒じゃろうに、ほれ二人で運べアタシはもう歳なんだから動きたくないよ」
タカはそう言って調理場に入ってしまった。
「タカさんご機嫌ですね〜久しぶりに幽荘で皆と一緒ですもの」
「あれでご機嫌なんですか……?」
「タカさん意外と照れ屋さんなんです〜」
それは意外だなと縁は笑った。
「スズメさんの料理もタカさんから来てるんですよね?」
「ええ、私ここ幽荘に来た時は本当に何も出来なくてのんびりしすぎ!ってタカさんが色々教えてくれたのです。おかげで少し出来るようになりましたが……やっぱりお料理敵いませんね〜」
確かにスズメはのんびり気質なタイプだが、特別何かが出来ない風には見えない。むしろ出来ない事は何なのか知りたいぐらいである。
「ほら縁や、もうすぐ料理は全て仕上がるから皆に声掛けといで」
「うふふお願いしますね、縁さん」
縁は皆に料理が出来る事を伝えに調理場を出る。
(あれ?そういえば狐音姉妹とユウメさんどこ行った?)
全体を見てもさっき話た面々しかおらず、姿が見えない。
(部屋に居るのかな?)
コンコン
狐音の部屋をノックしたが気配が無い、ユウメの部屋かと階段を登ろうとした時だった。
「張り切りすぎ……すか」
「全く……としして、もう」
温泉の方からユウメと狐子の声がする。
(温泉に行ったのか?)
そろそろと縁は温泉に向かおうとした時、三人が飲み物を抱えていた所に鉢合わせた。
「うわぁ!」
「おわぁ!なんじゃお主!」
「びっくりした……いえ姿見えなかったので探してたんですよ」
「あらあら心配お掛けしましたわね、お酒とジュースを運んでいたのですわよ」
ユウメが大きな瓶を上げ微笑む、気のせいか顔が赤い。
(いや、気のせいなのか?この三人だぞ?)
「ありがとうございます、美味しかったですか?」
「それはもう儀式終わりの一杯が……あ」
「ユウメちゃん〜黙っとかんと」
「縁も鋭くなりよったの」
やはり先に呑んでいたようだ、全くと肩を落として縁は言う。
「ほらほら、料理が出来たので集合ですよ」
「わーいタカ婆の料理なんて何年ぶりだろ?アタシの蔵から秘蔵の一本も持って来たからね」
「狐子ちゃんは良いですわよね〜毎日呑めるんでしょ」
「いやいや、仕事だから呑めないよ!ユウメちゃんの方こそ狐音と毎日呑んでんだろ?」
「あれ?そういえばそんな気がしますわね?」
狐子とユウメは酒談義をしながら料理の下へと向かって行った。
「ん?どうしました?」
狐音が微笑みながら立ち止まっている。儀式の時にあったオーラは無くなり、普段の狐音だ。
「縁や、ありがとうの」
いきなりのお礼に縁は戸惑う。
「ど、どうしたんですか?」
「なんでもないわい、さあ食べよう食べよう」
微笑んだまま狐音は少し歩き出して振り向いた。
「今日を終えたら少し話をしようの」
今朝にも言われたが、余程話したい事があるのか。
今は考えず縁も料理の場へ歩いていった……




