男の眼
「ほな、まってるからな〜」
狐火酒造への寄り道を済ませて幽荘に帰る。
運転にも慣れてきて縁は当日の流れを描いていた、一周りで送迎出来る事になったが時間的には二時間は掛かってしまう。
「鎮魂祭の時間って何時からですか?」
「例年午前十時に始まるのですが、今年は少し遅く始まるかもですわね〜参加人数も多くなりますし……やる事も復活するでしょう」
「復活?」
「はい、リュウメさんが来られるので孤児院の皆が作った精霊柱を設置しますので〜」
「しょうろうちゅう?」
「柱に見立て、想いや願いを書いた小さな箱に蝋燭を入れてあげるのです。例年は省いてましたが狐音姐さんは折角だし今年は復活させようとおっしゃってましたから」
孤児院の皆が作るとなれば結構な数が予想される、尚更時間かかりそうである。
縁は少し考え……
「ユウメさん、前日にでも僕精霊柱取りに行きますよ」
「あら?宜しいのですか?」
「ええ、前準備出来てたほうが遠方から来る三人に負担も無いでしょう。幽荘の皆も忙しいでしょう?」
「ありがたいですわね、私達も鎮魂祭の陣張りで動けないですから!」
「その陣張り?って温泉工事前にやってたやつですか?」
「そうですわよ〜そう言えばあの陣は管理人さん見れないモノでしたわね、今回はちゃんと見れますので〜」
「じゃあ尚更、僕が出来る事は先取りしますから」
「うふふ、お頼もしい限りでございますわ」
ユウメの笑顔が眩しい、美人にこんな笑顔で頼もしいと言われるのは悪くない。
上機嫌のまま縁とユウメは見えてきた幽荘と、手を振る狐音に手を振り返した。
お盆前日、孤児院のリュウメから精霊柱が用意出来たと狐音から伝えられる。
「数はあるが、車じゃから大丈夫じゃろう。本当に車があって良かったわい」
「この車はユウメさんのですけどね、とりあえず取ってきます!お昼過ぎには帰れるかと」
「うむ、戻り次第設置していくからの!よろしく頼むぞ縁よ」
幽荘の空いたスペースに停めてる黄色いフェラーリ、予想通り浮いた存在感を放っている。
そんな車で山越えだが人間慣れると気にならないものだ。
少し山に入れば青々した木々の葉、夏の風に太陽。ズダーン!と響く多分スズメが何か仕留めたであろう銃声……
「絶対この車で走る道じゃないよな」
苦笑しながら縁は山を走り抜けた。
山を抜け街に入り目的地を目指す、目指すはリュウメが院長務める孤児院「幽導孤児院」だ。
以前にファッションショーでユウメと訪れた際は、衣装回収で寄り道したので時間が掛かったが今日は直接なので思っていたより早い。
(お、見えた見えた)
孤児院が見えてくる、改めて見ると大きな建物だ。
外観古くとも設備が充実している、それは良い面であり悪い面もある。
(やむを得ない事情あるとは言え、子供を手放しやすい場所か……複雑だ)
縁は少し芽生えたモヤを振り払い、孤児院のインターホンを鳴らす。ボロい幽荘と違ってちゃんとインターホン鳴るのが新鮮だ。
「はーい!紬君来てくれたのね、ちょっと待ってねー」
院内の庭では今日も子供達が元気に遊んでいる、ファッションショーで訪れたからか子供達は「お兄ちゃんだ!」と覚えてくれているようだ。
孤児院の扉が開き何人かの子供達も手伝ってダンボール箱を運んでくる。
「いやー助かるよ紬君、これがうちの子達が作った精霊柱さ」
リュウメが一つ見せてきた直方体の箱側面には様々な言葉や想い、絵なども描かれている。
「リュウメ院長、これは?」
箱の中に精霊柱では無い長い巻物状の布一本ある、巻いている具合や長径から相当大きな布だ。
「うん、これは名簿の書き写しになるね……これまでに関わった子達の」
「関わった子達……」
「聞いているかもだけど、長い事孤児院やってると色々な時代の流行り病や事故があるものさ。悲しみを忘れないよう明日弔う用なんだ」
幽導孤児院での歴史で残念な結果を迎えた子はゼロでは無いと改めて突き付けられる。
「……確かに、では持っていきますね」
「うん、ありがとう。それに明日もよろしくね!」
リュウメも色々抱えてやっているのに元気さは失わない、強い人だと縁は感服する。
その時、服を引っ張ってくる子供が居た。
「ん?あれ?確かトラメ君?」
前回のファッションショーで一番やんちゃに見え、孤児院の子の中で印象に残っていた子だ。
「……俺も明日行きたい」
「トラ……あんたまだ言ってるの?」
リュウメが少し困った顔でトラメと目線を合わせる。
どうやらリュウメだけが鎮魂祭に参加するのが納得いかないみたいだ。
「遊べるお祭りじゃないのよ?皆は連れて行けないのよ」
「わかってる、でも俺も手伝いたい。これまでにここに居た皆の為でしょ?」
トラメはなかなか頑固な節が見て取れる、だが意味を理解せず手伝いたいと言っているように見えない。
「トラメ君……明日ウチで誰の為に何をするか言えるかな?」
トラメに聞いてみた、縁は彼から出る言葉を聞いてみたくなったのだ。
「明日これまでの俺達と同じこの辺りで子供だった人に祈りを捧げるんでしょ、俺達より小さかった子も亡くなってるから」
それだけ聞ければ充分だろうと縁は決めた。
「リュウメさん、トラメ君を子供代表で連れていけませんかね?」
「え、それはもちろん嬉しい事だけど……この子に資格があるか……悩んでも仕方ないわね、ちょっと待ってて」
リュウメはスマホを取り出し通話をしようとしている。
資格、時折幽荘に関わる者から聞くワードであるが……ともあれ縁はトラメの気持ちに応えたかった。
不安気な顔をするトラメの頭を撫で少し待つ。
「狐音さん?実はね——」
どうやら通話の相手は狐音のようだ、リュウメはトラメを見ながら話をしている。
「え?そうね、聞いてみようかね。……はい、スピーカーにしたわ紬君」
いきなりスマホを向けられ戸惑う縁に狐音から話しかけられる。
「主よ、その子に来て欲しいと思ったんじゃな?」
縁に迷いは無かった。
「はい、この子トラメ君はこの孤児院と明日の鎮魂祭の背景を理解してます。その上で参加したいと思う気持ちを汲みたいんです」
「……」
狐音は少し考えているのか静かになる。
リュウメもどうしたものかと困り顔である、そして狐音が意外な言葉を出した。
「今からトラメを連れて帰って来るのじゃ、資格が無ければ参加は出来ぬ。資格有りなら今日はお主のとこに泊まらせ明日参加させる、こればかりは来てみんとわからんからの」
リュウメの顔が驚きに変わり狐音へ再確認をした。
「狐音さん、良いのかい?下手したらあんた……」
「構わんよリュウメ、心配しなさんな。縁が感じたままなら上手くいくよ」
「狐音さん……紬君、トラメをよろしく頼むよ」
「はい!」
「トラ、聞いてたね?今から紬君と幽荘に行ってダメなら帰って来る。良ければ今日はお泊まりで明日鎮魂祭に出る。決めるのは狐音さんだからね?」
「うん、わかった。お泊まりの用意してくる!」
トラメは走って行った……
「縁、リュウメきっと大丈夫じゃ。しっかり準備させて気を付けて帰って来い」
「狐音さん……ありがとうね。じゃあまた明日」
スマホの通話が切れ、リュウメは縁に向かいお辞儀をした。
「トラを頼むね、紬君はまだ資格がなんなのかわからないと思うけど狐音さんから言ってくれるはずだから。鎮魂祭終わるまで待ってね」
「すいません、あまり分からないまま進めちゃって……でもしっかり見守りますので」
リュウメは力が抜けたように笑った。




