ネコメとデートの終わり
遅めの昼食を済ませたが、まだ帰るには時間はある。
「ネコメちゃん少しお店見ていく?」
「うん、見てみたい」
「じゃあ見て周ろうか」
二人はゆったりと歩きながら特に目的は無くウィンドウショッピングを楽しむ。
ネコメにとっては店が並ぶだけで未知の体験だし、一つ一つが幽荘の周りには置いていない物ばかりだ。一応女性用のスキンケアやメイクなんかはヘビメやユウメに教わったりしているようだが……
「何か気になるのある?」
「一杯ありすぎてわからなくなってきちゃった」
ぐるぐる目を回すネコメに笑いながらキャパオーバーの一日だなと、新しい事を知っていく妹のように可愛く思う。
ふと前を見ると有名なコーヒーチェーン店がある。
一応女子高生みたいなものだし体験させておくかと手を引いた。
「どうしたの?」
「ネコメちゃん何か飲み物買ったげるよ、あそこ知ってる?」
「ん……あ、聞いた事ある」
「今日はあそこで締めよっか、それでまた来ようよ。一日じゃ周りきれないしね。」
時間的にも区切りを付ける頃だ、丁度良い。
「うん!」
「さて、色々カスタム出来るんだが……難しかったら希望を出すのも良いかな?」
有名全国展開のコーヒーチェーンだがコーヒーだけではない、むしろカスタムによってはコーヒーですらない物になる。
「んっと、えっと……何なのかがわからない……」
ネコメは必死に読み取ろうとするがカスタマイズするには理解が追いついてない。
(俺も初めてチャレンジした時はそうだったな)
何度か利用していく内にわかってくるのだが、新規には慣れない言葉が並ぶ。
「あ、これ」
「ん?おお期間限定のフラッペか、それも良いな」
「私、このメロンのフラッペにする」
「じゃあ俺もそうしようかな」
サイズ選択や材料のカスタムもあったが、どうにか注文を済ませ受け取れた。丁度店内席も空いているので休憩だ。
「ふー、結構歩いたね」
「そうだね、ネコメちゃん足大丈夫?」
「山道に比べたら平気」
考えれば住んでる所が山の中になるから鍛えられているのかもしれない、実際縁も少しだけ身体付きがしっかりした……ような気がしている。
「お兄ちゃん」
「どうしたの?」
「都会って凄いね」
ネコメの純粋な感情だろう、殆ど幽荘から出る事が無い目線なら異世界と変わらないだろう。
縁は逆パターンで田舎どころか幽荘と言うアパートしか無い場所に来たので大自然に凄いと毎日感じている。
ネコメはメロンフラッペの冷たさと甘味に驚きつつ、至福の時を味わっているようだ。
(世代的には高校生なりたてぐらいだもんな、また色々経験させてやりたいな)
縁の思いが、おそらく狐音の意思でもあるだろう。
一応幽荘の主として、特に一番若く経験も出来なかったネコメを一番案じているのが伺える。
「また来ような」
「ありがとうお兄ちゃん」
束の間の休息を満喫し、店を後にした。
車に戻り出発する頃には日が傾きだしていた、夕日が眩しく綺麗だ。
帰る方向と場所的に最大限綺麗な自然の景色が見れるだろう、都会と田舎のいいとこ取りな一日かもしれない。
出発して車の流れはスムーズに流れている、ふと静かだなとネコメを見ればあどけない寝顔が見れる。
「子を持つとかってこんなんなのかな」
縁はらしくない事を呟いた。
あと一山越えれば皆が居る幽荘だという所でネコメが起きた。
「ん、ごめんなさい寝ちゃってた」
「大丈夫大丈夫、疲れたろ?」
「疲れたけど……凄い楽しかった、行けて良かった」
ニコリと笑うネコメは買った本を抱きしめ、今日を思い出しているのか上の空になる。
そんな様子に可愛い子だと思っていれば、山越えをして幽荘に帰ってきた。
「おー二人共帰ったか」
狐音が出迎えてくれる、温泉工事の車が無いとこを見ると今日の作業は終了したようだ。
「ただいま狐音さん」
「おかえりネコメや、どうじゃ楽しかったか?」
「凄かったの、初めて見るものばかりだったの」
「幽荘じゃ見れんものばかりだったじゃろう、ほれ風呂沸かしてやるから荷物置いて来い」
「うん!」
パタパタと自室に入って行ったネコメを見送り、縁も荷物を置きに帰ろうとしたら狐音が笑みを浮かべながら声を掛けてきた。
「ありがとう縁よ、ネコメに都会の経験させてやれたのが嬉しいわい。」
「いやいや、僕は連れて行っただけですよ」
「お主がおるからそれが出来たんじゃよ、中々儂らだけでは難しい事だったからの」
確かに車も無いし、今日の規模の繁華街まで交通手段が無さすぎる現状だ。郊外の街に出るのも一泊二泊するような予定を立てて行っているようだし。
「本当はもっとあの子には外を見せてやりたいところじゃからのう……」
「後々を考えてオンラインの学校勧めたんですか?」
「うむ、時代が進むに連れてついに辺りはここ幽荘だけになったからの」
そう言えばここは「幽導村」の幽荘だ。
「昔は……村?だったんですよね?」
「うむ、村の中でも極小レベルと言って良い村じゃ」
「やっぱり皆出て行ったんですか?」
「そうさのう、それもあるが……お、ネコメや来たか。またお主には話してやるわい」
ネコメの手を引きドラム缶風呂へと向かって行った狐音、何か過去にあったのか?
とりあえずまた話してくれるなら待ってみよう。
縁は一旦自室に帰った。
——チャプン
ドラム缶風呂の淵で湯が跳ねる。
「どうじゃった都会は」
「あのね、人も車も物も沢山あってビルが大きくて——」
今日の事を一生懸命に喋り止まらないネコメ、風呂の火を焚きながら笑顔で聞く狐音。
「ネコメは都会に憧れるかえ?」
「憧れ?んー何でもあって凄いけど……帰るのはここが良い」
狐音は少し驚いた顔をしたが風呂壁でネコメには見えない。
「そうか〜便利じゃが寝るにはちと騒がしいからの」
「うん、それもあるけど……皆居るから」
「……ふっ、ネコメやお主は幽荘が好きなんじゃのう」
「大好きだよ!」
「ふむ、お主は本当に良い子じゃのう」
狐音は夜空を見上げながらそう言った。




