ネコメとオムライス
「……あ」
ネコメが何かに吸い込まれるように手を引いた、店の前にあるショーケースの中で本物に見えるサンプルが並んでいる。
「凄い綺麗……」
綺麗と呟くネコメの目線の先には目を引く黄色に包まれ独特の型を持ち、ブラウンやホワイトにトマトソースで更にビビットカラーとなるオムライスの店だった。
このオムライスの店も高そうな洋食屋とかでなく、全国展開しているいわば大衆的なオムライスチェーン店である。
「ここにする?」
数ある店から今一番ビビッときたのだろう、その感覚はネコメ的に新しい感覚かもしれない。
「……うん!」
決まりだ、早速店に入り案内をされる。席に着いてメニューを見ていく、縁的にはブックタイプのメニュー表が好きなのだが今は大きな店や店舗数がある所はタブレットで注文が普通になっている。
店員とのやり取りが少ないのは機械的で効率は良いが温もりは減ったなと思っている。
とは言え気になるだけで今後スタンダードになる時流だろう、どこかで慣れる。
今は目の前の画面に映るよりどりみどりのオムライスを選ぶのだ。ネコメも選んでいる、それはもう何かを賭けているのかと思うぐらいに眼差しがいつもと違う。
「ネコメちゃんはどれにする?迷うよね」
こくりと頷きタブレットから目を離せないでいる、一台だけなので待つしかないかと壁側を見た時に気が付いた。ブックメニューもあるじゃないか。
「ネコメちゃん、こっちで悩んでみる?」
スッとブックメニューを差し出すとネコメは開いて更に集中し出した。
(思った通り本タイプは没入感があるんだろうな)
タブレットと交換して縁自身のメニューも決めていく。このオムライスチェーン店は利用はあれどヘビーユーザーでは無い、思った以上のメニュー数に目を丸くする。
「へ〜……こりゃ迷うな……」
定番にするかせっかくなら変わり種にするか、特に山の中の幽荘に住んでいる事から来れる機会も多くはあるまい。
「……よし、決めたよお兄ちゃん」
先に決まったのはネコメだった。
「私、このトマトチキンオムライスにする」
ネコメが選んだのは王道中の王道、オムライスと聞けばまず浮かぶ赤と黄色のツートンカラー、中にはチキンライスが詰まるオムライスだ。
「おお、王道か〜じゃあ……俺はこのデミグラスチキンオムライスにしよう」
こちらも洋食屋のオムライスと言えばデミグラスブラウンが掛かるシチュー系オムライス、中身もシチューライスらしい。
タブレットで注文をしてようやく二人は一息を吐いた。
「迷ったね」
「うん、私初めてだから定番って付いてたのにしたの」
ネコメはメニューを見せて指してみせる、確かにメニューブックのチキンオムライスの文字横に「定番!」の一言がある。
「ん?ネコメちゃんオムライス初めて食べるって事?」
「うん、店の前であんなに綺麗なの初めて見た」
ショーケースサンプルに釘付けだったのは珍しい物を見た反応でもあったのか。
「きっと気にいるよ」
「たのしみ」
オムライスが来るまでは、本屋でどんな本を見ていたかや幽荘の温泉がどうなるだろうかの話で盛り上がる。
そうしていれば注文の品が運ばれ、ネコメは全身から感嘆の空気を溢れさせて震えている。
(泣くのは止めてね、俺が吊し上げられちゃうから)
縁はそんな事を思いながらスマホでネコメとオムライスのツーショットを撮った。
シャッター音に気付いてネコメも応戦してくる。お互い撮り終えたら、ついにオムライスを頂く。
見事な半熟玉子のドレススカート状と言うのか、デミグラスソースが螺旋状に広がって見た目が美しい。
対してネコメのトマトソースが掛かるオムライスはオムレツになった玉子が乗っていて、中はきっと半熟にされているだろう。
ふと、縁は思い出して「見ててごらん」とスプーンでオムレツを抑えてナイフで一筋の線を入れてあげた。スッと入った線が左右に広がりチキンライスを覆い隠していく、ネコメの目が見開き驚きを隠しきれていない。
「……っ!……凄い」
しっかり溜めて一言漏らす。
「はいスプーンどうぞ、さあ食べようか」
「うん!」
縁はまず一口、久しぶりに食べたが美味しい。しっかりしたデミグラスソースと中のシチューライス、それらを包む半熟の玉子。たまに食べると嬉しくなる味わいだ。
ネコメも縁の様子を見て一口、すぐに顔付きが緩み聞くまでも無い美味しさを全身で溢れ出させている。
「オムライス気に入った?」
こくこくと頭を上下に振りながらスプーンが止められないようだ。それでもしっかり味わって食べてるのがわかる。
「おいしい……こんな物があったなんて」
オムライス自体作れなくは無いだろうが、幽荘でとなると作ろうとしなければ中々作らないメニューになるだろう。料理をしないネコメにとっては不思議な料理に見えたのかも知れない。
これを機に練習してみても良いかもなと縁は思った。
オムライスを堪能しつつ、せっかく種類違いで頼んだのだからこっちも味わって貰おうと声を掛けてあげる。
「ネコメちゃん、こっちも体験してみる?」
「え!いいの?……ありがとう、あーん」
「んん!?」




