着工、そしてネコメと都会へ
「おはようございます!ジャノメさん方、職人の皆様今日から工事よろしくお願いします!」
「おお!任せとけ!じゃ皆始めっぞ!」
ジャノメ率いる職人達により温泉改修工事が始まる。
幽荘の面々も朝から始まりを見届けている、始まって少しして狐音とユウメが箱を抱えてやってきた。
「ジャノメよ、ここに皆への差し入れ積んどくぞー!邪魔なら退かせといてくれ」
見覚えのある箱だと思ったら狐音とユウメが軽トラで街まで出て行った時に持ち帰った箱である。
「差し入れ用意してたんですね」
「なんじゃ?自分達の酒だけと思ってたのか?心外な」
ちゃんとしてるところはちゃんとしている、それが狐音だとまだ短い付き合いだが分かってきた。
しかし積まれた箱のロゴがどう見てもビールのロゴなのだが、こういう差し入れってお茶とかじゃないのか?
あまり深くは考えないようにして工事を見守る、立ち上がりはシートを張ったり資材並べたりするぐらいで本格的な工事はまだだろう。
「さて、皆ここに居ても邪魔になるからの〜そろそろ退散するぞ」
狐音の一声で各々部屋に戻っていく、縁も戻ろうとした時に手を引かれた。
「お兄ちゃん」
「ん?ネコメちゃんどうした?」
「お兄ちゃん私、本屋さんに行ってみたいの」
「え?本屋?」
「うん、だめ?」
いきなりどうしたのだろう?
ネコメの持つスマホやパソコンならば大抵の事は調べれる、また信じ難いがこんな山の中のポツンとアパートに通販で物が届く時代なのだが……
「私本屋行った事無いの、本屋さんってどんなのか知りたい」
なるほど、本が欲しいと言うより本が沢山置かれてる空間に興味があるのだろう。この若さなら一周回って興味ある所として映るのかもしれない。
縁にとっても参考書の実物を見て選びたいし願ったり叶ったりである。
「よし!行こっか!俺も行きたいんだ」
「ほんと!やったぁ!」
「準備しといでネコメちゃん、用意したら車の所で待っててね」
「はーい」
軽やかに跳ねながら準備をしに自室へ入っていく、よほど嬉しいのだろう。しかし問題は「本屋」があるのかである、昨今の書店数はスマホやタブレットの代頭で激減している。実際縁も都会にある実家で参考書探しに苦労を感じていたぐらいだ、ネットや電子ブック注文もあるのだが勉強物は紙とペンと本が一番強いとさえ今だに思う。
山向こうの街……と言っても程よく田舎感があるので、遠出を覚悟しないといけないかもだ。
本屋を検索してみるが近場にはヒットしない、あって市内まで出るルートで長旅になる。
まだ朝だがスムーズに行けて昼を挟み夕方帰るパターンか……狐音さんに言っておこう。
縁は狐音宅を訪ね経緯を説明した、工事初日で申し訳ないが「気にするな、ネコメに体験させてやってくれ」と快諾してくれる。
そんな事を挟み軽トラに行くとネコメは準備オッケーのようだ。
ヘッドフォンは首に掛かったままだが服装が外行きのヒラヒラした可愛らしいスカートを履いている。
「スズメさんが前に作ってくれたの、やっと着れた」
スズメの器用さには頭が下がる、服まで作れるとは……
「良いね、よく似合うよ可愛い」
ネコメはモジモジと照れ出した、その仕草が更に可愛らしい。
二人は軽トラに乗り込み出発!
道中が長くなるのでコンビニに寄って行こうと走らせてる間に見かけたコンビニに入る。ネコメは店内に入ると見渡して異世界に来たような挙動をしている。
「……もしかしてだけど、ネコメちゃん初めて?」
「うん、凄い沢山あるね」
まさかとは思ったが幽荘から殆ど遠出しないネコメなら納得は出来る。むしろネコメ部屋の良いパソコンと引き篭もる生活に近場のコンビニとは相性が良いけど悪い気もしてしまう。
色々な物に目移りしていたが、目的地はここじゃ無いので飲み物とお菓子を買って車に戻る。
「お兄ちゃんありがとう」
ジュースを買ってあげた事に対してだろう、感謝は表に出せる良い子だ。
買い物を済ませて改めて出発、今回はいつもの田舎味が残る方から街の中心へ向かうので景色も変わってくる。ネコメは外に釘付けで見た事ない建物や人、物の多さに圧倒され出してきている。
「ふふ、今日行く本屋さんある所はもっと都会だよ」
「ふえ〜」
口が開いたまま流れる景色を焼き付けているようだ。
しばらく目的地を目指して話しながら進んでいく、どこか自然が混じる風景だったのが人工的で現代的な物に置き換わる。
「私、知らない風景」
いつから幽荘に居るのかはわからないがネコメの普通は、野山にポツンとあるアパートなのだろう。
実際のコンクリートの街並みが刺激的なのかスマホで写真を撮っている。スマホやパソコンは持つけど住んでいる所は山となるのは、やはり珍しい子になるのだろう。
「ネコメちゃんが見ている風景と幽荘の風景どっちが好き?」
少し意地悪な質問をしてみる。
「今は珍しく見えるけど、落ち着くのは幽荘が良いな」
(まあそうだよな、落ち着きで言えばトップクラスだな)
「お兄ちゃんは?」
「ん?今は俺も幽荘かな、最初は驚いたけどね」
都会から来た縁、今日田舎から出たネコメ。
正反対の境遇だが行き着く先は幽荘になるようだ。
正直言ってここまで馴染むとは思ってなかった、自然の力か人の魅力か。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
少し考え込んでしまったようだ、ネコメが呼んでいる。
「お兄ちゃん、あれがパトカー?」
後ろを見ながらネコメは指差している、初めて見たのか?
「そう……ん?なんだ?ランプ点いた」
「わ、凄い赤だね眩しいね」




