ドラム缶風呂諸注意
日が傾き出し、辺りをオレンジに染め出すようになる頃だった。
ブロロ…ガタガタ…
街の方面、山の細道から軽トラの音が近付いてくる。
「あ、狐音さん達帰ってきたよお兄ちゃん」
ネコメが手を振り車を迎えてる、どうやら無事に帰ったようだが荷台に何か大きな物を積んでいる。
(マジで何買いに行ったんだ?)
狐音運転する軽トラは幽荘の定位置に収まり、美女二人が晴れやかに降りてくる。
二人ともツナギを着てて、いかにも作業員ですと言った見た目だが何か色々と色気が隠しきれていない。
「帰ったぞー!いやー楽しかったのユウメや」
「ええ狐音姐さんとのお出かけ久しぶりでしたわね」
二人はやり切った感を出しながら荷台に被せてるホロを解いている。
「ちょっとちょっとお二人どこ行ってたんですか!いつの間にか軽トラ乗って行っちゃって!」
縁は呆れた顔で二人を見るも効いてない、とても涼しい笑顔だ。
「管理人さんだけにお任せするのは悪いですもの〜あ、これお土産です」
ガチャっと置かれた箱にはビールや日本酒、大量のおつまみやお菓子が大量に詰まっている。
更に別箱を狐音が降ろす、こちらも中が詰まってそうだが…
「こっちは明日からの職人達への差し入れじゃよ」
積み上がる沢山の箱、そういう気遣いは流石だが車はビビるので勝手に乗らないで欲しい。
結構な量の箱を降ろしているが、まだメイン級の二つデカい物が荷台に残る。
「あの、お二人コレは何ですか?」
「うふふ、解いてみて下さい〜そして手伝って下さい〜」
二つの荷物はとても一人では持てそうに無い大きさである、一体何を買ったのか…
「凄い厳重にビニールシートが巻かれているが…あ、解けた、なんだ…?」
中から出てきた一つ目の物は小さな駄菓子屋とか店でアイスが詰まってるガラス戸の冷凍庫だった。
「私、どうしても今回を機に欲しくなっちゃったんですよ」
ユウメは冷凍庫に頬擦りしながら撫で回している、マジで買ったのか。
とりあえず一つは分かった、となるとユウメがもう一つ欲しいと言っていた物から…
姿を表したもう一つの物は牛乳やジュースを立てて陳列しやすい、こちらは全面ガラス張りのボックス型飲料冷蔵庫だった。
「どこでこんなもん見つけてくるんだ…?」
綺麗にされてはいるが新品でないとこを見るにリサイクルショップとかにあるもんなのだろうか?
「管理人さん手伝って下さいまし〜」
考えているとユウメから助けを求める声が、降ろすのは良いがどこに置くのだろう?業務用機械を野晒しには出来ないが。
「一旦調理場に置いといて温泉改修の仕上げに取り付けて貰う手筈になってますわ〜」
となれば調理場まで運ばなければならない、その場に居た縁、狐音、ユウメ、ネコメの四人で頑張って屋内に入れていく。
「ユウメお姉ちゃん、私もアイス入れて良い?」
「もちろん、ネコメちゃんだけじゃなく皆に使ってもらいましょうね〜」
「やったぁ」
「ところで縁の方は完成したのかえ?」
「出来ましたよ!皆に手伝いしてもらって今日から稼働です」
ゾロゾロとドラム缶風呂側に来るとヘビメがまだ絵を描いていた、長い事描き続けてて衰えない集中力が凄まじい。
「おお〜しっかり出来たもんじゃな、脱衣所は…二週間くらいしか使わんのに立派な物建ててくれたのぅ」
脱衣所造りはジャノメとヘビメだが、確かに期間限定にしては勿体無い出来だ。
「ほれほれヘビメ、もうそろそろ暗くなりよるぞ」
「…ん?ああ狐音帰ってきたか、集中してて気付かなかった」
大きく伸びをして絵描き道具をしまい始める、ドラム缶風呂の壁がシンプルな板からカラフルなアート作品へと変貌している。
(二週間後には撤去するの勿体無いな)
芸術については疎い縁でも描かれたイラストや色彩から、何かしらのパワーを感じる。
ヘビメは絵描き道具を戻しに自室へ歩いていきながら言う。
「アタシお風呂入るから縁、火を焚べておいてよ」
ドラム缶風呂一番手はヘビメのようだ、その流れでドラム缶風呂の約二週間運用注意点を伝える為に調理場へ集合を掛ける。
一度着替えたりする人等で住人再集合待ちの間、姿が見えなかったスズメが調理場を使い皆のご飯を簡単に用意してくれた。
「ありがとうございますスズメさん」
「いえいえ、縁さんも一日お疲れ様でした」
普段ほんわかしているが頼れるお姉さん代表のスズメ、そこに現れる酒にダメなお姉さん二人がまずやってくる。
「おお〜美味しそうですわ、スズメさんいつもありがとうございます〜」
「スズメには助けられっぱなしじゃのう!」
掴みどころ無いユウメと一番幽荘を知っているはずの狐音がガヤガヤとやってきて、その後からお嬢さん二人が静かに入ってくる。
「スズメさんお昼も夜もありがとう」
「お腹空いたわ、スズメありがとうね」
優しく可愛らしいネコメにツンツンしてるがしっかり者のヘビメが揃い夕食を囲む。
少し食べ進めたところで縁は本題を切り出した。
「え〜今日からお風呂がドラム缶風呂になります、それで各自注意事項を——」
縁が挙げたのは…
・二人一組の使用(どうしてもの場合は複数人に一人で使う旨を連絡しておく)
薪を焚べて湯を作る為、火が怖い。
怪我の危険もある為原則守って貰いたい事であった。
皆快諾をして今日の順番をキャッキャッと盛り上がりながら話し合っている。
「とりあえずヘビメさんが一番で良いですね?」
縁は先程入りたいと言われていたヘビメを一番に据えて、後は話してくれればと皆に投げておく。
「それと、基本的に二週間は僕が薪管理をやろうかと思ってます」
「なーにー?お主合法的に皆の裸を拝むつもりかー?いやんえっちー」
狐音が揶揄ってくるが何の為に頑張って壁作ったのだ、心外な。
「全く、とりあえず十八時から二十二時までの間火の番しますので、出来たらその間に来て貰えると助かります」
「あら?管理人さんはどこで入るのかしら?」
ふとユウメが縁の風呂タイミングについて疑問を呟いた。
「んー僕は最後の入る人かダメなら都度お願いするか、一人で入りますよ」
「あらダメよ〜管理人さん一人は寂しいわ、出来る限り私にお願いしてね?」
ありがたい事だ、ユウメに続いて我も我もと手を挙げだしてくれたのがまた嬉しい。
「とにかく今日から約二週間、皆さん宜しくお願いしますね」
はーい!と修学旅行生みたいなノリで返事があり先生になった気分だ。
縁は笑いながら「ではお風呂用意してくるので」とドラム缶風呂に向かった。




