お香壺
「…ちゃん、お兄ちゃん」
「縁、しっかりしなさいよ!」
意識が戻りだし声が聞こえてくる…
完全に覚醒したと同時に二人の少女が見えてくる
「あれ…?ネコメちゃん、ヘビメさん……?」
「あんたどうしたのよ?凄い声が聞こえて来たのよ」
「様子見に来たらお兄ちゃん倒れてた…」
心配そうな二人の顔に申し訳なく思いつつ、ハッと壁を見る。
そこには何もないただの壁しか無く、確かに合った「目」は見当たらない。
「確かに合ったんだ…この辺りに人の目が…」
「目?どこによ?」
「お兄ちゃん大丈夫?」
ネコメとヘビメは縁が指し示した壁を見るもそこには何も無いのだ、当然の反応だろう。
「全く、幻覚キノコでも食べたんじゃないの」
「お兄ちゃん疲れてるんだよ、何かあったら言ってね」
二人は大丈夫だろうと判断して帰っていく、少し情けない自分に泣きそうだ。
(確かに目が合ったんだ…確かに)
何かの見間違えと言うには違和感がありすぎる。
思えば引っ越して来た初日から感じている違和感、何かに見られている気配。
霊的なアレなのか?山がすぐそこのポツンとあるボロアパートだ、正直信じてしまいたくなるロケーションではある。
そしてこの経験をしてしまうと次に来るのは疑心暗鬼なのだ。
僅かな風の音、壁のシミ、暗がり、全てが怖く感じてしまう。
原因が判ればまだ気持ちが切り替わるが、今の所自分が勝手に倒れただけと判断されてる現状。詰んでいる。
(ちくしょう、これは数日引きずる…どころかまた見ようもんならどうしよう?ここに住める気がしないぞ)
縁は頭を抱えている。
その時、ドアノックの音がしてビビり倒す。
「は、はい…」
「うふふ、管理人さーんただいま〜」
この声は…しばらく聞いてない声だが、まさか。
ドアを開けた先に居たのは初日に見たモデルさんかと思う程のオーラを放つ美人、ユウメだった。
「ユウメさん!」
「今ヘビメちゃんから聞いたけど叫び声上げて倒れてたって?大丈夫かしら?」
「いや、大丈夫じゃないです…」
「狐音姐さんは外出だし、私が良い物あげるわよ」
そう言ってユウメは掌に収まる大きさの陶器で出来た何かを渡してきた。
「…これなんですか?」
「うふふ、それはねお香壺」
お香壺?あのお香を炊くやつか?
「まずは荒れた気持ちを沈めてからよ、中色々あるけど火事には気を付けてね〜」
ヒラヒラと手を振って笑顔で自分の部屋に帰って行ってしまった。
お香なんて女性は使うかもだが男にはあまり縁のない…でも気遣ってくれた物だし炊いてみるかとセットする。
お香の素があり、どうやら受け皿の上で火を付ければ良さそうだ。
縁は早速火を付けぼんやり眺めた、次第に花の香りを更に濃くしたよな良い香りと薄い煙が部屋に漂っていく。
(あ、なんだろ落ち着く)
ふわっとした感覚に包まれていくのがわかる、お香って凄い。
どんどん眠くなってくる…抗えない……
縁はそのまま深い眠りに着いていた。




