やみつき潮崎シーフードカレー
潮崎町に着いた、私たち――
紅菜「やっぱり、お店閉まってるね」
麗「もう、何年もやってないみたいだね」
琉々「ここじゃないってことかな?」
姫心「また、この前みたいに」
「みんなで手分けして探す?」
紅菜「そうしよう!」
「手分けして探そう!」
* * *
私はひとり――。
海沿いを、自転車で漕いだ。
潮風が、少し冷たい。
(もう少し温かい格好で来たら良かったな〜)
しばらく走っていると――。
海の近くに、広い駐車場が見えてきた。
浜辺では――。
サーファーたちが、波に乗っている。
その駐車場の空きスペースに――。
黄色が目立つ、キッチンカーが止まっていた。
近づくにつれ――。
食欲をそそる香りが、漂ってくる。
〝やみつき潮崎シーフードカレー〟
と、書かれたのぼりが、風に揺れていた。
その時――。
胸の奥が、少しざわつく。
何か気になるかも。
キッチンカーでは――。
2人の従業員が、慌ただしく話している。
湊一「え!? 100食を今週の日曜に?」
電話口を押さえ、双子の兄に聞いた。
「航一、どうする?」
「3日しかないから、今からだと厳しいよな?」
航一「100食はさすがに、人手が足りないよな〜」
「でも、売上欲しいしな〜」
私はピンと来た。
(この人たちのお手伝いをしなさい――ってことだ!)
勇気を出して、声をかけてみた。
琉々「あの〜」
航一「はい! いらっしゃい!」
「何にしますか?」
琉々「あの……私たちでよければ」
「お手伝いしますが……」
航一「へ?」
驚きで、間の抜けた声を出した。
琉々「変に思われるかもしれないですが――」
「神様に、手伝いなさいって言われて……」
航一「え!? 神様!?」
「なんか、わからないけど、めちゃくちゃ助かる!」
「他にも手伝ってくれる子、いるってこと?」
振り返って。
航一「おい湊一、その電話折り返すって言って」
湊一。
電話口を手で押さえて、「OK」と言う。
湊一「すみません」
「ちょっと確認して、すぐ折り返します」
と言って、電話を切った。
航一「君、名前は?」
琉々「織部琉々って言います」
航一「琉々ちゃん、ありがとう!」
「他の友達も、呼んで来られる?」
琉々「はい、呼んで来ますね」
* * *
3人を連れて――。
4人で、キッチンカーに到着した。
開口一番。
紅菜「わ! 美味しそうなカレー!」
「食べたい!!」
麗「あとでね」
航一「君たちが手伝ってくれるって聞いたんだけど、合ってる?」
紅菜「はい、合ってます!」
「手伝うので、カレー食べさせて下さい!」
姫心「ちょっと、話ややこしくしないでよ」
航一と湊一が、顔を見合わせて大笑いした。
航一「もちろん!」
「ちゃんとお給料も払うからね」
「俺は航一、こっちが双子の弟の湊一」
「よろしくね」
湊一「よろしく!」
航一「早速なんだけど――」
「3日後に、カレー100食作らないといけないから、よろしく」
4人で答えた。
「はい!」
航一「今日と明日の朝一に食材を調達するから」
「学校終わったら、ここの住所に来てもらえる?」
琉々「わかりました」
湊一「ほんと、ありがとう!」
「せっかくだから、カレー食べて行ってよ!」
紅菜「やったー!」
* * *
航一「うちのカレーは――」
「取れたての魚介と、スパイスの効いた自慢のカレーなんだ!」
「美味しいよ!」
私たちは――。
シーフードカレーを、ご馳走になった。
一口食べて――。
(あ、これ、本当に美味しい)
濃厚なスパイスの中に、魚介の出汁がじわっと広がる。
紅菜「何これ! 美味しい!!」
凄く美味しそうに食べてる。
気づいたらおかわりしていた。
麗「また、食べるの?」
紅菜「今日はチートデイなの!」
姫心「紅菜は一生チートデイだよね」
航一と湊一が、また顔を見合わせて笑っていた。
* * *
〜次の日の夕方〜
指定された住所に行くと――。
小さな一軒家があった。
ドアを開けると、2人が迎えてくれた。
航一。
湊一。
「いらっしゃい!」
私たちは、厨房に案内された。
掃除が行き届いている、綺麗な厨房。
作業するには十分な広さだ。
航一「早速だけど、お願いしていい?」
紅菜「はい!」
元気よく答える。
航一「じゃ〜、琉々ちゃんと姫心ちゃんは、じゃがいも剥きをお願い」
「麗ちゃんと紅菜ちゃんは、玉ねぎの皮剥きね」
「じゃがいもの黒いところは、無くなるまで削っていいから」
私たちはそれぞれ、持ち場についた。
目の前には――。
ダンボールが、山積みになっている。
姫心「多くない?」
琉々「多いね……」
姫心「終わる気がしない」
そう言いながらも――。
姫心の手は、止まらない。
あっという間に、一個目が終わる。
琉々「え!? もう剥いたの?」
姫心「お寺でよく手伝ってるから」
琉々「凄いね」
さすが、姫心。
* * *
その頃――。
紅菜は、玉ねぎと戦っていた。
紅菜「目がぁぁぁぁ!」
麗「大げさだよ」
紅菜「麗は平気なの!?」
麗「平気」
紅菜「なんで!?」
麗「玉ねぎ耐性あるとか?」
紅菜「そんな耐性あるの!?」
みんなが笑った。
* * *
一時間ほど経った頃――。
航一が大鍋を混ぜながら、話しかけてくる。
航一「本当に助かるよ」
「3日後に、急に100食も注文があってさ」
姫心「どこに届けるんですか?」
湊一「高速のインターに持って来て欲しいって」
航一「高速のインターに届けて欲しいなんて、変わってるよね」
麗「変わったお客さんですね」
航一「そうなんだよね」
「でも君たちが手伝ってくれて、ほんと助かるよ」
湊一「航一、最初は断ろうとしてたんだよ」
「でも、100食って聞いて、鼻息荒くしてたよな」
航一「変なこと言うなよ」
「湊一だって、売上聞いて乗り気だっただろ」
湊一「バレた?」
部屋に、笑い声が広がる。
* * *
しばらくして。
航一「味見する?」
紅菜「します!」
即答だった。
姫心「早い」
紅菜「大事なことだから!」
みんなでカレーを一口食べる。
魚介の旨味が、口いっぱいに広がった。
琉々「美味しい……」
航一「今朝獲れた魚介だからね」
湊一「隠し味もある」
紅菜「何ですか!?」
航一「企業秘密」
紅菜「ケチ!」
航一「商売だからね」
航一が笑って答えた。
* * *
次は野菜のカット。
紅菜は、驚くほど手際が良かった。
湊一「紅菜ちゃん、料理得意なんだ」
紅菜「はい! いつもお母さんの手伝いしてるので」
「料理は得意な方なんです!」
嬉しそうに答える、紅菜。
琉々「神社のおにぎりも、美味しかったよね」
麗「確かに」
紅菜「もっと褒めていいよ?」
姫心「調子に乗るからやめよう」
(意外と家庭的なところあるんだな〜)
* * *
作業は、さらに続く。
大量のニンジン。
大量のキャベツ。
大量のニンニク。
終わらないと思っていた山が――。
少しずつ、減っていく。
(みんなで協力すると、本当に進むんだ)
なんだか、嬉しくなった。
* * *
外は――。
すっかり日が沈んで、暗くなり始めてた。
航一「ここまで進むとは思わなかった」
湊一「奇跡だな」
紅菜「神社部ですから!」
湊一「関係ある?」
麗「多分ないです」
また笑いが起きる。
* * *
全部終わる頃には――。
達成感でいっぱいだった。
航一「みんな、今日は本当にありがとう!」
「また、明日の朝一からお願い出来るかな?」
紅菜「はい、大丈夫です!」
「あの〜……ちなみに、今日のまかないは……」
麗「ちょっと、紅菜〜」
「図々しいよ」
苦笑いしながら、麗が言う。
紅菜「だって、カレー凄く美味しかったんだもん」
「麗だって、また食べたいでしょ?」
麗「ま、まぁ……」
湊一「安心して。今日もちゃんとあるよ!」
紅菜「やったー!」
麗と姫心が、揃って呆れる。
私も、なんとなく笑ってしまった。
カレーを食べながら談笑した。
湊一「神社部って、どんなことしてるの?」
紅菜「天嶽神社の掃除したり、神様のミッションをこなしてます!」
航一「神様のミッション?」
湊一「神様の声が聞こえるってこと?」
紅菜が私の肩を引き寄せ。
紅菜「はい! 琉々が神様の声聞こえるんです!」
航一「へ〜、凄いね」
「あんまりそういうの信じないけど、本当にあるのかもね」
湊一「おかげで、100食作れそうだし!」
「神様さまさまだよ!」
紅菜「私たち、天嶽神社のお祭り復活のために」
「神様のミッションこなしてるので」
「お祭り開催の時は、ぜひお店出して下さいね!」
航一「もちろん!」
「その時はキッチンカー仲間に声かけて、たくさんキッチンカー集めるよ!」
私たち4人は――。
顔を見合わせて、一緒に喜んだ。
(なんか――)
(天嶽神社のお祭りに、一歩近づいた気がする)
(それが、なんだか嬉しかった)
外はすっかり暗くなり、私たちはそれぞれ家に帰った。




